• TSRデータインサイト

Xアイコン
facebookアイコン

日本生協連・土屋敏夫会長 単独インタビュー(後編)~ 商品の値上げ「コスト増加分の転嫁が課題」 ~

―小売や運送では人手不足が深刻化している

 人手不足は経営課題のなかでも、最大の懸念と言える。物価が上昇するなか、“暮らしを守る”という生協の役割から、組合員の皆さんとのコミュニケーションを大切にしながら商品のお届けや売り場を進めている。しかし人手不足によって、今は日常の業務を回すことを最優先に取り組んでいる状況だ。
 我々はトラックで各ご家庭に商品をお届けしているが、このトラックで配達する職員の数が、今後不足していくことが想定され、事業を継続する最大のボトルネックになっていくことになる。
 「生協さん(の宅配)を始めたい」という声は多くいただくなかで、「もっと宅配の職員がいれば」という場面があるかもしれない。

―配達人員の不足感から、新規加入を「お断り」するケースは

 コロナ禍当初は、需要が急増し、新規加入をお断りする事例や、また宅配の現場でコロナ罹患者が出たときに、それ以外の部署が応援に出て配達することがあった。すでに他の業務に携わる人員が配達の応援に出ながら現場を作ったり、バックオフィスのような仕事をしている職員が、配達の現場を手伝う場面もある。「新しい顧客を開拓する」専門の要員を捻出できない状況にある。それが日常化した感がある。
 コロナ禍では雇用も緩み、一時は人手不足(欠員)の状況が改善していたが、コロナ後の経済活動の再開とともに、採用も厳しくなってきた。

―物流の人手不足を解消するには

 生協のみならず物流各企業もそうだと思うが、トラック従業員に対し、もっと働きやすい環境をつくることや適切な賃上げを含めた待遇改善が急がれる。
 人手不足は、物流だけではない。店舗を整備する、朝早くからお魚を切る、福祉事業では介護に従事するヘルパーさんの確保などあらゆるところで人員は足りない。
 特に、ヘルパーさんの不足は深刻で、大変な問題だ。生協も小売事業、物流事業の現場、福祉の現場を持っているが、今までの構造を変えて多くの若者に魅力ある職場、女性やシニアが働きやすい職場環境に変えていかないといけない。

―待遇改善には商品・サービスへの価格転嫁が欠かせない

 例えば、メーカーからの価格引き上げは、当然売価に反映している。その一方で、自分たちの配達のコスト、トラックのガソリン代のコストなどもそこに乗せなければいけないが、これがかなり後回しになっている。仕入れの価格が上がった部分は転嫁しやすい。だが、自分たちのコストアップを乗せることは、まだ十分にできない。食料品の値上げも約2年と長期化しているので、消費者の皆さんにご理解いただきながら、コスト増分をしっかり転嫁しなければならない段階にある。

―地方では地場スーパーの倒産、廃業も散見される。“買い物弱者”が増えるのでは

 特に、地方はそういう層が増えると思う。ただ、それでもまだプレーヤーが多い状態。運営コストもまだ上昇するなかで、大手の寡占化も進み、ローカルのお店が閉めざるを得ない大変な状況にある。生協は独自のインフラで「ラストワンマイル」を守る必要性が高まっている。店舗がなくても宅配・共同購入は、すべてのご家庭に対応したサービスとして北海道から沖縄まで全県網羅している。これをなんとか維持したいと思っている。

―過疎地域で生協の自助努力だけで営業継続できるのか

 その地域がどういう買い物インフラを維持したいのかということを把握し、地域の中の困りごとに対して、我々がどう貢献できるか、行政や地域諸団体、企業と協力した取り組みをすすめることが重要だ。インフラ維持は工夫次第で、空き店舗を活用するなど、ケースバイケースでその地域にあったサービスを行う。
 例えば、福井ではファミリーマートと協力して出店している。宮城では農協と共同で、三重では社会福祉協議会が小さなテナントを用意して、品ぞろえや規模に制約があるが、そこに生協が商品を入れる形式で運営する。要望と実施可能性があれば、応えたいと思う。行政との相談が必要なケースも含めて、これからもこうした事例は増えていくだろう。

―食品原料となる飼料や肥料の価格も上がっている。生産現場も厳しさを増すなか、生産者からはどのような声が寄せられている?

 生協の産直事業というのは、コープ商品と同じぐらい大事な二本柱。産直事業は生産者と日常的に交流しながら、比較的生産者の要望やニーズを受け止めやすい構造になっていると認識している。だが、「生産の実情を知ってもらうための機会をもっと増やしてほしい」とか、「適切な商品価格を維持してほしい」など、様々な声がある。

―産直事業の生産者を取り巻く状況は?

