• TSRデータインサイト

11月の「後継者難」倒産は39件 2023年は年間最多を更新も

~ 2023年11月の「後継者難」倒産 ~


 2023年11月の後継者不在に起因する「後継者難」倒産(負債1,000万円以上)は39件(前年同月比14.7%増)で、11月としては2年ぶりに前年同月を上回った。2023年の「後継者難」倒産は、一進一退で推移するが、1-11月累計は397件(前年同期比1.7%増、前年同期390件)に達し、年間最多を記録した前年(424件)を上回るペースで推移している。

 要因別では、最多が代表者の「死亡」の23件(前年同月比64.2%増)。次いで、「体調不良」の12件(同25.0%減)で、「死亡」と「体調不良」は合計35件(同16.6%増)と、「後継者難」倒産の約9割(89.7%)を占めた。経営不振に陥った企業は、後継者育成だけでなく、事業承継も後回しになっており、代表者に不測の事態が生じた場合、事業継続に支障を来すことが多い。
 産業別では、最多がサービス業他の9件(同±0.0%)。次いで、建設業8件(同100.0%増)、卸売業7件(同600.0%増)と続く。
 資本金別は、5百万円未満が18件(前年同月比80.0%増、構成比46.1%)と半数近くを占め、小・零細企業が主体だが、1千万円以上も17件(同21.4%増、同43.5%)と徐々に増勢を見せている。

 事業継続には、後継者育成や事業承継が重要となっている。業績不振に陥った中小・零細企業は、人的・資金的な余裕がなく、決断の遅れから倒産に向かう可能性が高い。それだけに、自治体や金融機関などが中小・零細企業に寄り添ったサポート体制が急務になっている。

※ 本調査は「人手不足」関連倒産(後継者難・求人難・従業員退職・人件費高騰)から、2023年11月の「後継者難」倒産(負債1,000万円以上)を抽出し、分析した。


「後継者難」倒産39件、11月では2年ぶりに前年同月を上回る

 2023年11月の「後継者難」倒産は39件(前年同月比14.7%増)で、11月では2年ぶりに前年同月を上回った。2023年1-11月累計は397件(前年同期390件)で、過去最多を記録した前年ペースを上回って推移している。
 コロナ禍の各種資金繰り支援が奏功し、2020年から2022年の企業倒産(負債1,000万円以上)は歴史的な低水準にとどまったが、「後継者難」倒産は構成比を高めていた。
 事業継続には、後継者の育成や事業承継が必要不可欠だ。さらに、金融機関による企業再生や再建支援、取引先の関係でも、後継者の有無が重要な要素になっている。
 将来的な事業承継も、経営者が50代までに決断しないと継承が難しくなる。さらに、経営者が60代、70代になると業績悪化の割合も高まるため、事業継承が余計に難しくなる現実もある。

「後継者難」倒産推移

【要因別】「死亡」が初めて20件台に乗せる

 要因別は、最多が代表者の「死亡」の23件(前年同月比64.2%増)で、3年ぶりに前年同月を上回り、11月では調査を開始した2013年以降で初めて20件台に乗せた。
 次いで、「体調不良」が12件(同25.0%減)で、6年ぶりに前年同月を下回った。
 「死亡」と「体調不良」の合計は35件(同16.6%増)で、3年ぶりに前年同月を上回った。構成比は89.7%(前年同月88.2%)だった。
 このほか、「高齢」が4件(前年同月比100.0%増)で、2年ぶりに前年同月を上回った。
 代表者の高齢化が進み、業績低迷から抜け出せない中小・零細企業は多い。そうした企業では、後継者の育成や事業承継の準備まで手が回っていない。そのため、代表者が亡くなったり、病気により事業に関わることが出来なくなった場合、事業継続をあきらめるケースが多い。

「後継者難」倒産 要因別(11月)

【産業別】増加4、減少3、同数3

 産業別では、10産業のうち、増加が4産業、減少と同数が各3産業だった。
 農・林・漁・鉱業が4件(前年同月比300.0%増)で2年連続、建設業が8件(同100.0%増)で3年ぶり、卸売業7件(同600.0%増)と不動産業2件(同100.0%増)が2年ぶりに、それぞれ前年同月を上回った。
 一方、製造業が4件(同60.0%減)で3年ぶり、小売業が4件(同33.3%減)で2年ぶりに、それぞれ前年同月を下回った。また、運輸業(前年同月1件)が、2019年以来、4年ぶりにゼロ。
 このほか、サービス業他9件と情報通信業1件が、それぞれ前年同月と同件数、金融・保険業は調査を開始した2013年以降、発生がない。

