メインバンク取引社数増加率トップ、GMOあおぞらネット銀行 ~ 山根武社長 単独インタビュー ~
「2024年企業のメインバンク調査」(8月21日号掲載)で、GMOあおぞらネット銀行はメインバンク取引社数の増加率(取引社数500社以上が対象)がトップとなった。同行は、あおぞら銀行とGMOインターネットグループの強みを生かし誕生したネット銀行だ。
東京商工リサーチ(TSR)は、GMOあおぞらネット銀行の山根武社長に単独インタビューし、成長の背景などを聞いた。
新興ネットバンクながら法人向けサービスを強化する同行。山根社長は「スモール&スタートアップ企業向け銀行No.1を目指し、お客さまの成長とともに我々も成長していきたい」と意気込みを語った。
―歴史や理念について
GMOあおぞらネット銀行は、登記簿上の設立は1994年2月だ。その後、2018年に日債銀信託銀行の法人格(あおぞら信託銀行)を引き継ぎ、 GMOあおぞらネット銀行に社名を変更した。インターネット銀行事業の開始は、2018年7月17日である。
GMOインターネットグループとあおぞら銀行のジョイントベンチャーである同行は、開業6年目という新しい銀行だ。GMOが得意とするインターネットビジネスやマーケティング、システムなどの強みを生かし、あおぞら銀行のリスク管理や金融ノウハウなどをうまく掛け合わせ、これまでにない新しい銀行をつくることができた。
―GMOあおぞらネット銀行の特徴は
親会社のあおぞら銀行も同業であり、同じようなモデルの事業を行いライバル関係になっては意味がない。あおぞら銀行のビジネスモデルにない顧客層をターゲットとし、創業間もない企業にフォーカスしている。
法人については、振込入金口座というバーチャル口座で、他行では初期登録料や月額利用料等が必要なものを無料で提供している。事業開始時より、法人における決済口座としての利用を高め、法人の決済銀行No.1となるべく各種サービスを磨き上げており、個人ではGMOインターネットグループの証券会社との銀証連携によるNo.1を目指すという両にらみでやってきた。
インタビューに応じる山根武社長
だが、3年前の2021年に第二創業と位置づけ、戦略を法人にフォーカスした。特に、創業間もない法人に寄り添う形で商品サービスを提供し、「スモール&スタートアップ企業向け銀行」「組込型金融(BaaS)」「テックファーストな銀行」という3つのNO.1戦略を打ち出した。
毎月、多くの企業から口座開設をいただくが、その多くが創業1年未満の創業間もない企業だ。
創業間もない企業は、社長が何でもやらなきゃいけない。営業、内部管理、経理など一人で行う必要があり、平日の日中は忙しい。
ネットバンクなら移動中や休日に、自分のスマホで資金決済ができる。こういう時間の使い方をされる経営者の方に、我々のサービスの利便性を評価いただいている。
弊行は、2024年8月に法人口座開設数が15万件を超えた。
我々は、後発のネットバンクで、法人・個人双方に向けてフルバンクサービスの提供は難しい。そこで法人に軸足を置き徹底的にサービスを磨き上げているのは、今のところ弊行だけだと思う。これはエンジニアが社内におり、システム開発を内製化している我々だからこそなせる技で、低コストでスピーディーに色々な商品サービスが開発・提供できる。
例えば、API(アプリケーション・プログラミングインターフェース)も全35種類提供しているが、うち28種類は無料で提供している。利用者にとって安価で、かつ利便性の高いサービスを提供していることが同行の特徴だ。
―法人口座の開設について
口座開設では当然、犯収法(犯罪収益移転防止法)等に沿った開設審査や本人確認をする必要があり、厳しく審査している。そのため申し込まれた方すべてが開設できるわけではない。謝絶もあるし、最終的に書類が揃わずに開設できないこともある。
ただ、ネットバンクならではのテクノロジーを活用することで、紙の書類を店頭に持っていく必要がなく、自分で資料をアップロードしてネット経由で申込から審査、開設まで完了する仕組みに利便性を感じる方が多いと思う。実際、書類が完璧に揃って、諸条件を満たしていれば即日口座開設も可能だ。
書類を完璧に揃えることはなかなか難しい。上場企業と違って創業間もない企業には、実態確認をするためのエビデンスがなかなかないところも多い。そのため、「わかりやすいガイドを用意する」、「サポートツールを充実させる」などにも心を砕いている。
―TSRの調査ではメイン行としての存在感が高まっている
新しい企業は、どこに口座を開こうかと考える時に、弊行を選んでくれる方が、最近非常に多い。以前は、ネット完結する手続きの利便性や、他行宛て振込手数料が設立1年未満の企業は月20回無料などのコスト面での経済合理性などが選ばれる理由であったが、最近は、口座開設後の利便性向上施策により開設数が増えたと感じる。特に社会保険料や税金の支払い、日本政策金融公庫の返済などがネット銀行としていち早く口座振替できるよう対応した点が評価されている結果だと思う。
