• TSRデータインサイト

ゾンビ企業との「取引あり」は12.1% 回収に「問題なし」約7割、適切な支援で成長を秘める

 「ゾンビ企業」との取引に関するアンケート調査

 「ゾンビ企業」に明確な定義はない。世界決済銀行(BIS)などの定義はあるが、「健全な経営状態ではないにもかかわらず、融資や補助・助成金などにより倒産や廃業を免れている企業」との認識は広がっている。
 だが、今回のアンケート調査で、窮境企業への個別支援だけでなく、広い視野に立ち、支援の枠組みを拡充すると、「ゾンビ企業」から抜け出し、経済活動を押し上げる可能性を秘めていることもわかった。

 東京商工リサーチ(TSR)のアンケート調査で、「ゾンビ企業」と取引があると認識する企業は12.1%だった。こうした窮境局面にある企業との取引量は、それ以外の企業より「減少」が43.3%だった。これは過剰債務を抱え、生産性や稼ぐ力が課題の企業は、成長投資ができず競争力が落ち、自然と取引ボリュームが先細っていることを物語る。
 また、こうした企業の取引先は、与信面から取引枠に上限を設けたり、積極的な営業を避けている可能性もあり、円滑な取引で収益機会の最大化が図られていない構図が浮かび上がる。
 「ゾンビ企業」からの債権回収は、「期日を超えて入金される傾向にある」との回答が29.6%と約3割だった。一方、「回収状況に大きな差はない」は65.2%と過半数を大きく超えた。債権回収のリスクヘッジなどリスクマネージメント体制を構築し、こうした企業と適切な関係性を築くことで、自社の業績拡大に貢献するパートナーと位置づけることは可能なようだ。
 今回の調査で、窮境状態でも期日通りの支払いは高い割合で履行されていることがわかった。過去の資金繰り支援やコロナ禍を経て、過剰債務に陥った企業でもバランスシートや収益環境を改善できれば、取引ボリュームが増え、日本経済の底上げの切り札になる可能性を残している。

※本調査は、2024年10月1日~8日に、インターネットによるアンケート調査を実施し、有効回答5,443社を集計・分析した。
※資本金1億円以上を大企業、1億円未満(個人企業等を含む)を中小企業と定義した。


Q1.健全な経営状態ではないにもかかわらず、融資や補助・助成金などにより倒産や廃業を免れている企業を「ゾンビ企業」と呼ぶことがあります。貴社はこうしたゾンビ企業と思われる企業と取引がありますか?(択一回答) 

取引先に「ある」 12.1%

 ゾンビ企業との取引の有無を聞いた。「仕入先にある」は2.8%(5,443社中、156社)、「販売先にある」は5.9%(325社)、「両方にある」は3.2%(178社)で、合計12.1%が取引を有している。
 「取引がある」と回答した企業の業種別(中分類、回答母数10以上)は、最多は「貸金業,クレジットカード等非預金信用機関」の36.3%(11社中、4社)、「物品賃貸業」34.1%(41社中、14社)が続く。業種柄、取引先は多岐に及ぶが、審査体制が確立し、取引先への評価の眼が厳しいことが背景にあるとみられる。

Q1.「ゾンビ企業」と思われる企業と取引がありますか?(択一回答)【取引先に「ある」 12.1%】


Q2.Q1で「仕入先にゾンビ企業」「販売先にゾンビ企業」「両方にゾンビ企業」と回答された方に伺います。ゾンビ企業と思われる企業とそれ以外の企業を比較すると、ここ数年(3-5年)の取引量はどのように推移していますか?(択一回答)

