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テクノロジーの力でM&A情報の民主化を MANDA・森田洋輔社長 単独インタビュー

 経営者の平均年齢は年々高齢化が進み、2023年は63.76歳(前年63.02歳)と最高齢を更新した。後継者難による倒産も増加(※1)し、事業承継は待ったなしの状態だ。
 だが、親族承継にも限界があり、2019年に政府は「第三者承継支援総合パッケージ」を策定し、10年間で60万者(社)の第三者承継を促す方針を打ち出した。金融機関やM&A仲介会社も取り組みを進めているが、M&Aに要するコストや情報の非対称性、悪意ある承継者(買い手)の出現など課題が山積している。
 東京商工リサーチ(TSR)は、M&A情報の検索サービスを展開するMANDA(株)(TSR企業コード: 032425732、千代田区)の森田洋輔社長に、業界の現状とあるべき姿などを聞いた。

※1 TSRの調査では、2024年上半期(1-6月)の「後継者難倒産」は254件(前年同期比20.9%増)で、調査を開始した2013年以降で過去最多

◇森田洋輔氏
 慶應義塾大学理工学部卒
 ベンチャー企業を経てヤフー(株)に入社。オークションサイトやeコマース関連事業を担当する。
 その後、二次元コード決済サービスの立ち上げ主導
 2018年にヤフー時代の同僚とMANDAを設立し、代表取締役社長に就任した。

―事業承継の難しさは

 私が中学生の時、繊維を扱っていた企業のシステム担当をしていた父親が独立し、ソフトウェア開発会社を始めた。その後、私は大学を卒業し、東京でヤフーの決済サービスの開発などを手がけていたが、父親が脳溢血で死去した。事業を継ぐ選択肢もあったが、東京でがむしゃらに働いていた時期であり、地元に戻って中小企業を継ぐことに抵抗があった。結果的に父親の会社は廃業することとなった。振り返ると、父親の会社を第三者に引き継いでもらえれば、私自身は仕事を続けつつ、従業員や取引先に迷惑をかけることはなかったかもしれないと思った。

―2016年に親族が経営する企業を承継した

 妻がまつ毛サロン店を運営していたが、経営をやらないかと相談された私は、父親の背中を見て起業マインドもあったため、2016年に妻の会社を引き継ぐことにした。現在もまつ毛サロン店の代表取締役を務めており、2カ所だった店舗を6カ所まで増やすこともできた。

―MANDA設立のきっかけは

 妻の会社の代表に就任して経営に携わるようになったこともあり、事業承継のニュースが目に留まる機会が多くなった。また、父親がどのような気持ちで経営に携わっていたかが思い起こされ、事業承継やM&Aが置かれている状況を詳しく調べるようになった。その過程で、仲介が主体の日本のM&Aには課題があると感じた。
 M&Aの買い手、売り手の双方から、仲介会社の話を聞く機会があったが、紹介料が高く、サービス内容にも満足していないという声が多くあった。仲介会社の多くは、売り手と買い手の情報を集めているため、どちらかにしっかりと寄り添うことができず、本当に求められているアドバイスができていないと感じた。このため、「情報の民主化」につながるような事業計画書を策定し、ヤフー在職時の仲間にも声をかけ、2018年にMANDAを設立した。

―「MANDA」サービスの特徴は

 M&A仲介業者は、各社がそれぞれのフォーマットで売り手の情報を発信している。弊社では公開されている売り案件の情報を収集し、1つのデータベースとして取り扱っている。売り案件を検索する場合、例えば、「関東」「建築」といったワードを入力するだけで、該当企業がヒットする。
 各社のプラットフォームすべてを確認するのは大変だが、MANDAでは1回の検索で可能だ。これが無料で使えるのが特徴で、同業他社との差別化につながっている。


森田洋輔・代表取締役

―旅行プランの横断検索サービスのようなイメージか。事業の収益化は

 そうだ。マネタイズ(収益化)は、大きく3つある。1つ目は「MANDA」トップページのバナー広告。2つ目はM&Aプロセス支援ツール「クラウドM&Aディールマネージャー」の月額固定料。3つ目はM&Aアドバイザリー会社からの手数料だ。