ただ、裏側では苦労した。基本的に口座振替の手続きは紙での対応が主流だ。先方との長期間の交渉で、手続きのスキーム等の検討を両者で重ねた結果、道を切り開くことができた。こうした法人のお客さまのニーズを汲み取り、サービス開発・改修することに、この2年間継続して取り組んできた。そしてようやく花が開いてきたという印象だ。
これだけの開発・改修ができるのも、エンジニアが社内におり、システム開発を内製化しているためで、短期間、スピード開発・提供も同行の強みとなっている。
―融資の審査について
融資に関しては、前提として預金口座を開設していただき、フリー(株)(品川区)が提供しているアプリ「freee入出金管理withGMOあおぞらネット銀行」に、他行の口座情報を含めデータ連携していただく。GMOあおぞらネット銀行だけではなく、他の銀行の口座情報も連携することで、一定期間の入出金データをもとに、融資審査を行っている。
それに加え、社員が顧客へのヒアリングを行い、最終的に融資実行の判断をしている。このアプリにデータを同期していただくだけで、財務諸表や試算表などの提出は一切必要ない。
提供している融資の上限金額は少額ではあるが、我々もお客さまと共に成長し、融資可能額が大きい商品の提供はもちろん、それに合わせて最適な審査モデルを考え、構築していく必要がある。
―今後について
先月(2024年10月)ようやく、業務純益(本業の利益)ベースで単月黒字化が達成できた。今年度は、通年でも黒字化ができるのではないかと思っている。戦略は2021年の第二創業以降、大きく転換していない。法人口座の増加と、そこから生まれる稼働収益で収益基盤と顧客基盤を作っていく。
加えて、もう一つの柱であるBaaS(バース、銀行のサービスを事業者が自社サービスに組み込めるサービス)の提案をこの数年注力している。法人口座から生まれる内国為替等の決済、融資といった稼働収益により、黒字化を果たし資本が蓄積できるようになれば、BaaS事業における更なる投資ができるようになる。これを第二成長の起爆剤としているのが中期的なビジョンだ。
2024年2月に池田泉州ホールディングスのデジタルバンク子会社「01Bank(ゼロワンバンク)」や岡三証券のお客さまに提供する銀行サービス「岡三BANK」など、事業会社だけではなく金融機関も含めた分野にBaaS提供を開始しており、今後も提案を強化していきたいと考えている。
―マイナス金利が解除され、「金利ある世界」となった
我々は、法人をターゲットにした戦略をとっており、その戦略が功を奏し、メインバンクとして決済口座の利用が増加し、結果的に流動性預金が増加している。当社財務的にはマイナス金利解除における影響はプラスになる。
一方、金利がある世界になると、銀行はこれまで以上に預金の争奪戦になっていくのではないか。我々は、法人のメイン口座として使っていただくことによって、非常に粘着性のある預金が集まっているが、預金の動向については日々注視している。
当社のお客さまには中小企業が多いため、金利が上がることによって物価の変動や資金調達コストが上がっていくことによる事業へのインパクトなどは、マクロとしてよく見ていかなければならない。この顧客層が苦戦すれば、それだけトランザクションが減ったりするので、しっかり見ていきたいと考えている。
―足元で企業倒産が増加している
スタートアップ企業や小さな企業も今の経済情勢に対処して、しっかり成長されている企業も多くいる。しかし、コロナ禍後の物価高や人手不足はボディーブローのように効いてきていると思う。
この半年ぐらいは想定よりもデフォルトが多いと感じる。今年度に入ってからは、ローンなどは慎重に見極めながら対応している。お客さまの資金調達への支援のみならず、我々ができる金融サービスの利便性や効率化を高めて、お客さまの事業活動のアシストをしていくことが重要だ。
ネットバンクの勢いが増している。GMOあおぞらネット銀行は、新設企業を中心に中小企業向けサービス強化を相次いで打ち出し、取引社数を急激に伸ばしている。
利便性、効率化、コスト削減は、これまでの金融サービスでは難しい領域だったが、ネットバンクの台頭はその“常識”を抜け出し、サービス競争が激化してきた。
同行の進化が、法人向けネットバンクのベンチマークになりそうだ。
(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2024年12月16日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)