企業の「推定調達金利」1.03% コロナ禍の支援終了で、金利は上昇傾向へ
2023年度 企業の「推定調達金利」調査
2023年度に企業が金融機関等から資金調達した際の「推定調達金利」(以下、金利)は、平均1.03%だった。コロナ禍で企業の資金繰り緩和に大きな効果をみせたゼロゼロ融資の金利は平均1.2%程度とされるが、返済開始までに猶予があった。また、利率を引き下げた特別貸付や「リアルタイム方式」の利子補給などで、企業が資金調達する際の金利は低下し、2020年度から3年連続で1%を下回っていた。だが、コロナ関連融資の縮小・終了などに伴い、2023年度は4年ぶりに1.0%を超えた。
マイナス金利の解除直後の2024年4月、東京商工リサーチ(TSR)が実施したアンケートでは、「金融機関から金利引き上げについて言及された」と回答した企業が30.8%にのぼった。企業の調達金利はすでに上昇局面にあるが、政策金利の引き上げでさらに上昇する可能性が高い。
2022年度から2023年度に金利は0.06ポイント上昇した。前述のアンケートでは、既存金利より「0.1%」上昇すると借入断念や他行に打診するとの回答が22.6%だった。「0.3%」上昇では、同様の回答が62.6%にのぼる。これらを踏まえ、今後、金利がマイナス金利導入前の2014年度の1.27%の水準まで上昇すると、半数近い企業が資金調達への姿勢を変える可能性もある。
日本銀行は7月31日、政策金利を0.25%に引き上げる追加の利上げを決定した。17年ぶりの「金利のある世界」は、事業者と金融機関の両者にとって大きな環境の変化となることは確実で、今後の調達金利の推移に注目が集まる。
※本調査の対象は、財務データ上に有利子負債および支払利息割引料のある企業53万1,405社(2023年度)を抽出、分析した。
※推定調達金利=支払利息割引料/有利子負債とし、各年のデータの最大値および最小値からそれぞれ5%を除外して平均値を算出した。
2023年度の金利は平均1.03%、4年ぶりに1%超でコロナ禍前の水準に
2023年度の推定調達金利は1.03%だった。近年、金利は低下基調にあり、データの集計対象とした2015年度から2021年度までの期間には、2017年度から2018年度を除いて金利の低下が続いていた。
コロナ禍ではゼロゼロ融資など、企業支援のために低金利や実質無利子での貸付が行われたことで、金利は1%を下回った。しかし、各種支援の縮小・終了とともに、2022年度以降は上昇に転じ、2023年度は4年ぶりに金利が1%を上回った。
2024年3月の金融政策決定会合で、日銀はイールドカーブコントロールの撤廃とマイナス金利の解除を決定した。その後、7月の会合では、追加利上げにより政策金利が0.25%程度まで引き上げられた。日銀総裁は引き続き利上げの姿勢を維持するとしており、2024年度の調達金利はさらに上昇することが見込まれる。
【産業別】卸売業、運輸業、情報通信業、製造業が1%台
産業別の金利を分析した。2023年度の金利が最も高かったのは、卸売業の1.49%だった。卸売業では、在庫などの運転資金を中心とした資金調達が多く、もともと他業種に比べて金利は低い傾向にあった。しかし、輸入企業が多いなか、米国の利上げなどを背景に2022年度以降は2年連続で大幅に上昇し、業種別で最大となった。
建設業は2015年度から9年連続、サービス業他は2年ぶりに金利が低下した。
金利が最大の卸売業(1.49%)と最小の農・林・漁・鉱業(0.76%)の差は0.73ポイントだった。低金利のなかで産業間の金利差は縮小傾向にあったが、コロナ禍を経て再び産業ごとの事業環境の違いが金利にも反映しつつある。
業種別(中分類、母数20以上)では、金利が最も高かったのは各種商品卸売業の1.93%だった。以下、インターネット附随サービス業の1.84%、水運業の1.70%と、ドル建て比率の高い企業の影響が大きい業種が続いた。
デフレのなかで長年続いてきたマイナス金利政策に加え、コロナ禍での各種支援による低金利や実質無利子の貸付により、企業の調達金利は2022年度まで1%を下回る水準で推移していた。
しかし、コロナ禍の収束に伴って金融機関の対応が平時に戻り、2023年度の金利は再び1%台となり、コロナ禍前の金融環境に緩やかに戻りつつあることがわかった。
また、2024年3月には日銀がマイナス金利の解除を決定し、7月には0.25%まで政策金利が引き上げられた。政策金利の上昇が直ちに個々の企業における借入金利の上昇につながるわけではないが、マイナス金利の解除以前からすでに平均調達金利は上昇傾向に転じており、2024年度の企業における金利はさらに上昇することが見込まれる。
コロナ禍で過剰債務を抱えたままの企業を中心に、金利の上昇は設備投資や賃上げにとってマイナスの影響となることも懸念される。