“能登半島地震” 事業に影響ある企業が2割 サプライチェーンや取引先被災の影響が大きく
令和6年能登半島地震「事業への影響アンケート」調査
2024年1月1日、最大震度7を観測した能登半島地震から1カ月半が経過した。多くの人が被災し、まだ活発な地震活動が続くが、復興へ向けた動きも出始めている。地震の影響では、「大いに影響がある」が3.0%、「少し影響がある」は18.8%で、「影響がある」と回答した企業は全体の約2割(21.9%)だった。
影響の内容(複数回答)では、「仕入(調達)に影響が生じている」が38.7%で最も多く、次いで、「販売(サービス提供)に影響が生じている」が32.8%、「取引先の拠点が被災した」が32.0%だった。
東京商工リサーチは2月1日~8日、企業を対象にインターネットで能登半島地震の「事業への影響アンケート」調査を実施した。都道府県別の影響では、「影響あり」は、被災地の石川県の65.3%を筆頭に、富山県61.8%、福井県46.6%と、北陸3県に続き、新潟県35.0%で続いた。
業種別では、最高が「宿泊業」の40.9%。次いで、旅行業や冠婚葬祭業を含む「その他の生活関連サービス業」が38.0%、「機械等修理業」が37.5%の順。
コロナ禍で大打撃を受けた観光産業を中心に、コロナ禍が落ち着き、増加する外国人訪日観光客のインバウンド需要が期待された矢先の地震の影響は大きい。政府・日銀は種々の支援策を決定し、復興の背中を押すが、物価高や人手不足、人件費上昇が重く圧し掛かっている。一日も早く被災した住民が元の生活を取り戻し、企業活動も再興から自立への道に乗り出すためにも間断ない支援が求められる。
※本調査は、2024年2月1日~8日にインターネットによるアンケート調査を実施し、有効回答4,872社を集計・分析した。
※資本金1億円以上を大企業、1億円未満(個人企業等を含む)を中小企業と定義した。
Q.「令和6年能登半島地震」は貴社の事業にマイナスの影響を与えていますか?
◇「影響なし」が約8割
令和6年能登半島地震の事業への影響は、「あまり影響はない」が49.5%とほぼ半数を占めた。また、「全く影響はない」が28.4%で、「影響なし」は約8割(構成比78.0%)に達した。
一方、「少し影響がある」は18.8%、「大いに影響がある」は3.0%で、「影響ある」は合計21.9%だった。
規模別では、「あまり影響はない」は大企業50.7%、中小企業49.4%、「全く影響はない」大企業22.5%、中小企業29.1%を含めた「影響なし」は大企業が73.2%、中小企業が78.5%と、ともに7割を超えた。
一方、「少し影響がある」は大企業22.3%、中小企業18.5%、「大いに影響がある」は大企業4.3%、中小企業2.9%、「影響あり」は大企業26.7%、中小企業21.4%と、大企業が5.3ポイント上回った。地震で物流や取引先の被災など、サプライチェーン問題から大企業の影響が大きくなっているようだ。
産業別 小売業・建設業・卸売業・不動産業・製造業で2割以上が「影響あり」
産業別は、「大いに影響がある」は、最高が農・林・漁・鉱業で6.8%。次いで、不動産業の6.0%、小売業の3.9%と続く。
「少し影響がある」は、最高が小売業の21.9%。以下、卸売業の21.7%、建設業の20.9%の順。
「大いに影響がある」、「少し影響がある」を合算した「影響あり」は、小売業25.8%を筆頭に、建設業24.7%、卸売業24.5%、不動産業23.4%、製造業23.1%で、この5産業で企業の2割以上が地震の影響を挙げた。
一方、「あまり影響がない」は、最高が農・林・漁・鉱業の55.1%。次いで、運輸業54.1%、製造業52.6%、金融・保険業51.3%、卸売業51.1%と、5産業で5割を超えた。
「全く影響はない」は、情報通信業の46.5%が最も高く、サービス業他35.4%、金融・保険業32.4%と続く。
「あまり影響がない」「全く影響はない」を合算した「影響なし」は、最高が情報通信業の87.9%、以下、農・林・漁・鉱業86.2%、金融・保険業83.7%の順。
地震で漁港や漁に甚大な被害を受けた水産業、店舗が被災した小売業などの影響が大きかった一方、IT化の加速で情報通信業では影響が小さく、産業間で大きな開きがあった。
業種別 宿泊業が唯一、40%超
業種別は、最高が「宿泊業」の40.9%。以下、旅行業や冠婚葬祭業を含む「その他の生活関連サービス業」が38.0%、「機械等修理業」が37.5%の順。
震災地の北陸3県は、国内有数の観光地で、地震で旅行者が減少し、ホテル・旅館ではキャンセルも相次いだ。
また、電気やガス、水道などライフラインも寸断され、宿泊施設の被害も大きい。
「その他の生活関連サービス業」は、旅行客の減少や冠婚葬祭への影響が大きい。また、施設も被災したことで、事業に影響があったとみられる。
都道府県別 石川県・富山県で「影響あり」が6割を超える
都道府県別では、「影響あり」の最高は石川県の65.3%、次いで、富山県の61.8%で、震源地に近い2県が6割超と突出した。また、福井県が46.6%、新潟県が35.0%と、震源地周辺の県で「影響あり」と回答した企業の割合が高かった。
事業設備や取引先、サプライチェーンなどの被害に加え、従業員家族の被災から事業全体への影響が広がったとみられる。
このほか、30%台は山梨県の33.3%、三重県の32.5%。取引先の被災で、販売(サービス提供)に影響が生じた企業が多い。
地区別では、北陸が59.8%で他地区に比べて圧倒的に「影響あり」と回答した企業が多かった。次いで、中部25.9%、近畿24.6%と隣接地域への影響を反映している。
Q.影響の内容は何ですか?(当てはまるものすべてを選択してください)
◇「仕入(調達)に影響」が約4割
「大いに影響がある」「少し影響がある」と回答した1,069社(無回答2社除く)の影響内容は、「仕入(調達)に影響が生じている」が38.7%で最も高い。次いで、「販売(サービス提供)に影響が生じている」の32.8%、「取引先の拠点が被災した」の32.0%と続く。
サプライチェーンの混乱など、取引先の影響が大きかった一方、「自社の拠点が被災」が4.3%、「グループ会社の拠点が被災」が2.8%など、自らの被災の影響が低かったのも特徴。
大企業(128社)では、「取引先の拠点が被災した」が43.7%で最も高い。次いで、「販売(サービス提供)に影響が生じている」の36.7%、「仕入(調達)に影響が生じている」の28.1%と続く。中小企業(941社)は、最高が「仕入(調達)に影響が生じている」の40.1%で、次いで、「販売(サービス提供)に影響が生じている」の32.3%、「取引先の拠点が被災した」30.4%と続く。
災害の発生のたびにBCP(事業継続計画)策定が議論されるが、サプライチェーンの影響などを避けられない現実がある。通り一遍のマニュアル化された計画ではなく、事業の根底を守る計画を改めて企業はチェックすべきだろう。