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「人手不足」関連倒産が急増 前年同期の2倍に  「2024年問題」が直撃の建設業、運輸業で増加

2024年(1-4月)「人手不足」関連倒産の状況


 2024年に入り、「人手不足」が深刻さを増している。2024年1-4月の「人手不足」関連倒産は累計90件(前年同期比104.5%増)と、前年同期(44件)の2倍に急増した。これまで1-4月期の最多は、2020年同期の48件だったが、2024年はこれを大きく上回り、調査を開始した2013年以降で最多記録を更新した。
 内訳は、「求人難」が38件(前年同期比153.3%増)、「従業員退職」が25件(同127.2%増)と、それぞれ2倍以上に増加。人手不足でも新たな人材を確保できず、さらに退職が追い打ちをかけて受注機会を喪失し、事業継続が困難に陥る企業が多い。

 産業別では、最多は飲食業、医療,福祉事業(各6件)を含むサービス業他の27件(前年同期比92.8%増)だった。今年4月から残業時間の上限が規制された建設業は前年同期比250.0%増(6→21件)、運輸業は同90.9%増(11→21件)と、増加率が大きかった。
 資本金別では、1千万円未満が58件(構成比64.4%)と、小・零細規模が半数以上を占めた。
 形態別では、破産が76件(前年同期比80.9%増)と8割(構成比84.4%)を超えた。人手不足で事業継続が難しくなり、再建をあきらめて債務整理のため破産を選択するケースが多い。

 今年の春闘は、円安などを背景に、好業績が続く大手を中心に大幅な賃上げ回答が相次いだ。だが、コロナ禍からの業績回復が遅れるなか、ゼロゼロ融資の返済も始まり、人件費や原材料、水道・光熱などの価格上昇が資金繰りを圧迫する中小企業は、賃上げ原資の確保もままならない。こうした企業では人材流出が進み、新たな人材確保も困難だ。さらに、身の丈を超える賃上げは、いずれ資金繰り悪化として跳ね返る。「人手不足」関連倒産は、これからが本番を迎える可能性が高い。

※本調査は、2024年(1-4月)の全国企業倒産(負債1,000万円以上)のうち、「人手不足」関連倒産(求人難・従業員退職・人件費高騰)を抽出し、分析した。(注・後継者難は対象から除く)


2024年(1-4月)の「人手不足」関連倒産90件で、前年同期より倍増

 2024年(1-4月)の「人手不足」関連倒産は、90件(前年同期比104.5%増)に達した。前年同期(44件)から倍増し、調査を開始した2013年以降では最多を更新した。
 内訳は、最多が「求人難」の38件(前年同期比153.3%増)。次いで、「人件費高騰」の27件(同50.0%増)、「従業員退職」の25件(同127.2%増)と続く。3要因とも過去最多を更新した。なかでも、「求人難」が前年同期比2.5倍、「従業員退職」が同2.2倍と急増しており、人材確保の苦戦が事業継続に大きな影響を及ぼしている。
 人材確保のため賃上げは避けられないが、ゼロゼロ融資の返済や物価高などの負担がじりじりと深刻さを増している。

「人手不足」関連倒産 月次推移

「人手不足」関連倒産(1-4月)

【要因別】「求人難」「従業員退職」が倍増

 要因別では、最多が「求人難」の38件(前年同期比153.3%増)で全体の42.2%を占め、3年連続で前年同期を上回った。次いで、「人件費高騰」が27件(同50.0%増)、「従業員退職」が25件(同127.2%増)だった。
 大手企業は高水準の賃上げが相次ぐ。だが、中小・零細企業は業績回復が遅れ、原材料やエネルギーなどの価格上昇によるコストアップが収益を圧迫し、賃上げ原資の確保が難しくなっている。
 人材確保や従業員の退職阻止には、賃上げは避けられない。しかし、無理な賃上げは企業の資金繰り悪化に拍車を掛けるため、財務基盤の弱い企業にとっては経営上の大きな課題として圧し掛かっている。

「人手不足」関連倒産 要因別(1-4月)

【産業別】10産業のうち、7産業で増加

 産業別では、10産業のうち、卸売業、金融・保険業、情報通信業を除く7産業で前年同期を上回った。
 最多は、サービス業他の27件(前年同期比92.8%増、前年同期14件)で、3年連続で前年同期を上回った。構成比は30.0%(前年同期31.8%)だった。
 次いで、建設業(前年同期比250.0%増)と運輸業(同90.9%増)が各21件で、3産業が20件以上だった。
 今年4月から残業時間の上限が規制された、いわゆる「2024年問題」の対象の建設業では前年同期の3.5倍、また、運輸業では同1.9倍に、それぞれ件数が急増し、さらに人手不足が顕著となっている。
 このほか、製造業8件(同60.0%増)と小売業5件(同150.0%増)が、それぞれ2年連続で前年同期を上回った。また、農・林・漁・鉱業2件が4年ぶり、不動産業1件が3年ぶりに、それぞれ発生した。一方、情報通信業は3件(同25.0%減)で、2年ぶりに前年同期を下回った。

 業種別では、一般貨物自動車運送業が10件(前年同期7件)で、唯一、2ケタだった。一般乗用旅客自動車運送業が9件(同ゼロ)、土木工事業(同3件)と建築工事業(同ゼロ)、塗装工事業(同1件)、受託開発ソフトウェア業(同3件)が各3件、育林業(同ゼロ)と一般管工事業(同ゼロ)、貨物軽自動車運送業(同1件)、喫茶店(同ゼロ)、配達飲食サービス業(同1件)、スポーツ・健康教授業(同ゼロ)、通所・短期入所介護事業(同ゼロ)が各2件だった。

「人手不足」関連倒産 産業別(1-4月)

【形態別】破産が8割

 形態別は、最多が「破産」の76件(前年同期比80.9%増)で、2年連続で前年同期を上回った。また、「特別清算」が3件(前年同期ゼロ)で、3年ぶりに発生した。消滅型が79件(前年同期比88.0%増)と、8割以上(構成比87.7%)を占めた。賃上げ機運が高まるなかで、中小・零細企業では人材を確保できず、事業継続が困難となるケースも少なくない。
 一方、再建型の民事再生法は10件(前年同期ゼロ)、会社更生法は発生がなかった。

「人手不足」関連倒産 形態別(1-4月)

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