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2023年 1月比で金利上昇の企業 16.1% 金利が 0.5% 上昇で 2割超が「借入を断念」

2024年2月「金融政策に関するアンケート」調査


 2016年1月に日本銀行がマイナス金利を導入してから8年が経過した。マイナス金利解除の観測が市場に広がるが、すでに企業の借入金利は一部で上昇していることがわかった。東京商工リサーチが2月1~8日に実施した企業アンケートによると、昨年1月と比べて借入金利が上昇したと回答した企業は16.1%にのぼった。年内の金利上昇を予想する企業を合わせると約7割(69.5%)の企業が、金利上昇を言及している。

 「すでに上昇している」と回答した企業の上位は、「洗濯・理容・美容・浴場業」や旅行・ブライダル関連、遊技場などが含まれる「その他の生活関連サービス業」が並ぶ。コロナ禍で大きな傷を負った業種だけに、業績の回復途上での金利上昇は致命傷にもなりかねない。

 借入利率の上昇を織り込む見方が大勢を占めるが、現状から0.3%上昇を打診された場合、「受け入れる」との回答は34.7%にとどまった。0.1%上昇では73.3%で、企業側は0.1~0.2%の上昇が現実的な許容範囲のようだ。
 一方、0.1%の上昇でも「他行へ調達を打診する」との回答は21.7%に達する。借入金利の上昇を避けたい企業は一定数存在し、金利の上昇局面では各金融機関の貸出競争がさらに激化する可能性もある。

※本調査は、2024年2月1~8日にインターネットによるアンケート調査を実施し、有効回答4,499社を集計・分析した。
※資本金1億円以上を大企業、1億円未満(個人企業等を含む)を中小企業と定義した。


Q1.資金調達の借入金利は今後どのように変化すると思いますか?昨年1月の水準と比較して回答ください(択一回答)

◇「すでに上昇」が16.1%
 今後の金利上昇について、「2024年7~12月のあいだに上昇する」が最多の32.2%(4,377社中、1,410社)だった。
 また、「2024年6月末までに上昇する」は21.1%(927社)、「すでに上昇している」は16.1%(709社)にのぼる。
 借入金利は、当該企業の担保や信用度などを含めて総合的に判断される。だが、多くの企業が「上昇」に言及し、市場の先行きの上昇局面を色濃く反映した結果となった。
 「すでに上昇している」と回答した業種別(業種中分類、回答母数10以上)は、トップは「洗濯・理容・美容・浴場業」の50.0%(10社中、5社)だった。



Q2.今後(概ね向こう半年)の資金調達の借入金利について、メインバンクより今年に入ってから、どのような説明がありましたか?(択一回答)

◇「金利引き上げ」に言及は25.6%

 最多は、「今後の金利の話はしていない」で68.9%(4,499社中、3,104社)だった。
 アンケート回答時期が2月初旬で、今年に入ってから金融機関の渉外担当者と未接触、あるいは折衝回数が少なかった可能性がある。
 一方、「金利引き上げの可能性を示唆された」は21.8%(982社)、「金利引き上げをはっきり伝えられた」は3.7%(170社)だった。こうした「引き上げ」を言及した企業を業種別(業種中分類、回答母数10以上)で分析すると、トップは「運輸に附帯するサービス業」の51.7%(29社中、15社)だった。



Q3.メインバンクから今後の資金調達の借入金利について、既存の利率より0.1%、0.3%、0.5%の上昇を打診されたと仮定した場合、貴社はどのように対応しますか?(択一回答)

 「受け入れる」と回答した企業は、上昇幅が0.1%では73.3%(3,899社中、2,859社)だった。0.3%では34.7%(3,722社中、1,293社)、0.5%は18.8%(3,622社中、683社)と金利に敏感で、反比例するように「借入を断念する」と「他行へ調達を打診する」の割合が上昇する。
 企業規模別では、0.5%上昇で「他行への調達を打診する」と回答した大企業は54.9%(271社中、149社)だったのに対し、中小企業では60.5%(3,351社中、2,030社)にのぼった。背景として、規模が大きい企業ほど資金的な弾力性を有している傾向にあることや、メインバンクと歩んだ歴史が強固で包括的な取引を形成していることなどが考えられる。

既存の利率より0.1%、0.3%、0.5%の上昇を打診された場合について



 2023年1月の借入金利と比べ、すでに金利が上昇したり、年内の上昇を見込む企業は約7割にのぼる。0.1%の金利上昇で「借入を断念する」と回答した企業は4.8%にとどまるが、0.3%の上昇では12.8%、0.5%では20.9%に達する。中小企業は、それぞれ4.9%、13.0%、21.1%だ。中小企業の多くは株式未上場で、資本市場から直接資金を調達できないため、運転資金や設備資金、賞与(一時金)などの季節性資金の調達を金融機関に頼らざるを得ない。昨今の賃上げでは、ベースアップだけでなく、賞与による還元を掲げる企業もあり、資金調達の選択肢の狭まりは賃上げ機運に水を差しかねない。

 「金利のある世界」は過剰債務に苦しむ企業の利払い負担増に繋がり、企業の市場からの退出を促すことも想定される。また、今回の調査では、借入金利の上昇局面では多くの企業が「他行への調達打診」を選択肢に入れていることもわかった。金融機関の競争を激化させ、新規の顧客開拓では金融機関の経営体力が結果に直結することも想定される。
 長年にわたるマイナス金利からの脱却は、事業会社の経営にとどまらず、金融機関の経営をも揺るがす可能性を秘めている。

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