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ALPS処理水放出 「影響がある」企業は2.9% 水産物を中心に、飲食料品関連は10%を超える

~ 「処理水放出に関するアンケート」調査 ~


 東京電力は2023年8月、福島第一原子力発電所のALPS処理水(以下、処理水)の海への放出を始めた。中国など一部の国や地域は、日本の水産物の輸入規制を強化した。その影響について、東京商工リサーチ(TSR)は12月1~11日にインターネットによるアンケート調査を実施した。
 処理水の海洋放出で、マイナスの「影響がある」と回答した企業は全体の2.9%だった。このうち、「禁輸措置で販売が減少した」は5割強(52.3%)と半数を超えた。対応策では、「国内販売の強化」が60.1%、「当該事業・扱い品の縮小」は15.2%だった。

 アンケート調査は、全国の5,022社から回答があった。処理水の海洋放出でマイナスの影響を受けた企業は2.9%だったが、業種別で水産物製造や販売など飲食料品関連への影響が大きく、業種により大きな差が出た。「影響がある」と回答した企業のうち、具体的な影響は「禁輸措置で販売が減少した」が52.3%を占めるなど、輸入規制の影響が重いと回答した企業が多かった。

 マイナスの影響への対応では、「国内販売の強化」が60.1%、「輸入の規制地域以外への販売強化」が34.7%と、新規開拓を挙げる企業が目立った一方で、「当該事業・扱い品を縮小する」も15.2%あり、対策に苦慮している企業があることもわかった。

 国や東京電力は、水産業などへの支援、賠償などを進めている。しかし、輸入規制の長期化や国内販売の競争が激化するなど、経営環境が依然として厳しい業種も多い。書き入れ時期の年末年始で業績が回復せず、先行きを見通せない企業の廃業や倒産の動向に注意が必要だ。

※ 本調査は、2023年12月1日~11日にインターネットによるアンケート調査を実施し、有効回答5,022社を集計・分析した。
※ 資本金1億円以上を大企業、1億円未満(個人企業等を含む)を中小企業と定義した。


Q1.福島第一原子力発電所の処理水の海洋放出は、貴社の事業にマイナスの影響はありますか?(択一回答)

「影響がある」2.9%
 処理水の海洋放出で、風評被害など事業にマイナスの影響が「ある」との回答は2.9%(5,022社中、148社)だった。
 一方、影響が「ない」は97.0%(4,874社)だった。
 影響が「ある」は、全体では限定的にとどまるが、業種別(母数10以上)では清酒製造業などを含む「飲料・たばこ・飼料製造業」が17.2%(29社中、5社)、生鮮魚介類卸売業など「飲食料品卸売業」14.9%(134社中、20社)、水産練製品製造業
など「食料品製造業」13.9%(143社中、20社)を中心に飲食料品関連業種で影響が大きく、業種によって大きな差が出た。
 規模別では、影響が「ある」は大企業が4.5%(571社中、26社)、中小企業が2.7%(4,451社中、122社)で、大企業が1.8ポイント高かった。


 「影響がある」2.9%

Q2.Q1で「影響がある」と回答された方に伺います。どのような影響ですか?(複数回答)

禁輸措置で販売減が5割強
 「影響がある」の内容は、「禁輸措置で販売減」が52.3%(130社中、68社)で最も高かった。次いで、「中国など一部の国や地域の企業との商談が停滞した」が27.6%(36社)と、輸出の影響が大きかった。ただ、国内でも「風評により日本国内向け販売が減少した」が26.1%(34社)と影響が出ている。

禁輸措置で販売減が5割強

Q3.Q1で「影響がある」と回答された方に伺います。マイナスの影響にどのように対応しますか?(複数回答)

マイナス影響への対策 国内販売の強化が60.1%
 マイナスの影響に対する対応策は、「国内販売を強化する」が60.1%(118社中、71社)で最も高かった。
 次いで、「中国など一部の国や地域以外の海外販売を強化する」が34.7%(41社)だった。ただ、これは大企業が50.0%(22社中、11社)に対し、中小企業は31.2%(96社中、30社)と20ポイント近く差があり、中小企業は輸出先の変更が難しいようだ。 
 また、「当該事業・扱い品を縮小する」も15.2%(18社)あった。

マイナス影響への対策 



 処理水の海洋放出は、企業全体の影響は2.9%と大きくなかった。ただ、水産物など飲食料品関連の企業には影響が出ている。影響が「ある」と回答した企業は、鹿児島県(7.1%)や高知県(6.6%)、福島県(6.5%)、北海道(6.5%)、宮崎県(6.2%)、岩手県(5.6%)など、国内各地の水産物関連が中核産業の地域に広がっている。
 2023年9月、政府は「水産業を守る」政策パッケージ(総額1,007億円)を創設し、風評被害が生じた事業者への東京電力による賠償受付も10月に始まり、支援は拡充されている。しかし、マイナスの影響を受けた企業の対応策は、「国内外の販売強化」など具体策を欠く回答が多く、物価高で個人消費が鈍化する厳しい経営環境のなかで、競合や新規開拓などの負担が増している。
 コロナ禍やコスト高などが重なり、漁業や水産物の加工販売会社の倒産がジワリと増えてきた。2023年1-11月の倒産(負債1,000万円以上)は109件(前年同期95件、前年同期比14.7%増)で、2020年同期(103件)以来、3年ぶりに100件を上回った。
 コロナ関連支援で過剰債務の解消が遅れた企業も多い。また、処理水放出で一部の国や地域の輸入規制の強化も続いており、政府や地元自治体は水産業を中心に、影響を受ける産業への支援継続が求められる。 


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