• TSRデータインサイト

「人手不足」倒産は1-10月累計で128件 前年の年間件数の2倍に達する

2023年(1-10月)「人手不足」関連倒産の状況


 2023年10月の「人手不足」関連倒産は、14件(前年同月比100.0%増)で、1-10月累計は128件(前年同期比141.5%増)となった。これは、2019年同期の132件に次ぐ、2013年以降では2番目の高水準となった。現状ペースで推移すると、2019年(156件)を抜き、年間最多を更新する可能性も出てきた。
 要因別では、「人件費高騰」が48件(前年同期6件)、「求人難」が48件(同25件)と大幅に増加している。また、「従業員退職」も32件(同22件)で、求人だけでなく、従業員退職による賃上げを迫られ、経営体力がぜい弱な企業ほど資金繰りに大きな影響を受けている。

 2023年10月の「人手不足」関連倒産の内訳は、最多が「人件費高騰」の8件(前年同月1件)で、「求人難」2件と「従業員退職」は4件は前年同月と同件数だった。
 1-10月累計の産業別は、最多がサービス業他の42件(前年同期比100.0%増)。次いで、運輸業の33件(同450.0%増)、建設業の25件(同127.2%増)で、コロナ禍前からの人手不足が一段と深刻さを増している。

 2023年10月に最低賃金が引き上げられた。だが、人手不足の解消めどが立たない企業も多く、さらなる人件費の上昇は企業収益への影響が避けられない。人材確保に加え、物価上昇に見合った賃上げが望ましく、対応できない企業の倒産だけでなく、先行き見通しが立たず休廃業を加速させることも懸念される。

※本調査は、2023年(1-10月)の全国企業倒産(負債1,000万円以上)のうち、「人手不足」関連倒産(求人難・従業員退職・人件費高騰)を抽出し、分析した。(注・後継者難は対象から除く)



「人手不足」関連倒産128件、前年同期の2.4倍に増加

 2023年(1-10月)の「人手不足」関連倒産は128件(前年同期比141.5%増)で、前年同期の2.4倍に急増した。1-10月では、2019年(132件)以来、4年ぶりに100件を超えた。
 件数の128件は、すでに前年の年間件数62件の2倍に達し、人手不足の深刻さを際立たせている。
 経済活動の本格化で年初来、人手不足が顕在化している。「人手不足」関連倒産の内訳は、「人件費高騰」(前年同期6件)と「求人難」(同25件)が各48件、「従業員退職」が32件(同22件)だった。「人件費高騰」は前年同期の8.0倍、「求人難」は同1.9倍に急増し、高騰する人件費をいかに吸収するか、企業にとっては大きな課題となっている。
 世界的にコロナ禍で経済活動が停滞すると、企業は一時的に人余りが表面化した。一方で、「人手不足」関連倒産は2020年同期87件、2021年同期49件、2022年同期53件と低水準で推移したが、ここにきて人手不足が顕在化している。資金余力が乏しい企業は賃上げが進まず、人材が流出するだけでなく人材確保も難しい。抜本的な改善策が見出せないなか、2023年年間の「人手不足」関連倒産は過去最多を更新する可能性も出てきた。

「人手不足」関連倒産(1-10月)

【要因別】人件費高騰が前年同期の8.0倍に急増

 要因別では、「人件費高騰」が48件(前年同期比700.0%増)で、前年同期の8.0倍に急増した。また、「求人難」も48件(同92.0%増)で、前年同期の約2倍に増加した。
 「人件費高騰」だけでなく、「求人難」も、調査を開始した2013年以降で最多を記録した。
 「従業員退職」は32件(同45.4%増)で、4年ぶりに前年同期を上回った。
 コロナ禍からの経済活動の本格的な再開で、企業の人手不足感が一段と強まり、人材確保のために賃上げは避けられなくなっている。しかし、資金余力が乏しい企業ほど、賃上げが資金負担の増大を招きかねない。一方で、賃上げが難しい企業では、事業維持のための人材を採用できないだけでなく、従業員の退職による人材流出が進むことも危惧される。

「人手不足」関連倒産 要因別(1-10月)