「減少」が43.3%

 Q1で「取引がある」と回答した企業に、取引量の変化を聞いた。636社から回答を得た。
 トップは「大きな変化はない」が50.0%(318社)で半数を占めた。ただ、「増加」は6.6%(42社)に対し、「減少」は43.3%(276社)と大きく開いた。
 回答を業種別(中分類、回答母数5以上)で分析すると、「増加」は、「その他の製造業」が20.0%(5社中、1社)でトップ。ノベルティの製造機器を手掛けている企業が該当した。
 「減少」は、最多は「繊維・衣服等卸売業」の88.8%(9社中、8社)で、建築設計や機械設計、測量などの「技術サービス業」が80.0%(5社中、4社)で続いた。

Q2.ゾンビ企業と思われる企業とそれ以外の企業を比較すると、ここ数年(3-5年)の取引量はどのように推移していますか?(択一回答) 【「減少」が43.3%】


Q3.Q1で「販売先にゾンビ企業」「仕入先・販売先、両方にゾンビ企業」と回答された方に伺います。ゾンビ企業と思われる企業からの債権の回収状況は、それ以外の企業と比較してどのような状況ですか?(択一回答) 

「期日を超えて入金」が29.6%

 債権の回収状況(期日との比較)について聞いた。

 ゾンビ企業とその他の企業に「大きな差はない」は65.2%(483社中、315社)だった。また、「期日までに入金」は5.1%(25社)、「期日を超えて入金」は29.6%(143社)と20ポイント以上開いた。
 「期日を超えて入金」と回答した企業を業種別(中分類、回答母数5以上)で分析すると、トップは「物品賃貸業」の80.0%(10社中、8社)。以下、「設備工事業」の62.5%(8社中、5社)、「機械器具小売業」の60.0%(5社中、3社)と続く。

Q3.ゾンビ企業と思われる企業からの債権の回収状況は、それ以外の企業と比較してどのような状況ですか?(択一回答) 【「期日を超えて入金」が29.6%】

人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

「社長の出身大学」 日本大学が15年連続トップ 40歳未満の若手社長は、慶応義塾大学がトップ

2025年の社長の出身大学は、日本大学が1万9,587人で、15年連続トップを守った。しかし、2年連続で2万人を下回り、勢いに陰りが見え始めた。2位は慶応義塾大学、3位は早稲田大学と続き、上位15校まで前年と順位の変動はなかった。

2

  • TSRデータインサイト

内装工事業の倒産増加 ~ 小口の元請、規制強化で伸びる工期 ~

内装工事業の倒産が増加している。業界動向を東京商工リサーチの企業データ分析すると、コロナ禍で落ち込んだ業績(売上高、最終利益)は復調している。だが、好調な受注とは裏腹に、小・零細規模を中心に倒産が増加。今年は2013年以来の水準になる見込みだ。

3

  • TSRデータインサイト

文房具メーカー業績好調、止まらない進化と海外ファン増加 ~ デジタル時代でも高品質の文房具に熱視線 ~

東京商工リサーチ(TSR)の企業データベースによると、文房具メーカー150社の2024年度 の売上高は6,858億2,300万円、最終利益は640億7,000万円と増収増益だった。18年度以降で、売上高、利益とも最高を更新した。

4

  • TSRデータインサイト

ゴルフ練習場の倒産が過去最多 ~ 「屋外打ちっぱなし」と「インドア」の熾烈な競争 ~

東京商工リサーチは屋外、インドア含めたゴルフ練習場を主に運営する企業の倒産(負債1,000万円以上)を集計した。コロナ禍の2021年は1件、2022年はゼロで、2023年は1件、2024年は2件と落ち着いていた。 ところが、2025年に入り増勢に転じ、10月までの累計ですでに6件発生している。

5

  • TSRデータインサイト

解体工事業の倒産が最多ペース ~ 「人手と廃材処理先が足りない」、現場は疲弊~

各地で再開発が活発だが、解体工事を支える解体業者に深刻な問題が降りかかっている。 2025年1-10月の解体工事業の倒産は、同期間では過去20年間で最多の53件(前年同期比20.4%増)に達した。このペースで推移すると、20年間で年間最多だった2024年の59件を抜いて、過去最多を更新する勢いだ。

TOPへ