―M&Aディールマネージャーとは

 会社のM&Aに携わろうとしても、専門の知識を持ち合わせていないケースもある。そこで、相談受付のタイミング、打ち合わせ手順、契約書の雛型を用意した。これにアクセスし、順序立ててタスクを実行していけば、M&Aの実務が完了するサービスだ。

―既存のM&A仲介会社との棲み分けは

 顕在化していないM&Aもあるため、市場は現在よりもっと大きいと考えている。小さいパイを取り合うのではなく、事業承継の課題を解決するためには抜本的に仕組みを変えていかなければならない。
 経営者の中には、自身の会社の売却を考えても売り方が分からない方もいる。また、知り合いの経営者や税理士に相談しても、適正なサービスの紹介を受けることができないケースもある。適正なサービスとは「買い手を探すこと」だ。買い手のネットワークがなければ買い手を探すことはできない。買い手のネットワークがデータベース化され、簡単にアクセスすることができれば、買い手探しは簡単になる。
 今後、M&A仲介業者に求められる役割も変わってくるはずだ。売り手・買い手を探すことは、テクノロジーで簡単にできるようになる。そうなった時に「アドバイザー」として的確なアドバイスの提供などに業務が変わる可能性がある。

―士業との関わりについて

 金融サービスを手がける企業からの紹介で、2020年に一般財団法人日本的M&A推進財団(TSR企業コード: 872515877、福岡市中央区)と業務提携した。この財団は税理士が母体となっており、全国800以上の士業団体のネットワークで構成されている。税理士は顧問先の事業承継に危機感を抱いている。横のつながりでM&Aを実施していこうと考えている。中小企業の3分の1が事業承継の課題を抱えていると言われている(※2)。税理士の顧問先を仮に30社とすると、3分の1の10社が事業承継の課題を抱えていることとなる。
 税理士は顧問先の決算書を作成するため、その企業のことを一番に理解しているはずだ。しかし、税理士の中には顧問先の事業内容を十分に理解せず、決算書を作成するケースもある。また、ネットワークがなく、買い手を探すことには不向きな面もあったため、MANDAとの親和性は高く、提携によって事業承継にも取り組みやすくなるだろう。

※2 TSRの2023年「後継者不在率」調査では、後継者不在率は61.09%だった。代表者年齢が70代の企業では30.53%、80歳以上では23.83%に達している

―買い手の充実のためには

 売り手の情報は1万9,000件を超えた。MANDAの月間ユニークユーザーは1万3,000人。その内、買い手が約65%を占める。今後は買い手PRページの充実に努め、売り手が直接アプローチできるようにする。また、「買い手のオープン化」も必要だ。悪質な買い手の中には、調べられたら困る情報も多くあるため、情報開示を制限するケースがある。買い手がオープンになれば、悪質な買い手は自然と排除されるであろう。

―倒産村(倒産や事業再生を手掛ける士業、コンサルなどの総称)からの注目も高い

 潰れそうな企業を再生するには、スポンサーを見つけなければならない。そのスポンサーが企業を買収し、再生することとなるが、そうした企業を買い手が数千万円でM&Aすることは難しい。また、倒産村の弁護士には、両手仲介に疑問を感じている方もいる。M&Aのマッチングフィーではなく、コンサルティングフィー、デューデリジェンスフィーで取り組むという考えを持っているため、MANDAの考え方と親和性が高く、注目されているのだろう。



 今回のインタビューで、「情報の民主化」、「買い手のオープン化」という言葉が何度も聞かれた。従来のM&Aでは買い手が非公開であるケースが多い。売り手に大量のDMを送付し、あたかも買い手がいるように匂わせる営業活動もある。また、悪質な買い手による企業買収で、売り手がトラブルに巻き込まれるケースも増えている。
 買い手情報が積極的に公開された場合、悪質な業者は淘汰されよう。MANDAの普及は「売り手」が「買い手」を選ぶ時代を意味する。
 一方で、「売り手」の魅力を積極的にサポートする士業の力量が問われてくる。
 「第三者承継支援総合パッケージ」で打ち出される10年間で60万者(社)の第三者承継は待ったなしだ。
 買い手企業の積極的な情報発信で、情報の齟齬を解消し、買い手・売り手の双方が納得できることが事業承継の広がりにつながるだろう。


(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2024年9月9日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)

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