2023年の「粉飾決算」関連倒産は11件 金融機関、企業の審査は対話が重要に
2023年(1-12月)「粉飾決算」関連倒産
2023年に「粉飾決算」が大きな契機になった関連倒産は、3年連続で11件にとどまった。粉飾決算は、主に金融機関からの資金調達や取引先からの信用維持のために手を染めることが多い。ただ、地域金融機関など約50行を対象にした堀正工業(株)(東京・取引停止処分)など、“優良企業”、“老舗企業”など先入観を悪用した巧妙な粉飾決算もあり、与信体制に一石を投じている。
2016年2月、日本銀行がマイナス金利を導入以降、金融機関では低金利の貸出競争が広がった。さらに、コロナ禍のゼロゼロ融資(実質無利子・無担保融資)などで、過剰債務を抱えた企業が増え、貸出先の確保に苦戦を強いられる金融機関もある。こうした新たな貸出先を探す金融機関の心理を突いて、企業が実態と乖離した財務諸表を作成するケースも少なくない。
コロナ禍では、政府による積極的な資金繰り支援に支えられ、本来は借入が難しい企業でも新たな資金を調達できた。このため、粉飾決算が表面化するケースは少なかった。しかし、コロナ禍を経て経済活動が活発になるなか、事業再生を目指す企業でこれまでの決算数値と資金繰りの辻褄が合わなくなり、金融機関に粉飾決算を告白する企業も出てきた。
ゼロゼロ融資の返済がピークを迎え、物価高や人件費の上昇などで企業の資金負担は増している。「倒産企業の7割~8割は粉飾決算」(金融機関)と指摘する声もある。粉飾決算の対処方法は、財務諸表の経験を積んだ分析力と、企業の成長性と本質を見抜く「目利き力」が改めて問われている。
※本調査は、「コンプライアンス違反」関連(建設業法、貸金業法などの業法違反や金融商品取引法などの法令違反、粉飾決算、脱税、詐欺・横領、不正受給など)から、「粉飾決算」関連を集計し、分析した。
✔主な倒産事例は、地域金融機関など約50行が取引し、多額の資金を調達していたベアリング販売の堀正工業(株)(東京・負債350億円・6月取引停止処分)。150年以上の歴史を誇る、医療用機器卸の白井松器械(株)(大阪・同86億9,600万円・9月民事再生法)。取引先の倒産で融通手形や架空取引が露呈した産業用機械製造の(株)トガシ技研(山形・同56億円・2月民事再生法)などがある。堀正工業や白井松器械は、20年以上にわたり粉飾決算を行っていた。
✔産業別は、最多が卸売業の4件(前年3件)。次いで、製造業の3件(同1件)、建設業の2件(同3件)と続く。
✔形態別は、最多が消滅型の破産の5件(同8件)。一方、再建型は民事再生法が4件(同ゼロ)、会社更生法が1件(同ゼロ)の合計5件だった。粉飾決算の発覚で信用が失墜しても、スポンサー次第で再建型にも、消滅型にもなる。粉飾とは別に、企業の本質がその後を左右している。
✔負債額別は、10億円以上が8件(同4件)、5億円以上10億円未満が前年と同数の1件、1億円以上5億円未満が2件(同6件)。2年連続で負債1億円未満は発生がなく、中堅企業が多いほか、粉飾決算で不正に資金を調達し負債が膨らんでいる。
「粉飾決算」が直接の引き金になった倒産は多くない。だが、倒産後に粉飾決算が判明するケースだけでなく、倒産していないために粉飾決算が発覚しないケースもある。企業は決算書だけでなく、業界の風評、業績の推移と取引実態を把握することが欠かせない。