• TSRデータインサイト

2024年4月の「物価高」倒産は58件 円安で物価上昇が加速、4か月連続で前年同月を上回る

2024年4月 「物価高」倒産状況


 空前の“物価高”がゼロゼロ融資の返済や人件費上昇だけでなく、企業倒産を押し上げる要素となっている。2024年4月の「物価高」を起因とする倒産は58件(前年同月比16.0%増)で、4カ月連続で前年同月を上回った。負債総額も139億8,600万円(同54.2%増)に膨らんだ。
 4月29日、外国為替が一時、1ドル=160円を突破し、その後は乱高下を繰り返し、1ドル=155円前後で推移している。円安に伴う物価高が企業収益を圧迫し、価格転嫁が難しい中小企業を中心に倒産を押し上げる可能性が高まっている。

 産業別は、下請企業が多く、資材や原材料、燃料などの価格上昇分の価格転嫁が難しい建設業(前年同月比36.3%増)、製造業(同15.3%増)、運輸業(同87.5%増)が各15件発生した。
 負債額別は、負債1億円以上(同20.8%増)と同1億円未満(同11.5%増)が各29件と拮抗した。
 形態別は、破産が51件(同18.6%増)と9割近く(構成比87.9%)を占めた。

 3月19日、日本銀行がマイナス金利解除を決定し、円安に歯止めが掛かるとみられたが、その後も円安が続いている。米FRB(連邦準備理事会)は、FOMC(連邦公開市場委員会)を開催し、フェデラル・ファンド金利(政策金利)の据え置きを決定した。このため、日米金利差の縮小が先送りされ、為替介入を想定しない歴史的な円安是正は時間を要する可能性が出てきた。

 コロナ禍で過剰債務を抱えた中小企業は、正念場を迎えている。資金調達が円滑にできないと売上増加がむしろ資金繰りを悪化させる悪循環が現実味を帯びている。円安で物価高が続くなか、財務内容だけでなく企業の将来性を見据えた目利きができるかどうか、金融機関もその存在価値を問われている。

※本調査は、2024年4月の企業倒産(負債1,000万円以上)のうち、①仕入コストや資源・原材料の上昇、②価格上昇分を価格転嫁できなかった、等により倒産(私的・法的)した企業を集計、分析した。


4月の「物価高」倒産は58件、4カ月連続で前年同月を上回る

 2024年4月の「物価高」倒産は58件(前年同月比16.0%増)で、4カ月連続で前年同月を上回った。負債総額は139億8,600万円(同54.2%増)だった。
 2024年の年初の外国為替相場は1ドル=150円を下回っていたが、その後は円安が加速し、4月29日に一時、1ドル=160円台に急落した。以降は相場が乱高下し、1ドル=155円台を挟んだ揉み合いが続いている。当面、原材料や資材、エネルギー価格の上昇が落ち着く兆しはなく、価格転嫁が難しい中小・零細企業はコストアップが収益の重しになるだろう。

「物価高」倒産月次推移

【産業別】4産業で増加

 産業別は、4産業で増加した。
 最多は、建設業(前年同月比36.3%増)と製造業(同15.3%増)、運輸業(同87.5%増)の各15件。これら3産業は、下請企業も多く、円安などを背景とした資材や原材料、燃料などの価格上昇の一方で、価格転嫁が難しく、資金繰りに影響を及ぼしている。
 以下、飲食店を含むサービス業他が7件(同75.0%増)、卸売業5件(同28.5%減)の順。

産業別状況(4月)

【業種別】最多が道路貨物運送業の13件

 業種別(業種中分類)は、最多が道路貨物運送業の13件(前年同月比116.6%増)で、前年同月の2.1倍に急増。次いで、総合工事業の10件(同66.6%増)。この2産業は、4月から時間外労働の上限が規制され、さらに人手不足が顕著となるなかで、燃料や資材価格の高止まりで、厳しい経営を余儀なくされている。
 このほか、食料品製造業8件(同166.6%増)、飲食店4件(同300.0%増)と食品関連業種が続き、食材価格の上昇が資金負担の増大を招いている。