 業種別では、前年同月に発生がなかった酒場,ビヤホールが2件、花き作農業、肉用牛生産業、養豚業、製薪炭業、造園工事業、とび工事業、内装工事業、屋根工事業、電気通信工事業、受託開発ソフトウェア業、男子服卸売業、生鮮魚介卸売業、鉄鋼粗製品卸売業、電気機械器具卸売業、紙卸売業、呉服・服地小売業、調剤薬局、ガソリンスタンド、不動産管理業、フィットネスクラブ、自動車一般整備業が各1件だった。

「後継者難」倒産 産業別(11月)

【形態別】2年連続で破産が9割超

 形態別は、最多が破産の36件(前年同月比9.0%増)で、11月では3年ぶりに前年同月を上回った。構成比は92.3%(前年同月97.0%)で、2年連続で90%台で推移。
 一方、再建型の民事再生法は、2年ぶりに発生がなかった。
 中小・零細企業では、経営全般を代表者が担っているケースが多い。代表者の死亡や病気などにより業務遂行が難しくなると代わりの人材もなく、事業継続を断念し、破産を選択している。

「後継者難」倒産 形態別(11月)

【資本金別】1千万円未満が半数以上

 資本金別は、最多が1千万円以上5千万円未満の17件(前年同月比70.0%増)で、2年ぶりに前年同月を上回った。次いで、1百万円以上5百万円未満が13件(同44.4%増)、5百万円以上1千万円未満が4件(同60.0%減)、1百万円未満が3件(前年同月ゼロ)、個人企業他が2件(同1件)と続く。
 5千万円以上1億円未満(同3件)と1億円以上(同1件)は、11月では2年ぶりに発生しなかった。

「後継者難」倒産 資本金別(11月)

【負債額別】1億円未満の構成比が約7割

 負債額別は、最多が1千万円以上5千万円未満の18件(前年同月比38.4%増)で、11月では3年ぶりに前年同月を上回った。構成比は46.1%(前年同月38.2%)だった。5千万円以上1億円未満が9件(前年同月比12.5%増)で、1億円未満が27件(同28.5%増)と、全体の約7割(構成比69.2%)を占めた。10億円以上が2件(前年同月1件)で、2年連続で前年同月を上回った。一方、5億円以上10億円未満が1件(同2件)で2年ぶり、1億円以上5億円未満が9件(前年同月比10.0%減)と2年連続で、それぞれ前年同月を下回った。 

「後継者難」倒産 負債額別(11月)

人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

【TSRの眼】「トランプ関税」の影響を読む ~ 必要な支援と対応策 ~

4月2日、トランプ米国大統領は貿易赤字が大きい国・地域を対象にした「相互関税」を打ち出し、9日に発動した。だが、翌10日には一部について、90日間の一時停止を表明。先行きが読めない状況が続いている。

2

  • TSRデータインサイト

中小企業の賃上げ率「6%以上」は9.1% 2025年度の「賃上げ」 は企業の85%が予定

2025年度に賃上げを予定する企業は85.2%だった。東京商工リサーチが「賃上げ」に関する企業アンケート調査を開始した2016年度以降の最高を更新する見込みだ。全体で「5%以上」の賃上げを見込む企業は36.4%、中小企業で「6%以上」の賃上げを見込む企業は9.1%にとどまることがわかった。

3

  • TSRデータインサイト

ホテル業界 インバウンド需要と旅行客で絶好調 稼働率が高水準、客室単価は過去最高が続出

コロナ明けのインバウンド急回復と旅行需要の高まりで、ホテル需要が高水準を持続している。ホテル運営の上場13社(15ブランド)の2024年10-12月期の客室単価と稼働率は、インバウンド需要の高い都心や地方都市を中心に、前年同期を上回った。

4

  • TSRデータインサイト

2024年度の「後継者難」倒産 過去2番目の454件 代表者の健康リスクが鮮明、消滅型倒産が96.6%に 

2024年度の後継者不在が一因の「後継者難」倒産(負債1,000万円以上)は、過去2番目の454件(前年度比0.8%減)と高止まりした。

5

  • TSRデータインサイト

2025年「ゾンビ企業って言うな!」 ~ 調達金利の上昇は致命的、企業支援の「真の受益者」の見極めを ~

ゾンビ企業は「倒産村」のホットイシューです、現状と今後をどうみていますか。 先月、事業再生や倒産を手掛ける弁護士、会計士、コンサルタントが集まる勉強会でこんな質問を受けた。

TOPへ