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支援慣れとモラルハザード=2023年を振り返って(3)

 コロナ禍の資金繰り支援は、「過剰債務」以外の副作用も生んだ。TSRは全国の労働局が10月31日までに公表した「雇用調整助成金」(以下、雇調金)等の不正受給企業を収集・分析した。不正受給で公表された件数は803件で、重複公表を排除すると799社の不正が明らかになった。コロナ禍での雇用維持を目的に、助成率・上限額が拡大されたが、雇調金の申請では事業実態や雇用状況を偽ったケースが相次いだ。
 支援のあり方も検証すべき時期を迎えている。TSRが今年6月に実施した企業アンケートによると、コロナ禍での企業支援策を「評価する」と回答した企業は45.1%と半数に届かなかった。ただ、支援策別の支持率(「評価する」と回答した割合)は、持続化給付金や家賃支援給付金、雇調金などの返済義務のないものが5割を超えた。「リスケ型」支援の支持率は8.8%にとどまり、「支援は受けるが、事後チェックは不要」とも読み取れる結果だ。
 また、TSRの企業データベースを基に、コロナ禍の前後で、メインバンクの変更有無による業績・財務の変化を調べた。すると、「変更あり」企業は借入総額・平均月商倍率の増加割合が「変更なし」企業を上回り、経常利益率の改善幅は下回った。「貸すも親切、貸さぬも親切」を地で行くメインバンクが「貸さぬ」判断をすると、一部の企業は他行へメイン替えした可能性がある。新たなメインバンクが深度ある対話に基づき、中長期的な展望に立った判断をすれば問題はないが、今回の分析結果は必ずしもそうではない示唆を含んでいる。
 コロナ支援は果たして誰を救ったのか。時間の経過とともに実相が浮かび上がる。

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