「債務超過」が10年連続の企業は6.7% 債務超過の回数が多いほど生産性が低下
2023年度「債務超過の中小企業」動向調査
2014年度からの10年間で、1回以上債務超過に陥ったことのある企業は23.0%で、4社に1社あることがわかった。一度も債務超過に陥っていない企業は76.9%、10年連続で債務超過から抜け出せない企業は6.7%だった。コロナ禍を挟んだ債務超過の企業率は、2019年度12.5%に対し、2023年度は12.9%で0.4ポイントの差しかなかった。コロナ禍は持続化給付金等の支援も寄与し、債務超過企業の押し上げはみられなかった。ただ、債務超過の回数が多いほど小規模で成長性が低い傾向が強く、生産性向上への支援が急務だ。
債務超過の回数別に平均従業員数をみると、「1-3回」が14.1人、「4-6回」が11.7人と続き、債務超過は小・零細規模ほど多い傾向にある。「(債務超過)なし」は38.0人だった。
また、債務超過の回数別の平均有利子負債額は、「なし」が6億1,200万円と突出し、債務超過が常態化した「10回」は1億2,200万円でほぼ横ばいの推移だった。債務超過でない企業ほど投資や事業活動が活発で資金需要が膨らみやすい。一方、債務超過など財務内容がぜい弱な企業は金融機関からの借入が難しく、元本返済ができず利払いにとどまったり、役員等からの借入で返済している可能性を示唆する。
平均売上高は、「(債務超過)なし」が18億8,100万円で、債務超過が「1-3回」の4億8,800万円の3.8倍となり、債務超過の回数が少ないほど平均売上高は大きかった。従業員1人当たりの売上高も「なし」が4,900万円に対し、「1-3回」が3,400万円、「4-6回」が3,100万円と回数が多いほど減少し、債務超過の回数が生産性にも相関していることが鮮明に表れた。
※本調査は、東京商工リサーチ(TSR)が保有する財務データベースから、2014年4月期以降、連続10期(変則決算を除く)の財務データのある中小企業15万1,547社を抽出し、分析した。中小企業の定義は「中小企業基本法」に基づく。
※2014年度から2023年度までに債務超過となった決算回数を企業別で集計し、債務超過回数別で従業員数・有利子負債・売上高を集計した。
10年間一度も債務超過にならなかった企業は76.9%
2014年度から2023年度まで、10年連続で財務データが比較可能な中小企業15万1,547社のうち、一度も債務超過に陥ったことがない「(債務超過)なし」は、11万6,686社(構成比76.9%)だった。一方、10年間、債務超過を解消できなかった企業「10回」は1万170社(同6.7%)みられた。
産業別での「(債務超過)なし」の構成比の最高は、金融・保険業の92.5%。次いで、卸売業90.8%、情報通信業87.6%が続く。一方、10年間、債務超過を解消できなかった企業の構成比の最高は、建設業の9.3%だった。
平均従業員数 債務超過回数「なし」は安定増加、債務超過回数が多いほど減少傾向
2023年度の債務超過回数別で平均従業員数をみると、「(債務超過)なし」が38.0人と突出して多い。以下、「1-3回」が14.1人、「4-6回」が11.7人、「7-9回」が9.4人、「10回」が6.3人と続き、債務超過の回数が増えるほど平均従業員数が減少している。
10年間の推移は、「なし」が2014年度34.8人から2023年度38.0人へ3.2人増、「1-3回」が同13.9人から同14.1人へ0.2人増に対し、「4-6回」「7-9回」「10回」では平均従業員数が減少、もしくは横ばいの推移となっている。
債務超過回数が多い企業ほど、雇用数が減少する傾向が表れた。
平均有利子負債額 債務超過回数が少ないほど有利子負債が膨らむ
2023年度の債務超過回数別の平均有利子負債額は、「(債務超過)なし」が6億1,200万円だった。一方、債務超過回数が「1-3回」「4-6回」は2億円前後、「7-9回」「10回」は1億2,000万円前後にとどまり、格差が大きい。財務内容が健全な企業ほど負債が膨らむが、これは事業拡大に伴い金融機関からの資金調達が円滑なことを示している。
コロナ禍ではゼロゼロ融資など資金繰り支援もあり、多くの企業が資金調達できたことから、2020年度は債務超過回数に関わらず有利子負債が膨らんだ。だが、資金繰り支援が終了・縮小すると、「なし」「1-3回」「4-6回」は、2022年度に比べ2023年度の有利子負債額が増加した。
一方、「7-9回」「10回」は、対照的に減少し、新たな資金調達の難しさを示している。
平均売上高 債務超過回数が多いほど売上高は低い
2023年度の債務超過回数別の平均売上高は、「(債務超過)なし」が18億8,100万円で最も高く、2番目に高い「1-3回」4億8,800万円の3.8倍と突出した。このほか、「4-6回」が3億7,100万円、「7-9回」が2億1,700万円、「10回」が1億3,100万円と続き、債務超過回数が多いほど平均売上高が低いことが鮮明に表れた。
2014年度から2023年度の10年間の平均売上高の推移は、「なし」が16.1%増、「1-3回」が3.6%増と伸長した。一方で、「4-6回」は0.5%減、「7-9回」は4.4%減、「10回」は8.3%減と、債務超過の回数が多いほど売上は縮小している。
また、2023年度の従業員1人当たりの売上高は、「なし」が4,900万円とトップだった。以下、「1-3回」が3,400万円、「4-6回」が3,100万円と続き、債務超過の回数が多いほど1人当たりの売上高が低い傾向がある。
2024年度上半期の企業倒産は5,095件(前年同期比17.8%増)で、年度上半期では10年ぶりに5,000件を超えた。こうしたなか、今回の財務分析では、10年間、一度も債務超過に陥ったことがない企業が7割を超えた一方、債務超過から脱却できない企業が6.7%(1万170社)あることがわかった。
債務超過が常態化した企業は生産性向上が難しく、単純再生産の状態が続いている。「金利のある世界」に戻ったことで事業継続リスクが高まっており、ビジネスモデルの転換が急がれる。
こうした企業は財務基盤がぜい弱なだけに、将来への投資も難しく自力での立て直しがままならない企業が多い。コロナ禍を経て、中小企業対策が資金支援から再生支援に転換するなか、政府や自治体、金融機関を中心に、廃業支援を含めた私的整理や事業再生への取り組みが早急な課題に浮上している。