• TSRデータインサイト

来春の賃上げ 「2023年超え」は 1割にとどまる 原資の確保には 「価格転嫁」「人材開発」を重視

~ 2023年12月「賃上げに関するアンケート」調査 ~


 2024年の賃上げは、企業の8割(82.9%)が実施予定であることがわかった。人材確保や従業員の待遇改善のために賃上げは避けられず、大手企業と低収益にあえぐ企業の賃金格差が一段と拡大する可能性も出ている。東京商工リサーチ(TSR)が12月1日~11日にインターネットによるアンケートを実施した。
 政府は、2024年は今年(2023年)を上回る賃上げを求めている。だが、アンケート結果では、賃上げ幅が「2023年を超えそう」と回答した企業は、1割(11.6%)にとどまった。賃上げ機運は引き続き高まっているが、物価高騰などで収益が圧迫され、更なる賃上げには二の足を踏む企業が多いようだ。

 「2023年を超えそう」と回答した企業を産業別にみると、最高が不動産業で17.5%、次いで、情報通信業が15.6%と続く。一方、業績不振などで「2023年を下回る」、または「賃上げできそうにない」と回答した企業は、金融・保険業が42.4%で最も高かった。
 賃上げ原資の確保に必要なことは、最高が「既存製品・サービスの値上げ(価格転嫁など)」の65.2%で、大企業(65.3%)、中小企業(65.1%)ともに高水準だった。一方、「既存製品・サービスのコストダウン」は大企業が45.9%、中小企業が30.9%と開きがある。大企業はさらなるコストダウンも視野に入るが、経費削減が限界にきた中小企業への影響も検討すべきだろう。
 政府は、賃上げ実施企業を優遇する税制の拡充を決定し、持続的な賃上げを後押ししている。国内企業の99.7%を占める中小企業の賃上げは、GDPの6割を占める個人消費に直結する。大企業はコストダウンを意識しているが、産業界の健全な賃上げには発注企業が受注企業の価格転嫁を考慮した価格交渉を進めることが重要になっている。

※ 本調査は、2023年12月1日~11日、企業を対象にインターネットによるアンケート調査を実施し、有効回答4,581社を集計、分析した。
※ 賃上げは「定期昇給」「ベースアップ」「賞与の増額」「初任給の増額」「再雇用者の賃金増額」と定義した。
※ 資本金1億円以上を大企業、1億円未満(個人企業等を含む)を中小企業と定義した。


Q1. 貴社の2024年賃上げ動向は以下のどれですか?貴社の2023年の実績と2024年の見通しを比較してご回答ください。(択一回答)

2024年の賃上げが「2023年を超えそう」は1割にとどまる
 2024年の賃上げについて、実施予定の企業は82.9%(4,581社中、3,799社)と8割を超えた。内訳は、「2023年と同じ程度になりそう」が51.5%(2,363社)でトップ。「2023年を超えそう」は、11.6%(532社)と全体の1割にとどまった。「2023年を下回りそう」は19.7%(904社)だった。一方、「賃上げできそうにない」は17.0%(782社)だった。
 規模別では、「2023年を超えそう」は大企業が14.1%(453社中、64社)に対し、中小企業は11.3%(4,128社中、468社)で、大企業が中小企業を2.8ポイント上回った。
 中小企業は、「賃上げできそうにない」が17.9%(740社)と、大企業(9.2%)より8.7ポイント高い。業績不振から抜け出せず、賃上げへの取り組みが難しい中小企業も多いとみられる。

 2024年の賃上げが「2023年を超えそう」は1割にとどまる

産業別 「2023年を超えそう」最高は不動産業の17.5%

 産業別の構成比では、10産業全て「2023年と同水準」が最も高かった。 金融・保険業(48.4%)、不動産業(46.2%)、「情報通信業」(42.1%)を除く7産業で過半数を超えた。
 「2023年を超えそう」の構成比が最も高い産業は不動産業で17.5%(108社中、19社)だった。次いで、情報通信業15.6%(275社中、43社)、サービス業他13.1%(694社中、91社)、卸売業12.0%(1,003社中、121社)と続く。
 一方、農・林・漁・鉱業(8.6%)、製造業(9.9%)、金融・保険業(9.0%)は構成比が1割を下回った。
 「2023年を下回る」または「賃上げできそうにない」と回答した企業の構成比は、最高が金融・保険業で42.4%(33社中、14社)だった。次いで、情報通信業42.1%(275社中、116社)、農・林・漁・鉱業39.1%(23社中、9社)、製造業38.7%(1,417社中、549社)と続く。最低は、建設業の32.8%(636社中、209社)だった。

