• TSRデータインサイト

2024年「食品業」倒産 4年ぶり600件超 価格転嫁が難しい製造業、卸売業の苦境が鮮明

2024年(1-11月)「食品業」の倒産


 コロナ禍は落ち着いたが、長引く円安で食材や電気・ガス・水道などの光熱費が高騰している。さらに、人件費も上昇し、食品業界は厳しい環境が続いている。2024年の「食品業」(負債1,000万円以上)は11月までに619件(前年同期比10.5%増)に達した。
 食品業界は、製造業、卸売業など、価格転嫁が難しい業態で増勢を強めている。コロナ禍の資金繰り支援で倒産は2021年を底に低水準をたどっていたが、2024年はコロナ禍前の水準に戻すことが確実になった。

 「食品業」の業態別倒産は、製造業171件(同16.3%増)、卸売業231件(同8.9%増)、小売業217件(同7.9%増)だった。
 資本金別は、1千万円未満が393件(前年同期比12.9%増)で最も多く、負債額別も1億円未満が392件(同5.9%増)で、それぞれ約6割を占めた。形態別では、破産が543件(同11.0%増)と約9割(構成比87.7%)を占め、小・零細規模を中心に推移している。

 「新型コロナウイルス」関連倒産は232件(同14.7%減)と、ピークアウト傾向を示している。だが、「物価高」倒産が98件(同12.6%増)で、このうち製造業54件(同12.5%増)、卸売業26件(同44.4%増)と大幅に増加し、食品業界の苦境は続いている。今後は、業績回復の遅れや価格転嫁が難しい中小・零細業者を中心に、売上増の資金需要に対応できない企業が押し上げて倒産が増勢をたどることが危惧される。

※本調査は、日本産業分類の「09食料品製造業」「10飲料・たばこ・飼料製造業」「52飲食料品卸売業」「58飲食料品小売業」の2024年(1-11月)の倒産を集計、分析した。

食品業の倒産推移


【業種別】最多が農畜産物・水産物卸売業の124件

 業種小分類では、最多が「農畜産物・水産物卸売業」の124件(前年同期比0.8%減、構成比20.0%)で、3年ぶりに前年同期を下回った。

 次いで、「食料・飲料卸売業」の107件(前年同期比22.9%増)、「菓子・パン小売業」の76件(同40.7%増)と続く。
 業態別では、製造業171件(同16.3%増)、卸売業231件(同8.9%増)、小売業217件(同7.9%増)で、すべての業態で前年同期を上回った。
 食品業の「物価高」倒産は、98件(前年同期比12.6%増)だった。水産食料品製造業18件(同38.4%増)、菓子・パン小売業14件(同40.0%増)、農畜産物・水産物卸売業(同18.1%増)と食料・飲料卸売業(同85.7%増)が各13件などで、前年同期を上回った。
 「新型コロナウイルス」関連倒産は、232件(前年同期比14.7%減)で、前年同期を下回った。
 コロナ禍の外出自粛や飲食店の休業・時短営業の影響で、食品業界は大きな打撃を受けた。
 その後、コロナ禍は落ち着いたが、円安やロシアのウクライナ侵攻などで食料や原材料の価格が上昇局面に入った。さらに、人手不足による人件費上昇もあって、価格転嫁が難しい製造業や卸売業は厳しい状況にあり、食品業界は業態別でも格差が生じている。

2024年1-11月食品業 業種小分類別倒産状況

【地区別】9地区のうち、7地区で増加

 地区別は、9地区のうち、中部、四国を除く7地区で前年同期を上回った。東北57件(前年同期比21.2%増)と近畿129件(同21.6%増)、九州76件(同5.5%増)が3年連続、中国43件(同2.3%増)が2年連続、北海道25件(同13.6%増)と関東182件(同11.6%増)、北陸12件(同20.0%増)が2年ぶりに、それぞれ前年同期を上回った。
 一方、四国18件(同14.2%減)が、2年ぶりに前年同期を下回った。中部は前年同期と同件数の77件だった。

 都道府県別件数では、増加が30都道府県、減少が13府県、同数4県。
 増減率(件数10件以上)では、増加が奈良266.6%増、岡山83.3%増、長野71.4%増、広島63.6%増、大阪43.5%増、大分42.8%増、青森と埼玉が各41.6%増、愛知30.4%増、兵庫25.9%増、長崎25.0%増、神奈川21.7%増、茨城と三重が各20.0%増、宮城と千葉が各14.2%増、北海道13.6%増、東京7.4%増。
 一方、減少は静岡40.0%減、京都26.9%減、福岡19.4%減。

2024年1-11月食品業 都道府県別倒産状況

人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

中小企業の賃上げ率「6%以上」は9.1% 2025年度の「賃上げ」 は企業の85%が予定

2025年度に賃上げを予定する企業は85.2%だった。東京商工リサーチが「賃上げ」に関する企業アンケート調査を開始した2016年度以降の最高を更新する見込みだ。全体で「5%以上」の賃上げを見込む企業は36.4%、中小企業で「6%以上」の賃上げを見込む企業は9.1%にとどまることがわかった。

2

  • TSRデータインサイト

次世代電池のAPB、経営騒動の舞台裏 ~ APB・大島麿礼社長 単独インタビュー ~

次世代リチウムイオン電池「全樹脂電池」の開発や製造を手がける技術系ベンチャーのAPB(株)が注目を集めている。大島麿礼社長が東京商工リサーチの単独取材に応じた(取材日は4月10日)。

3

  • TSRデータインサイト

コロナ禍で急拡大の「マッチングアプリ」市場 新規参入のテンポ鈍化、“安全“投資で差別化

20代、30代の若者を中心に、恋活や婚活、恋愛の真面目な出会いを求めるマッチングアプリの利用が広がっている。マッチングアプリの運営会社はコロナ禍を境に急増し、社数は6年間で5.6倍になった。2019年3月末の5社から、2025年3月末は28社と6年間で大幅に増えた。

4

  • TSRデータインサイト

丸住製紙(株)~ 倒産した地元の“名門”製紙会社の微妙な立ち位置 ~

2月28日に新聞用紙の国内4位の丸住製紙(株)(四国中央市)と関連2社が東京地裁に民事再生法の適用を申請してから2週間が経過した。負債総額は約590億円、債権者数は1,000名以上に及ぶ。愛媛県では過去2番目の大型倒産で、地元の取引先や雇用への影響が懸念されている。

5

  • TSRデータインサイト

介護離職者 休業や休暇制度の未利用54.7% 規模で格差、「改正育児・介護休業法」の周知と理解が重要

団塊世代が75歳以上になり、介護離職問題が深刻さが増している。ことし4月、改正育児・介護休業法が施行されたが、事業規模で意識の違いが大きいことがわかった。

TOPへ