• TSRデータインサイト

2023年の運送業の倒産 過去10年で最多の328件 「2024年問題」を前に、「燃料高」と「人手不足」が直撃

~ 2023年(1-12月)「道路貨物運送業」の倒産 ~


 2023年の道路貨物運送業の倒産は、2014年以降の10年間で最多の328件(前年比32.2%増)を記録した。このうち、原油高、円安を背景に、燃料費の高騰などの物価高が影響した倒産が121件(同75.3%増)、ドライバーなどの「人手不足」関連倒産が41件(同127.7%増)と大幅に増加した。
 価格転嫁が難しい小・零細事業者の倒産が増えており、運送業界の構造改革と同時に、企業側も物流体制の見直しが急務になっている。

 自動車運転従事者の有効求人倍率(パートタイム労働者含む)は、2023年11月に2.7倍となり、全体の1.2倍と比べ大幅に上回り、人手不足の深刻さが顕著になっている。ドライバーを確保できないことで受注機会を喪失し、上昇が続く燃料費などの各種コストを吸収できない企業も多い。
 これを裏付けるように、形態別では「破産」が299件(前年比32.8%増)と、9割(91.1%)を占めた。物価高騰や人手不足などで先行きを見通せず、破産を選択せざるを得ない苦境を示す。

 資本金別では、1千万円以上は90件(前年比11.7%減)と前年を下回ったが、1千万円未満は238件(同63.0%増)と大幅に増加し、小・零細企業が倒産を押し上げた事を鮮明に表している。

 ドライバーの時間外労働時間が年間960時間に上限規制される2024年4月まで3カ月を切った。この「2024年問題」で物流の停滞が懸念されている。特に、長距離輸送は持続的な配送が困難になるとの懸念も強く、中継地点の整備や環境負荷の小さい鉄道や船舶に利用を転換するモーダルシフトなども検討が進んでいる。

 これまで、業界内の暗黙の了解で燃料費の変動分、高速料金、荷待ち時間のロスタイムなどの負担を運送業者が強いられていた。トラックドライバーの待遇改善を図り、運送業者の市場退出を防ぐため、物流の効率化・適正運賃の徹底など産業界全体で慣習の見直しを迫られている。

※本調査は、負債1千万円以上の倒産集計から日本標準産業分類「道路貨物運送業」の2023年(1-12月)を抽出、分析した。


運送業者の倒産は328件、年間では9年ぶりに300件を超える

 2023年の道路貨物運送業の倒産は328件(前年比32.2%増)で、2014年(310件)以来、9年ぶりに300件を上回った。特に、12月は41件(前年同月比36.6%増)発生し、2023年の最多を記録した。月間40件台に乗せたのは、2013年6月以来、10年6カ月ぶりで増勢を強めている。
 燃料費の高騰などによる「物価高」倒産は121件(前年比75.3%増)で、前年の1.7倍に増加。燃料サーチャージ制などの導入も一部では進むが、小・零細企業では荷主との力関係から交渉が難航し、上昇する燃料費の価格転嫁が進まない企業も少なくない。
 「人手不足」関連倒産は、41件(同127.7%増)と前年の2.2倍と大幅に増えた。「求人難」が16件(前年5件)、「人件費高騰」が14件(同1件)と急増した。燃料費の高騰が経営に打撃を与えているが、同時に人手確保のための人件費上昇も大きな負担になっている。

道路貨物運送業の倒産 年間(1-12月)件数・負債額推移

【原因別】販売不振が7割

 原因別は、最多の「販売不振」が237件(前年比36.2%増)で、全体の7割(72.2%)を占めた。次いで、「既往のシワ寄せ(赤字累積)」が35件(前年同数)、「他社倒産の余波」が15件(前年比36.3%増)、「事業上の失敗」(前年比42.8%増)と「運転資金の欠乏」(前年比400.0%増)が各10件で続く。
 『不況型』倒産(既往のシワ寄せ+販売不振+売掛金等回収難)は、275件(前年比31.5%増)で全体の8割(構成比83.8%)を占めた。

