競争激化とコストアップでネット通販業者が苦戦 「通信販売・訪問販売小売業」倒産が過去最多
2024年(1-7月)「通信販売・訪問販売小売業」調査
インターネット通販などを中心とした「通信販売・訪問販売小売業」の倒産が急増している。2024年(1-7月)は90件(前年同期比47.5%増)と、前年同期の約1.5倍に増えている。
コロナ禍の巣ごもり需要が寄与し、2021年同期は30件台にとどまっていたが、その後、同業者との競争激化などから3年連続で増加をたどっている。現状ペースで推移すると、早ければ9月にも、過去最多だった2023年の年間112件を上回る可能性も出てきた。
コロナ禍で感染拡大防止のために訪問販売は苦戦したが、通信販売は巣ごもり需要や事業再構築補助金などの支援策でEC市場が拡大し、売上を大幅に伸ばした。経済産業省が2023年8月に公表した電子商取引に関する調査で、2022年の物販系分野のEC(BtoC)市場規模は13兆9,997億円にのぼった。コロナ禍前(2019年)の10兆515億円から39.2%増と大幅に伸びている。
新設法人数も、通信販売・訪問販売小売業はコロナ禍前の2019年は1,136社だったが、コロナ禍の2021年にピークの1,668社まで増え、2023年も1,525社と高止まりで推移している。
しかし、事業者数の増加や実店舗からECへのシフトは市場競争の激化を招き、商品開発力や体力が脆弱な企業の淘汰が進んでいる。インターネットなどを利用した通販業態は、実店舗の運営に比べ、店舗開設に伴う家賃や改装費など多額の初期投資や、販売員などの人件費を抑制できる。このため、小資本での参入も容易で、ブームが沈静化すると資金力のない甘い事業計画が頓挫するケースも少なくない。消費者の支出動向が大きく変化する傾向は見えないだけに、コロナ禍で参入した事業者を中心に、「通信販売・訪問販売小売業」の淘汰は増勢をたどるとみられる。
※本調査は、日本産業分類の「通信販売・訪問販売小売業」の2024年(1-7月)の倒産を集計、分析した。
7月までに90件、年間最多を更新の可能性高まる
「通信販売・訪問販売小売業」の倒産は、規模別では、資本金「1千万円未満(個人企業他含む)」が75件(構成比83.3%)、負債額「1億円未満」が81件(同90.0%)、従業員数「10人未満」が86件(同95.5%)と、小・零細規模の事業者がほとんどを占めている。
運送業者の「2024年問題」や人手不足の深刻化のなかで上昇する商品配送費を、通販業者が負担するケースは多い。消費者庁は「送料無料」表示の見直しに取り組むが、利用者の間に浸透した「送料無料」という慣習が変化するには時間が必要だろう。
また、すでに大手ECモールなどでは出店料の値上げが始まっている。中小・零細企業など、自社ECサイトを構築する資金力や技術力、人材を持ち合わせない事業者は、既存プラットフォーマーに依存せざるを得ず、今後、影響が表面化してくるおそれもある。
体力の乏しい事業者を中心に、売上減少とコスト上昇による利益圧迫という厳しい事業環境が継続することも懸念される。現状のペースをたどると年間では過去最多を更新し、集計開始以来初めての150件台に乗せる可能性も出てきた。