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「旅行・宿泊業」の新設法人 4年ぶりに1,500社超 コロナ禍から反転、インバウンド需要で地域差が拡大

2023年 「旅行・宿泊業」新設法人動向調査

 コロナ禍で大打撃を受けた旅行業、宿泊業の今年度業績は、宿泊業で80%の企業が「増収」を見込むなど、急回復している。2023年5月に新型コロナが5類へ移行し、国内旅行やインバウンド需要の回復が追い風となって、旅行業と宿泊業の法人設立が急増していることがわかった。

 2023年に新たに設立された旅行・宿泊業の法人(以下、新設法人)は1,560社(前年比59.0%増)で、前年の981社から大幅に増加した。コロナ禍以前の2019年の1,621社には届かなかったが、直近10年間では2番目に多く、コロナ禍を経て観光業界の活況を反映した動きをみせた。

 都道府県別では、2023年の旅行業新設法人は東京都(176社)や大阪府(78社)など大都市圏、人気観光地の北海道(30社)や沖縄県(19社)で目立った。また、宿泊業も上位には東京都(296社)や大阪府(116社)が並ぶが、海外旅行者の人気が高いリゾート地の長野県(52社)など地方での設立も多かった。特に、東北(36社)はコロナ前の2019年と比べて44.0%増と、観光需要への期待の高さをみせた。

 日本政府観光局(JNTO)によると、2024年1-5月の推計訪日外客数は約1,464万人で、コロナ前の2019年同期(約1,375万人)を6.4%上回った。通年でも過去最高の2019年(約3,188万人)を上回る勢いで推移している。急拡大するインバウンド市場を狙い、外国人向けツアーの手配や民泊運営を事業目的に掲げる新設法人も少なくない。

 長引く円安で割高の海外旅行に代わり、国内旅行の需要拡大も期待される。ただ、インバウンドが牽引する活況を一過性で終わらせず、地方の活性化につなげられるかが今後の課題といえる。

※本調査は、東京商工リサーチの企業データベース(約400万社)から、2023年に設立された法人のうち、日本標準産業分類に基づく旅行業(業種小分類791)と宿泊業(業種中分類75)の全法人を抽出、分析した。


旅行・宿泊業の新設法人 2023年は4年ぶりに1,500社超え

 旅行・宿泊業の新設法人は、2015年(1,062社)から5年連続で1,000社を超え、ピークの2019年では1,621社に達した。だが、2020年からのコロナ禍で入出国や国内移動が制限され、観光市場は急速に冷え込み、新設法人は1,000社を割り込んだ。2020年から2022年まで3年連続で1,000社を下回ったが、2023年5月に新型コロナが5類へ移行するとインバウンド需要が盛り返し、新設法人は1,560社と急増した。

 2023年の旅行業の新設法人は520社で、前年の273社から約2倍(90.4%増)に急増。2019年の477社を上回り、直近10年間では過去最多を更新した。

 一方、宿泊業は、2023年は1,040社(前年比46.8%増)と大幅に増え、コロナ前の2019年の1,144社には届かなかったが、4年ぶりに1,000社台に乗せた。

「旅行・宿泊業」新設法人数 年次推移


地区別・都道府県別 旅行業の最多は関東、コロナ前と比べ中部は4割増

 地区別の2023年新設法人は、旅行業は関東が250社(構成比48.0%)で最も多く、約半数を占めた。次いで、近畿117社(同22.5%)が続き、九州64社(同12.3%)、北海道と中部が各30社(同5.7%)、東北9社、中国8社、四国7社、北陸5社の順。

 コロナ前の2019年との比較では、中部が42.8%増(2019年21社)で増加率は最大だった。次いで、九州36.1%増(同47社)、近畿30.0%増(同90社)が続く。一方、減少率は中国38.4%減(同13社)が最も大きかった。

 都道府県別では、最多は東京都の176社(構成比33.8%)で、3割超を占めた。このほか、大阪府78社、福岡県35社、北海道30社、神奈川県22社、埼玉県と沖縄県が各19社で続き、11都道府県は10社以上の設立があった。一方、山形県、栃木県、和歌山県、鳥取県、山口県の5県は旅行業の設立がなかった。

 旅行業は人口の多い都市圏に設立が集中したほか、観光客に人気の高い北海道や沖縄県などは、国内外の観光客向け旅行サービス業の設立がみられた。 

旅行業 地区別新設法人


宿泊業は47都道府県すべて誕生、地方の増加が目立つ

 宿泊業の2023年新設法人は、地区別では関東の435社(構成比41.8%)が最多。次いで、近畿205社(同19.7%)、九州127社(同12.2%)、中部107社(同10.2%)、北海道55社、東北36社、中国33社、四国27社、北陸15社の順。

 コロナ前との比較では、増加率は東北が44.0%増(2019年25社)で最大だった。コロナ前と比べ6地区で増加し、減少は関東、近畿、九州の3地区だった。

 都道府県別では、最多は東京都の296社(同28.4%)で、大阪府116社、北海道55社、長野県52社、沖縄県49社が続く。47都道府県すべてで新設法人が誕生した。

 大都市圏以外では、外国人観光客に人気の高いスノーリゾートの北海道や長野県で新設法人が多い。観光庁が令和2年度から「スノーリゾート形成促進事業」として、国際競争力の高いスノーリゾート形成に向けて取り組む地域を支援していることも背景にあるとみられる。

 コロナ前との比較でも、青森県(2019年比300.0%増)や山形県(同175.0%増)などで大幅増となった。また、登記上本社を東京都など大都市に置き、地方で宿泊施設運営の新設法人も散見された。地域に偏りなく、観光需要を取り込めるか新設法人は真価を問われている。

宿泊業 地区別新設法人

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