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あらためて問われるコーポレートガバナンス―2つの象徴的な倒産=2024年を振り返って(9)

 9月に東京地裁から会社更生開始決定を受けた(株)環境経営総合研究所(TSR企業コード: 294046615、以下ERI)は、異例づくめの倒産劇だった。環境に優しい新素材の開発・量産に成功した新進気鋭の成長企業は、脱プラやSDGsの流れを追い風に高い評価を得て、日本政策金融公庫(DBJ)からも出資を受けた。政府系金融機関が増資を引き受けたアナウンス効果は大きく、成長の原動力にもなった。ところが、その内実は代表主導による10倍以上に水増しした売上や架空在庫の操作を通じた粉飾決算によるものだった。

 一連の倒産劇は、資金繰りに行き詰まった代表が粉飾決算をDBJに告白したことからスタートする。事態を看過できないDBJは、ただちに債権者の立場でERIの会社更生手続きを申し立てた。粉飾決算は15年以上にわたったが、その背景には「反社勢力」からの脅しによる資金流出があったという。裁判所に提出された会社更生申立書には、生々しい記録も記されていた。

環境経営総合研究所の本社(入口)
環境経営総合研究所の本社(入口)(TSR撮影)
 

 準自己破産の申請で急転直下、70年以上もの歴史に幕を閉じた船井電機(株)(TSR企業コード:697425274)の破産も、今年の倒産を象徴する出来事となった。ほかの国産家電メーカーとは一線を画した戦略で「世界のFUNAI」と呼ばれ、北米のテレビ市場では高いシェアを誇った。ただ、中国・台湾メーカーの台頭に押されて業績が低迷した。2017年にカリスマ経営者として知られた創業者の船井哲良氏が死去。事業承継を模索するなかで、経営は事実上オーナー家の手を離れ、会社はM&Aの俎上に乗った。

 2021年5月にTOBを通じた株主変更が実施され、上場を廃止。その後の変遷と凋落、混乱と突然死は多くのメディアでも取り上げられた。その詳細は割愛するとしても、従業員は置き去りにされたまま、様々な人物が介入し船井電機を舞台に蠢いた。数多くの実績と歴史を持つ名門企業のあっけない幕切れは、前代未聞という言葉以外に見当たらない。破産手続きの阻止に向けた動きや関連会社の行方など、与信担当者は今も動向に振り回されている。

船井電機の本社

船井電機の本社(TSR撮影)




 ERIは代表主導による独善的な粉飾決算。一方の船井電機は、経営権が創業家から離れたことが、凋落の分岐点になった。両社の経営体制は対照的に映るが、ともにガバナンス(企業統治)が著しく欠如していた点は共通している。その結果、様々な人物や勢力の介入を許して身を滅ぼした。

 ガバナンスが効いていない組織は、その規模に関わらずあっけなく崩壊する。そして、その組織を束ねる経営者が、どのようなビジョンや信念を持って会社を導いていくか。2件の大型倒産は、経営トップの存在と舵取りがいかに重要かをあらためて示す事例となった。


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