• TSRデータインサイト

宅配ビジネス成長の陰で「牛乳販売店」の廃業が過去最多

 玄関まで届ける宅配の元祖。瓶のリサイクルにも早くから取り組む牛乳小売店(以下、牛乳販売店)が苦境に陥っている。
 生活様式の変化や少子高齢化、価格上昇、人手不足などで環境が激変するなか、他産業からの宅配ビジネス参入が相次いでいる。事業承継の問題も見え隠れするなか、2023年の休廃業・解散(以下、廃業)は過去最多の27件を記録した。これまで最多だった2017年の25社を上回った。
 一方、2023年の倒産は1社にとどまった。経営体力を残し、早めの廃業を決断する経営者の苦悩も透けて見える。
 コロナ禍で宅配やデリバリーが一気に普及した。さらに、原乳価格の値上がりにより牛乳の小売価格も目に見えて上昇した。身近な商品だけに、値上げ商品に対する消費者の生活防衛策もジワリと影響しているようだ。

牛乳販売店 休廃業・解散は過去最多

 牛乳販売を事業目的とする企業の廃業は、2013年以降では2017年の25件が最多だった。
 昔から、牛乳はカルシウムやたんぱく質など栄養価が高い食品として人気だった。だが、少子高齢化や販売チャネルの多様化で、地域に密着した牛乳販売店の優位性も崩れてきた。このため、牛乳以外にも扱い商品を広げる一方、コロナ禍では資金繰り支援や巣ごもり需要を取り込み、経営は落ち着いてみえた。
 ところが、生乳生産と牛乳など乳製品の需給バランスが崩れた2023年、余剰生乳の大量廃棄が大きく報道された。原乳価格の値上げで、牛乳の小売価格は急上昇した。2022年10月の212円(店頭売り・紙容器入り、1,000ml、総務省「小売物価統計調査」)が2023年1月には235円に上昇し、同年12月も256円と高止まりしている。
 値上げによる需要減や配達コストの上昇、人手不足、そして宅配やデリバリーなど新たな参入が相次ぐ。また、“家庭の冷蔵庫”であるコンビニの出店攻勢もとどまらず、環境は厳しさを増している。



 牛乳宅配最大手の明治は、スーパーやコンビニでは手に入らない牛乳以外の食品などの宅配専用商品を開発し、特約店は全国で約3,000店に達するという。
 コロナ禍の2020年、「牛乳販売店」の新設法人は過去最多の20社に急増した。だが、2021年は13社、2022年は5社と急減した。この背景には、コロナ禍を経た消費者の行動も影響しているとみられる。今後は廃業だけでなく、倒産の増加も危惧される。2024年は、牛乳販売店の真価を問われる年になりそうだ。


「牛乳販売店」休廃業・解散社数推移(1-12月)

人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

「マレリグループ」国内取引先調査 ~国内の取引先2,942社、影響懸念~

経営不振が続いたマレリグループの持株会社マレリホールディングス(株)(TSRコード:022746064、さいたま市北区)が6月11日(日本時間)、米国でチャプター11を申請した。東京商工リサーチ(TSR)の企業データベースからマレリグループの取引先数(重複除く)は国内2,942社あることがわかった。

2

  • TSRデータインサイト

2025年1-5月の「労働者派遣業」倒産53件 人材派遣が人手不足で年間最多ペースの可能性

深刻な人手不足が続くなか、 「労働者派遣業」の倒産がハイペースをたどっている。2025年5月の「労働者派遣業」倒産は、3月に並び今年最多の15件(前年同月比400.0%増)発生した。

3

  • TSRデータインサイト

「日産ショック」とマレリ、部品サプライチェーンの再編含み

マレリホールディングス(株)(TSRコード:022746064)と主要子会社は6月11日(日本時間)、チャプター11(連邦破産法第11条)を申請した。東京商工リサーチのデータベースによると、マレリグループの国内取引先は全国2,942社に及ぶ。

4

  • TSRデータインサイト

事前調整に明け暮れたマレリHDが再度破たん ~支援プレイヤーの場外乱闘の果て~

マレリHDを巡っては、準則型私的整理の一種である事業再生ADRでの再建を目指したが、海外金融機関の反対でとん挫し、前年の産業競争力強化法の改正で規定された民事再生の一部手続きを省略する簡易再生へ移行した。

5

  • TSRデータインサイト

(株)ピーエスフードサービス 保育園への食材納品がストップ=納入業者の資金繰り悪化で

保育園などに食材を販売している(株)ピーエスフードサービス(TSRコード:352395583、さいたま市見沼区)は納品が困難になっていることを自社ホームページで公表した。

TOPへ