【形態別】破産が8割以上

 形態別は、破産が51件(前年同月比18.6%増)で、8割以上(構成比87.9%)を占めた。
 円安で、原材料や資材、エネルギーなどの価格上昇が続く。さらに、人材確保のための賃上げで人件費コストも上昇している。
 特に、中小・零細企業はコストアップ分の価格転嫁が難しいため、資金繰りに余裕がないまま破産で債務整理するケースが増えている。


【負債額別】1億円以上と未満が拮抗

 負債額別は、最多が1億円以上5億円未満の22件(前年同月比10.0%増)。
 以下、1千万円以上5千万円未満が21件(同133.3%増)、5千万円以上1億円未満が8件(同52.9%減)の順。
 1億円以上(同20.8%増)と1億円未満(同11.5%増)が各29件と拮抗した。
 過剰債務を抱え、物価高が資金繰りの悪化に拍車を掛けた。

負債額別状況(4月)

【資本金別】1千万円未満が5割超

 資本金別は、最多が1千万円以上5千万円未満の26件(前年同月比3.7%減、前年同月27件)。以下、1百万円以上5百万円未満の19件(前年同月比72.7%増)、5百万円以上1千万円未満の9件(同12.5%増)の順。
 1千万円未満が31件(前年同月比34.7%増、前年同月23件)で、半数以上(53.4%)を占めた。

【地区別】3地区で増加

 地区別は、9地区のうち、3地区で前年同月を上回った。増加率の最大は、中国の前年同月比400.0%増。次いで、九州の同250.0%増、東北の同133.3%増と続く。
 都道府県別は、増加が16都府県、減少12道府県、同件数が19県だった。
 最多は、福岡の9件(前年同月2件)。以下、東京5件(同1件)、北海道4件(同6件)、埼玉(同2件)と愛知(同4件)、大阪(同5件)の各3件の順。

人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

銀行員の年収、過去最高の653万3,000円 3メガ超えるトップはあおぞら銀行の906万円

国内銀行63行の2024年度の平均年間給与(以下、年収)は、653万3,000円(中央値639万1,000円)で、過去最高となった。前年度の633万1,000円(同627万5,000円)から、20万2,000円(3.1%増)増え、増加額は3年連続で最高を更新した。

2

  • TSRデータインサイト

タクシー業界 売上増でも3割が赤字 人件費・燃料費の高騰で二極化鮮明

コロナ禍を経て、タクシー業界が活況を取り戻している。全国の主なタクシー会社680社の2024年度業績は、売上高3,589億5,400万円(前期比10.6%増) 、利益83億3,700万円(同11.1%増)で、増収増益をたどっている。

3

  • TSRデータインサイト

「調剤薬局」 中小・零細はリソース不足で苦戦 大手は戦略的M&A、再編で経営基盤を拡大

 調剤薬局の大型再編が加速するなか、2025年1-8月の「調剤薬局」の倒産は20件(前年同期比9.0%減)で、過去最多の2021年同期と2024年同期の22件に迫る多さだった。今後の展開次第では、年間初の30件台に乗せる可能性も高まっている。

4

  • TSRデータインサイト

りそな銀行、メイン取引先数が増加 ~ 大阪府内企業の取り込み加速 ~

関西や首都圏で大企業から中堅・中小企業のメインバンクとして確固たる地位を築くりそな銀行。「2025年全国メインバンク調査」ではメインの取引社数は3メガバンクに次ぐ4位の4万511社だった。東京商工リサーチが保有する全国の企業データを活用しりそな銀行がメインバンクの企業を分析した。

5

  • TSRデータインサイト

メインバンク調査で全国5位の北洋銀行 ~圧倒する道内シェアで地域経済を牽引~

「2025年全国メインバンク調査」で、北洋銀行(2万8,462社)が3メガ、りそな銀行に次ぎ、調査開始の2013年から13年連続で全国5位を維持した。北海道に169店舗、都内1店舗を構え北海道内シェアは約4割(37.9%)に達する。

TOPへ