【産業別】運輸業が前年同期の5.5倍に

 産業別は、10産業のうち、農・林・漁・鉱業、卸売業、金融・保険業を除く7産業で前年同期を上回った。
 最多は、サービス業他の42件(前年同期比100.0%増、前年同期21件)。このうち、飲食業(4→12件)、生活関連サービス業,娯楽業(1→9件)などで前年同期を上回った。
 次いで、2024年問題を間近に控えドライバー不足が顕著な運輸業が33件(前年同期比450.0%増、前年同期6件)、コロナ禍前から慢性的な人手不足が続く建設業が25件(同127.2%増、同11件)で続く。いずれも、労働集約型の産業である点が共通している。
 このほか、製造業が10件(前年同期比42.8%増)で2年連続、小売業が7件(同133.3%増)で4年ぶり、情報通信業が6件(同500.0%増)で3年ぶりに、それぞれ前年同期を上回った。また、不動産業が1件で、2年ぶりに発生した。
 一方、卸売業が前年同期と同件数の4件。農・林・漁・鉱業と金融・保険業が、それぞれ3年連続で発生がなかった。

 業種別では、最多が一般貨物自動車運送業の26件(前年同期比420.0%増、前年同期5件)で、前年同期の5.2倍に急増した。このほか、訪問介護事業が6件(前年同期1件)、土木工事業、建築リフォーム工事業、受託開発ソフトウェア業、配達飲食サービス業が各4件、とび工事業、ラーメン店、酒場,ビヤホール、普通洗濯業、エステティック業が各3件、木造建築工事業、内装工事業、電気通信工事業、豆腐・油揚製造業、貨物軽自動車運送業、こん包業、各種食料品小売業、広告業、劇団、自動車一般整備業が各2件などで、前年同期を上回った。

「人手不足」関連倒産 産業別(1-10月)

【形態別】消滅型の破産が94.5%

 形態別は、最多が「破産」の121件(前年同期比132.6%増)で、2年連続で前年同期を上回り、4年ぶりに100件を超えた。一方、再建型の「民事再生法」は前年同期と同件数の1件だった。このほか、特別清算が2件で2年ぶり、取引停止処分が4件で3年ぶりに、それぞれ発生した。
 業績不振が続く企業は、資金余力が乏しく新たな従業員を採用する余裕もない。また、従業員をつなぎとめるための待遇面向上を行うことも難しい。このため、人手不足で稼働率低下や営業機会を逸失し、先行きの見通しが立たずに破産を選択するケースが増えていることを示している。

「人手不足」関連倒産 形態別(1-10月)

人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

コロナ破たん累計が1万件目前 累計9,489件に

4月は「新型コロナ」関連の経営破たん(負債1,000万円以上)が244件(前年同月比9.9%減)判明した。3月の月間件数は2023年3月の328件に次ぐ過去2番目の高水準だったが、4月は一転して減少。これまでの累計は9,052件(倒産8,827件、弁護士一任・準備中225件)となった。

2

  • TSRデータインサイト

堀正工業(株) ~約50行を欺いた粉飾、明細書も細かく調整する「執念」 ~

東京には全国の地域金融機関が拠点を構えている。今回はそれら金融機関の担当者が対応に追われた。最大54行(社)の金融機関やリース会社から融資を受けていた老舗ベアリング商社の堀正工業(株)(TSR企業コード:291038832、東京都)が7月24日、東京地裁から破産開始決定を受けた。

3

  • TSRデータインサイト

インバウンド需要で「ホテル経営」が好調 8割のホテルが稼働率80%超、客室単価の最高が続出

コロナ禍の移動制限の解消と入国審査の緩和で、ホテル需要が急回復している。ホテル運営の上場13社(15ブランド)の客室単価と稼働率は、インバウンド需要の高い都心や地方都市を中心に、コロナ禍前を上回った。

4

  • TSRデータインサイト

2024年4月の「円安」関連倒産 1件発生 発生は22カ月連続、円安の影響はさらに長引く可能性も

2024年4月の「円安」関連倒産は1件発生した。件数は、3カ月ぶりに前年同月を下回ったが、2022年7月から22カ月連続で発生している。 3月19日、日本銀行はマイナス金利解除を決定したが、じりじりと円安が進み、4月29日の午前中に一瞬34年ぶりに1ドル=160円台に乗せた。

5

  • TSRデータインサイト

約束手形の決済期限を60日以内に短縮へ 支払いはマイナス影響 約4割、回収では 5割超がプラス影響

これまで120日だった約束手形の決済期限を、60日に短縮する方向で下請法の指導基準が見直される。約60年続く商慣習の変更は、中小企業の資金繰りに大きな転換を迫る。 4月1~8日に企業アンケートを実施し、手形・電子記録債権(でんさい)のサイト短縮の影響を調査した。

TOPへ