 値決めをするにあたり、市場の相場価格とは少し距離を置いた形で買っている。実際の出荷より大分前に値決めをするので、生産者の実情に対して価格転嫁の議論はしやすい環境にあると思う。産直は、事前に値決めを行うので、消費者へも事前の価格提示がされ、一方的に生産者が買いたたかれることはない。しかし供給量の大小によって価格のギャップが生じるため注文数の予測がしにくい。
 たとえば市況との関係で、供給量が少ない時は生協の注文が集中し、逆に供給量が多い時は生協の利用が低迷するので、量の調整が大変難しい。企画設定や注文状況などの情報共有と日常的な信頼関係づくりがとても重要となってくる。


宅配商品について説明する土屋会長
宅配商品について説明する土屋会長

 

 長く築いてきた産直の歴史の中で、生産者との信頼関係は代えがたく、生産コストが厳しい状況には、価格を適正に上げないと農業を守っていけないと思っている。
 無理をして誰かが得をし、その一方で誰かが損をする、という時代ではない。生産、物流に関するコストの理解を消費者へ促し、適正な価格を維持しなければならない。
 商品価格について、前提として、さらなる人件費アップや物流2024年問題などへの新たな対応が必要となっている。
 商品の課題としても、オーガニック、環境配慮、人権問題などのエシカル消費の推進や国内の農業支援、SDGs重視への社会的な環境経済へシフトさせることも急がれる。 こうした重要な問題はあいまいにしてはいけない。困難課題をサプライチェーン全体でしっかり向き合い、乗り越えていくことが重要だ。



 2022年4月以降、実質賃金が19カ月連続で前年を下回る状況が続いている。店舗、宅配での購買動向から土屋会長は、「ずっと生活が苦しいなかで円安が続く。好転するきっかけが見えない」と現状を語る。2024年の実質賃金も「この(前年比減の)傾向が続きそう」とみる。
 厳しさを増す暮らしのなかで、全国で宅配網、店舗を抱える生協は「買い物インフラの維持」が大きな課題だ。47都道府県すべてで宅配事業を展開するため、人手不足、エネルギー価格の高騰など、物流を取り巻く環境が経営に影響する。物流人材を中心に賃金の改定や労働環境の改善などを検討する一方で、自社コスト分の価格転嫁は容易ではない。
 流通業界は大きな過渡期にある。地方では地場スーパーの撤退も散発している。こうした時期こそ、生協の強みである会員とのつながりを生かしながら、関係先との連携でインフラ維持など生協ならではの細やかな策を打ち出すことが求められている。


(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2023年12月18日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)

Xアイコン
facebookアイコン

人気記事ランキング

ランキング1位
  • TSRデータインサイト

「最低賃金」改定で、51.3%の企業が「給与変更」 2020年代の1,500円 「対応不可能」が4割切る

厚生労働省は9月3日、2026年度の全国の最低賃金額(平均)を1,177円(56円増)に引き上げた。 1978年度に目安制度が始まって以降、平均引き上げ額56円は前年度に続き2番目の高さで、これを受けて給与改定を迫られる企業が半数に達することがわかった。

2

  • TSRデータインサイト

1-9月「医療機関」倒産 過去最多の59件 身近なクリニック、歯科医院で苦境が鮮明

医療機関の倒産が再び勢いを増している。2026年1月-9月に倒産した病院・クリニック(診療所)・歯科医院などの「医療機関」は59件(前年同期比28.2%増)と、過去最多を更新した。

3

  • TSRデータインサイト

「税金滞納」倒産が168件、前年同期の2倍に大幅増 2026年度上半期の「税金滞納」倒産 破産が97.6%

2026年度上半期(4-9月)の「税金滞納(社会保険を含む)」倒産は、168件(前年同期比100.0%増)と、前年同期の2倍に達し、この10年で最多を記録した。物価や人件費などのコストアップが企業収益を圧迫し、納税原資を確保できない小・零細企業の行き詰まりに拍車を掛けている。

4

  • TSRデータインサイト

「社会保険の適用拡大」 中小・零細企業ほど負担増 企業の44.9%が「働き控え」懸念、「未対応」も半数

2026年10月から非正規従業員にも社会保険の適用が拡大された。「月収8万8,000円以上」の賃金要件が撤廃され給与額に関わらず条件を満たす社員は、新たに厚生年金や健康保険の加入対象となる。10月1~8日企業を対象に「社会保険適用の基準変更」に関するアンケート調査を実施した。

5

  • TSRデータインサイト

2026年1-9月「デイサービス」倒産47件 同期間で過去最多、介護業界の苦境鮮明

デイサービスなど「通所・短期入所介護事業」の倒産が増加している。2026年は9月までに47件(前年同期比34.2%増)と大幅に増加し、1-9月で過去最多を更新した。多様化するサービスなど、他社との競争が激化するほか、物価高に人手不足も重なり、苦境が深まっている。

TOPへ