2023(令和5)年 道路貨物運送業 原因別倒産状況

【形態別】破産が9割

 形態別は、消滅型が306件(前年比31.8%増)で、破産が299件(同32.8%増)と全体の9割(91.1%)を占めた。特別清算は7件(前年同数)だった。
 再建型は、民事再生法の8件(前年同数)にとどまった。業績低迷から経営を立て直せないまま、消滅型を選択せざるを得ない実態が浮き彫りになっている。
 このほか、取引停止処分が14件(前年比75.0%増)だった。

2023(令和5)年 道路貨物運送業 形態別倒産状況

【資本金別】1千万円未満が7割

 資本金別は、1千万円未満が238件(前年比63.0%増)で全体の7割(72.5%)を占めた。内訳は、最多の「1百万円以上5百万円未満」が96件(前年比68.4%増)、「5百万円以上1千万円未満」が86件(同86.9%増)、「個人企業他」が40件(同5.2%増)、「1百万円未満」が16件(同220.0%増)。中小・零細企業を中心に倒産が増加した。
 このほか、「1千万円以上5千万円未満」が87件(同10.3%減)、「5千万円以上1億円未満」が3件(同40.0%減)だった。

2023(令和5)年 道路貨物運送業 資本金別倒産状況

【負債額別】1億円未満が189件で約6割

 負債額別は、1億円未満が189件(前年比23.5%増)で全体の約6割(57.6%)を占めた。内訳は、「1千万円以上5千万円未満」が130件(前年比21.4%増)、「5千万円以上1億円未満」が59件(同28.2%増)だった。
 負債1億円以上は139件(同46.3%増)と前年の1.4倍に増加した。内訳は「1億円以上5億円未満」が116件(同45.0%増)、「5億円以上10億円未満」が17件(同54.5%増)、「10億円以上」が6件(同50.0%増)だった。

2023(令和5)年 道路貨物運送業 負債額別倒産状況

【従業員数別】10人未満が6割超

 従業員数別は、10人未満が212件(前年比26.1%増)で、全体の6割超(64.6%)を占めた。内訳は、「5人未満」が148件(前年比12.1%増)、「5人以上10人未満」が64件(同77.7%増)。
 このほか、「10人以上20人未満」が58件(同41.4%増)、「20人以上50人未満」が47件(同51.6%増)、「50人以上300人未満」が11件(同37.5%増)だった。

2023(令和5)年 道路貨物運送業 従業員数別倒産状況

人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

2024年度「人手不足倒産予備軍」  ~ 今後は「人材採用力」の強化が事業継続のカギ ~

賃上げ圧力も増すなか他社との待遇格差で十分な人材確保ができなかった企業、価格転嫁が賃上げに追い付かず、資金繰りが限界に達した企業が事業断念に追い込まれている。  こうした状況下で「人手不足」で倒産リスクが高まった企業を東京商工リサーチと日本経済新聞が共同で分析した。

2

  • TSRデータインサイト

2025年1-11月の「人手不足」倒産 359件 サービス業他を主体に、年間400件に迫る

深刻さを増す人手不足が、倒産のトリガーになりつつある。2025年11月の「人手不足」倒産は34件(前年同月比70.0%増)と大幅に上昇、6カ月連続で前年同月を上回った。1-11月累計は359件(前年同期比34.4%増)と過去最多を更新し、400件も視野に入ってきた。

3

  • TSRデータインサイト

【社長が事業をやめる時】 ~消えるクリーニング店、コスト高で途絶えた白い蒸気~

厚生労働省によると、全国のクリーニング店は2023年度で7万670店、2004年度以降の20年間で5割以上減少した。 この現実を突きつけられるようなクリーニング店の倒産を聞きつけ、現地へ向かった。

4

  • TSRデータインサイト

2025年1-11月の「税金滞納」倒産は147件 資本金1千万円未満の小・零細企業が約6割

2025年11月の「税金(社会保険料を含む)滞納」倒産は10件(前年同月比9.0%減)で、3カ月連続で前年同月を下回った。1-11月累計は147件(前年同期比11.9%減)で、この10年間では2024年の167件に次ぐ2番目の高水準で推移している。

5

  • TSRデータインサイト

地場スーパー倒産 前年同期の1.5倍に大幅増 地域密着型も値上げやコスト上昇に勝てず

2025年1-11月の「地場スーパー」の倒産が22件(前年同期比46.6%増)と、前年同期の約1.5倍で、すでに前年の年間件数(18件)を超えた。

TOPへ