産業別賃上げ幅

業種別 「2023年を超えそう」トップは倉庫業

 「2023年を超えそう」の構成比を業種別(中分類、回答母数10以上)で見ると、最高が倉庫業で26.6%だった。倉庫業は、EC取引の拡大を追い風に需要が増加傾向にあり、自動化やデジタル化で業務の効率化が進む企業もみられる。
 次いで、政治・経済・文化団体24.0%、不動産取引業21.8%、自動車整備業20.8%、宿泊業20.0%が続く。「2023年を超えそう」が2割を超えた業種は5業種のみだった。
 「2023年を下回る」「賃上げできそうにない」を合算した構成比の最高は、テレビ番組、アニメなどの制作会社や新聞、出版業などが分類される映像・音声・文字情報制作業の66.6%で、唯一6割を超えた。海外のコンテンツサービス会社の台頭などで、メディアや出版関連の消費者ニーズが多様化している。競合環境は厳しさを増しており、賃上げが難しい企業が多いようだ。
 以下、飲食店55.0%、広告業53.5%と続く。5割を超えた業種は8業種だった。

左:「2023年を超えそう」業種別(母数10以上) 右:「2023年を下回る」「賃上げできそうにない」業種別(母数10以上)

Q2.賃上げ原資の確保に必要なことは次のどれですか?(複数回答)

「既存製品・サービスの値上げ(価格転嫁など)」が6割超
 最高は、「既存製品・サービスの値上げ(価格転嫁など)」の65.2%(4,779社中、3,116社)。大企業が65.3%(525社中、343社)、中小企業が65.1%(4,254社中、2,773社)と規模別でもほぼ同水準だった。
 次いで、「従業員教育による生産性向上」が44.3%(2,119社)が続く。規模別では、大企業が51.8%(272社)と、中小企業の43.4%(1,847社)を8.4ポイント上回る。大企業は、中小企業よりも人材開発を重視する傾向がみられる。
 大企業は「既存製品・サービスのコストダウン(原価低減など)」が45.9%(241社)と3番目に高いが、中小企業は30.9%(1,316社)にとどまり、格差は15.0ポイントだった。中小企業は、「販売が多く見込める新規製品・サービスの投入」が33.0%(1,404社)と3番目に高く、コスト削減よりも販売量の増加を重視する傾向がみられた。
 「賃上げを実施した際の税制優遇の拡大」は14.9%(714社)だった。大企業が11.2%(59社)に対し、中小企業が15.3%(655社)と4.1ポイント上回り、行政支援を求める声もあがる。
 12月14日に決定された令和6年度の与党税制改正大綱では、賃上げ実施企業を優遇する税制が拡充された。大企業は賃上げ要件のレンジが追加され、税額控除率が最大35%に引き上げられる。中小企業は、税額控除率の最大45%への引き上げに加え、繰越控除制度の創設で当期の税額から控除できなかった分を5年間繰り越すことが可能となった。今後はこうした税制面での支援が企業に実効をもたらすか注目される。

「既存製品・サービスの値上げ(価格転嫁など)」が6割超

人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

「人手不足」企業、69.3%で前年よりも悪化 建設業は8割超が「正社員不足」で対策急務

コロナ禍からの経済活動の再活性化で人手不足が深刻さを増し、「正社員不足」を訴える企業が増加している。特に、2024年問題や少子高齢化による生産年齢人口の減少などが、人手不足に拍車をかけている。

2

  • TSRデータインサイト

「食品業」倒産 2年連続増加の653件 原材料やエネルギー価格、人件費上昇が負担

歴史的な円安が続くなか、歯止めが掛からない食材の価格上昇、人件費などのコストアップが食品業界の経営を圧迫している。2023年度(4-3月)の「食品業」の倒産(負債1,000万円以上)は653件(前年度比16.3%増)で、2年連続で前年度を上回った。

3

  • TSRデータインサイト

【破綻の構図】テックコーポレーションと不自然な割引手形

環境関連機器を開発していた(株)テックコーポレーションが3月18日、広島地裁から破産開始決定を受けた。 直近の決算書(2023年7月期)では負債総額は32億8,741万円だが、破産申立書では約6倍の191億円に膨らむ。 突然の破産の真相を東京商工リサーチが追った。

4

  • TSRデータインサイト

2024年の「中堅企業」は9,229社 企業支援の枠組み新設で、成長を促進し未来志向へ

東京商工リサーチの企業データベースでは、2024年3月時点で「中堅企業」は9,229社(前年比1.2%増、構成比0.7%)あることがわかった。うち2023年の中小企業が、2024年に「中堅企業」に規模を拡大した企業は399社だった。一方、「中堅企業」から「中小企業」へ規模が縮小した企業も311社みられた。

5

  • TSRデータインサイト

「経営者保証」 75%の企業が「外したい」 保証料率の上昇、金融機関との関係悪化を懸念する声も

資金調達時の経営者(個人)保証について、「外したい」と回答した企業が75.5%にのぼり、経営者保証に拠らない融資へのニーズが大きいことがわかった。ただ、保証料率の上乗せや金融機関との関係悪化を懸念して経営者保証を外すことに慎重な企業も多い。

TOPへ