• TSRデータインサイト

2024年の展望=2023年を振り返って(11)

 企業倒産は、2023年11月まで20カ月連続で前年同月を上回るなど、コロナ禍前の水準まで戻している。経済活動も平時に戻るなかにおいて企業業績は二極化が進み、2024年の企業倒産も一進一退を繰り返しながら増勢が続くとみられる。
 2024年の企業倒産の以下の3点が大きなキーポイントになるだろう。
 1つ目は、「ゼロゼロ融資」だ。コロナ禍での中小企業の緊急避難的な資金繰り支援として、企業倒産を大きく抑制した。しかし、政府の「とにかく資金を貸し出すように」という方針で、通常は借入できない企業だけでなく、リスケを受けている企業まで資金を調達できた。さらに、低金利貸出で苦しむ金融機関には通常の貸出に比べて金利が高く、また、回収不能となっても信用保証協会の100%保証のため、企業が必要とする以上の貸し出しが実行された。そのため、ゼロゼロ融資の副作用として、過剰債務という問題を引き起こした。
 コロナ禍では、売上が落ち込むなかで赤字補填資金として機能したが、コロナ禍での経済活動の停滞から本格的な再開に動き出すと運転資金需要が押し上がるが、業績回復が遅れた企業にとっては過剰債務の解決が先送りにされ、新たな資金調達ができない企業も少なくない。
 また、ゼロゼロ融資の返済という問題にも目を向けなければならない。2024年4月には、再び民間金融機関での返済のピークを迎える。「ゼロゼロ融資」利用後の倒産は、2023年1‐11月累計で587件(前年同期比46.0%増)に達している。業績回復が遅れている企業では、期間利益による返済原資の捻出も難しく、最長3年間の利子補給の期間が終了するとともに、企業の資金繰りに大きな負担となっている。民間ゼロゼロ融資等の返済負担軽減のための保証制度であるコロナ借換保証が、2023年1月に開始された。金融機関では利用は進んでいるが、一部では返済が難しい企業の倒産先送りという一面も有している。また、政府は、資本性劣後ローンやREVICの活用により企業再建に取り組むように促しているが、こうした支援の網からもれた中小・零細企業が倒産件数を押し上げる可能性がある。
 2つ目は、「物価高」。企業体力が脆弱な中小・零細企業にとって、資金繰りに大きな負担となっている。2023年1‐11月の「物価高」倒産は累計589件(前年同期比157.2%増、前年同期229件)と、前年同期の2.5倍に達した。外国為替相場は、2023年年初に比べ円安基調となっている。円安は、グローバル展開する大手企業や輸出企業などの業績好転に大きく貢献している。その一方で、原材料や資材などの価格高騰だけでなく、電気やガスなど光熱費上昇により、企業のコストアップを招き、企業収益に大きな影響を与えている。
 物価高により実質賃金は減少していて、消費動向の停滞により企業業績への影響も懸念される。
 3つ目は「人手不足」で、コロナ禍の人余りから、経済活動の再開の本格化とともに企業での人手不足が顕在化していて、人材確保のために賃上げは避けられない。2023年1‐11月累計は144件(前年同期比132.2%増)となった。「人件費高騰」が54件(前年同期7件)、「求人難」が55件(同27件)と大幅に増加している。また、「従業員退職」も35件(同28件)で、求人だけでなく、従業員退職を回避するための賃上げを迫られている。2024年も人手不足が続き、人材を確保できないことで失注などにより業績回復がさらに遅れ、資金繰りに行き詰まる企業もさらに増えるとみられる。
 金融庁などは、金融機関に対して企業からの相談を待つのではなく、積極的に自ら企業の現状把握に努め、企業の再生・再建への取り組みを求めている。ゼロゼロ融資の返済、物価高、人手不足に加え、2024年後半には金利上昇もテーマにあがりそうだ。
 2024年の企業倒産は11年ぶりに“1万件の壁”に迫る可能性もある。一方で、準則型を含めて私的整理の動きが活発化する可能性もあり、転換期を迎える年になるだろう。

ゼロゼロ融資利用後倒産 月次推移

人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

「社長の出身大学」 日本大学が15年連続トップ 40歳未満の若手社長は、慶応義塾大学がトップ

2025年の社長の出身大学は、日本大学が1万9,587人で、15年連続トップを守った。しかし、2年連続で2万人を下回り、勢いに陰りが見え始めた。2位は慶応義塾大学、3位は早稲田大学と続き、上位15校まで前年と順位の変動はなかった。

2

  • TSRデータインサイト

解体工事業の倒産が最多ペース ~ 「人手と廃材処理先が足りない」、現場は疲弊~

各地で再開発が活発だが、解体工事を支える解体業者に深刻な問題が降りかかっている。 2025年1-10月の解体工事業の倒産は、同期間では過去20年間で最多の53件(前年同期比20.4%増)に達した。このペースで推移すると、20年間で年間最多だった2024年の59件を抜いて、過去最多を更新する勢いだ。

3

  • TSRデータインサイト

ゴルフ練習場の倒産が過去最多 ~ 「屋外打ちっぱなし」と「インドア」の熾烈な競争 ~

東京商工リサーチは屋外、インドア含めたゴルフ練習場を主に運営する企業の倒産(負債1,000万円以上)を集計した。コロナ禍の2021年は1件、2022年はゼロで、2023年は1件、2024年は2件と落ち着いていた。 ところが、2025年に入り増勢に転じ、10月までの累計ですでに6件発生している。

4

  • TSRデータインサイト

銭湯の利益6割減、値上げは諸刃の剣 独自文化の維持へ模索続く

木枯らし吹きすさぶなか、背中を丸めながら洗面器を抱えて銭湯に…。寒くなると銭湯が恋しくなるのは、いつの時代も変わらない。サウナブームで光明が差すように見える銭湯だが、実際はそうではない。

5

  • TSRデータインサイト

「退職代行」による退職、大企業の15.7%が経験 利用年代は20代が約6割、50代以上も約1割

「退職代行」業者から退職手続きの連絡を受けた企業は7.2%で、大企業は15.7%にのぼることがわかった。退職代行はメディアやSNSなどで取り上げられ、代行利用や退職のハードルが下がり、利用者も増えている。

TOPへ