2023年の「不適切会計」開示は過去2番目 2年連続増の60社・62件、最多社数はサービス業
~ 2023年 全上場企業「不適切な会計・経理の開示企業」調査 ~
2023年に「不適切な会計・経理」(以下、不適切会計)を開示した上場企業は、60社(前年比9.0%増)、件数は62件(同12.7%増)で、2年連続で社数、件数が前年を上回った。
2008年に集計を開始以降、2019年の70社、73件をピークに、2021年は51社、51件まで減少したが、再び緩やかに2年連続で増勢に転じた。
2023年に不適切会計を開示した62件の内訳は、最多は経理や会計処理ミスなどの「誤り」の34件(前年比36.0%増)。次いで、従業員などによる着服横領が19件(同35.7%増)、子会社で不適切会計処理などの「粉飾」が9件(同43.7%減)だった。
産業別の社数は、最多がサービス業の15社(同87.5%増)。以下、製造業の10社(同41.1%減)、卸売業(同125.0%増)と小売業(同50.0%増)が各9社と続く。
金融庁は2023年12月26日、業界準大手の太陽有限責任監査法人(東京都港区)に新たな契約締結を3カ月禁じる一部業務停止命令を出した。顧客の(株)ディー・ディー・エス(名古屋市、2023年8月上場廃止)が2022年8月、財務諸表の訂正報告書を東海財務局に提出する際、重大な虚偽が残っているにもかかわらず、監査を承認していた。不適切会計は企業側のモラルやコンプライアンス意識だけでなく、監査法人の能力と業務責任とのせめぎ合いが続いている。
※ 本調査は、自社開示、金融庁・東京証券取引所などの公表資料に基づく。上場企業、有価証券報告書の提出企業を対象に、「不適切な会計・経理」で過年度決算に影響が出た企業、今後影響が出る可能性を開示した企業を集計した。
※ 同一企業が調査期間内に内容を異にした開示を行った場合、社数は1社、件数は2件としてカウントした。
※ 業種分類は、証券コード協議会の業種分類に基づく。上場の市場は、東証プライム、スタンダード、グロース、名証プレミア、メイン、ネクスト、札証、アンビシャス、福証、Q-Boardを対象にした。
開示企業数 2023年は60社(62件)
上場企業は国内市場の成熟で、製造業を中心に海外市場へ積極展開している。これに伴い、2021年までは海外子会社や関係会社で不適切会計の開示に追い込まれた企業が目立ったが、2023年は国内外連結子会社などの役員や従業員による着服横領が目立った。
2023年11月30日、東証は不動産再活事業の(株)アルデプロ(東証スタンダード)に対し、適時開示規則に違反し、株主や投資者の信頼を毀損したとして特設注意市場銘柄に指定、上場契約違約金2,880万円を徴求した。
アルデプロは不動産売買が、循環取引の一部を構成するものであったこと、また、循環取引に関し実態のない売上高、売上原価及び営業利益を計上する会計処理を行い、2023年7月期第3四半期の決算短信で上場規則に違反した虚偽の開示を行っていたことが判明した。
アルデプロは当該不動産売買に関する適切な記載を行っておらず、上場規則に違反した開示を行っていたことが明らかとなった。このため、東証はアルデプロが誤った決算情報を開示し続けたとして、アルデプロ株式を特設注意市場銘柄に指定し、上場違約金を徴求した。
内容別 「誤り」が最多の34件
内容別では、最多は経理や会計処理ミスなどの「誤り」で34件(構成比54.8%)。次いで、子会社・関係会社の役員、従業員の「着服横領」が19件(同30.6%)だった。
「会社資金の私的流用」、「商品の不正転売」など、個人の不祥事にも監査法人は厳格に監査している。「架空売上の計上」や「水増し発注」などの「粉飾」は9件(同14.5%)だった。
ITbookホールディングス(株)(東証グロース)に対し、証券取引等監視委員会は売上過大計上などの虚偽記載があったとして約1億円の課徴金納付命令を出すよう、金融庁に勧告した。
発生当事者別 「会社」が28社でトップ
発生当事者別では、最多は「会社」の28社(構成比46.6%)だった。「会社」では会計処理手続きなどの誤りが目立った。次いで、「子会社・関係会社」は16社(同26.6%)で、売上原価の過少計上や架空取引など、見せかけの売上増や利益捻出のための不正経理が目立った。
「従業員」は15社(同25.0%)で、外注費の水増し発注を行ったうえで、その一部をキックバックし私的流用するなどの着服横領が多かった。
市場別 「東証プライム」が30社で最多
市場別では、「東証プライム」が30社(構成比50.0%)で最も多かった。次いで、「東証スタンダード」が20社(同33.3%)、「東証グロース」が9社(同15.0%)と続く。
2013年までは新興市場が目立ったが、2015年以降は国内外に子会社や関連会社を多く展開する旧東証1部が増加。2023年も「東証プライム」が最多だった。
産業別 最多はサービス業の15社
産業別では、「サービス業」の15社(構成比25.0%)が最も多かった。サービス業は、従業員の不適切取引などによる「着服横領」や連結子会社での過大請求などの「誤り」が増えた。
次いで「製造業」の10社(同16.6%)。いずれも国内外の子会社、関連会社による製造や販売管理の体制不備に起因するものが多かった。
衣料品卸の(株)プロルート丸光(東証スタンダード)は2023年7月18日、雇用調整助成金の不正受給に関する第三者調査委員会の調査報告書を開示した。2021年3月期から2023年3月期第3四半期までの決算短信等で、上場規則に違反して虚偽と認められる開示を行い、2021年3月期の各段階利益の赤字を黒字と偽っていたことなどが判明した。2023年9月、東証は同社に対し改善報告書の徴求及び公表措置を行った。これ以降、プロルート丸光の経営は一段と悪化し、同年12月5日、大阪地裁に会社更生法の適用を申請した。
2023年10月、中小監査法人の双研日栄監査法人、青南監査法人、名古屋監査法人が合併し、ふじみ監査法人(東京都中央区)が設立された。また同年12月、四大監査法人の一角のPwCあらた監査法人とPwC京都監査法人が合併、PwC Japan有限責任監査法人(千代田区)が誕生した。
監査を請け負う顧客1社への報酬依存度が15%を超える状態が5年続くと、翌年からその企業の監査を担当できなくなるルールが2023年5月に導入された。監査業界の再編が進む中、不適切会計を起こさせないため、監査法人の監査機能がどこまで高まるか注目される。
コロナ禍が落ち着き、企業活動が回復するなか、2023年では60社、62件の不適切会計が判明した。不適切会計を根絶できない背景には、業績優先の意識やステークホルダーに対する情報隠蔽など、様々な要因がある。また、不適切会計が判明後の経営陣の対応が不十分なケースもあり、再発防止の仕組みづくりは容易ではない。上場企業は、改めてコンプライアンス(法令遵守)やコーポレートガバナンス(企業統治)の原点を見つめることが必要だろう。