金融機関から使途のない借入、企業の2割超が「ある」 金利0.5%上昇で、約6割の企業が「借入金を返済」
~ 2024年8月「金融政策に関するアンケート」調査 ~
アンケートに回答した企業の2割超(20.9%)が、金融機関から使途のない借入金があることがわかった。全額使途のない借入金のある企業も4.5%あった。
7月31日、日本銀行は政策決定会合で政策金利の0.25%引き上げを決めた。3月19日にマイナス金利解除やイールドカーブ・コントロール(長短金利操作)の撤廃を決めてから、わずか4カ月の追加措置の決定で、その後の為替や株価に大きく影響した。今回の決定を受けて、大手行は9月2日から短期プライムレートを1.475%から1.625%へ引き上げることを決めた。他の金融機関でも引き上げを決める動きが相次いでおり、長く続いた低金利時代は転換期を迎えた。
東京商工リサーチ(TSR)は8月1~13日、企業向けアンケート調査を実施し、金融機関の貸出への影響を探った。金融機関との付き合いの中で調達した使途のない借入を約2割の企業が「ある」と回答した。このうち、金利が0.5%上昇した場合、約6割(58.3%)がこうした借入金を返済する意向を示した。
日銀の政策金利引き上げが貸出金利に波及した場合、企業貸出の一部が返済される可能性を示唆している。これは預貸率や資金利益など、金融機関にも影響が及びかねない。長期間にわたった金融緩和の終焉は、影響を慎重に見極めながら進めることが必要だろう。
※本調査は、2024年8月1~13日にインターネットによるアンケート調査を実施し、有効回答3,432社を集計・分析した。
※資本金1億円以上を大企業、1億円未満(個人企業等を含む)を中小企業と定義した。
Q1.貴社は現在、金融機関との付き合いの中で調達している特に使途がない借入金は借入金全体の何割程度ありますか?
◇20.9%の企業に使途のない借入金
使途のない借入金について聞いた。借入金がある3,432社から回答を得た。
最多は「すべてに使途がある」の79.0%(2,714社)だった。使途がない借入金がある企業は20.9%(718社)だった。内訳は、10割(全額)が4.5%(157社)で最も多く、そのほか、3割の3.4%(117社)、1割の3.2%(112社)と続く。
使途がない借入金があると回答した企業の業種別(45分類、回答母数5以上)は、トップは「農・林・漁・鉱業」の38.8%(36社中、14社)だった。
Q2.Q1で「使途がない借入金がある」と回答された方に伺います。現状より何%金利が上昇したら、特に使途のない借入金について返済、もしくは折り返し(約定返済後の再調達)での借入をやめますか?(択一回答)
◇0.5%上昇で約6割が「借入をやめる」
Q1で「1~10割」と回答した企業のうち、600社から回答を得た。
「0.1%上昇」で使途のない借入をやめると回答した企業は8.6%(52社)、「0.3%上昇」は24.1%(145社)、「0.5%上昇」は25.5%(153社)だった。一方、「0.5%上昇でも継続」は41.6%(250社)だった。
「0.5%上昇でも継続」と回答した企業の業種別(45分類、回答母数5以上)で、最も比率が高かったのは「飲食業」の62.5%(8社中、5社)だった。以下、「化学工業,石油製品製造業」の60.0%(10社中、6社)、「飲食料品卸売業」の58.8%(17社中、10社)と続く。
金融機関から資金を調達している企業のうち、2割超の企業で使途のない借入金があることがわかった。「農・林・漁・鉱業」や「電気・ガス・熱供給・水道業」など、地域に根差す企業やインフラを担う業種で比率が高い。
使途のない借入金は、低金利という要素も欠かせない。金利のある世界が現実味を帯びるなか、当座の不要な借入金が返済に回る可能性が高い。今回のアンケート調査で、貸出金利が0.5%上昇すると、6割近くの企業が借入金を返済すると回答した。本業支援などで取引企業の資金ニーズを創出できない場合、企業向け貸出が低下する。金利上昇は、企業が金融機関を選択する契機にもなりかねず、金融機関のコンサルティング力がこれまで以上に試されそうだ。
一方、貸出利率が0.5%上昇しても、使途のない借入を継続すると回答した企業は4割を超えた。なかでも「飲食業」は62.5%に達した。コロナ禍や相次ぐ自然災害など、予期しないキャッシュフロー悪化への備えを潜在的に意識しているとみられる。貸出金利は中長期的に上昇することも想定され、企業も目先の利率上昇に捉われない財務戦略が求められる。