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「コンプライアンス違反」は「取引見直し」が3社に1社 業種別の最多は「自動車整備業」56.0%

~ 「コンプライアンスに関するアンケート」調査 ~


 ビッグモーターやジャニーズ事務所など、企業が絡むコンプライアンス(法令順守)に関する問題が相次いで表面化した。ビッグモーターは創業者一族が退陣し、ジャニーズ事務所では所属タレントのCM起用中止などで、取引先が対応に追われた。
 東京商工リサーチは10月、コンプライアンスに関するアンケート調査を実施した。取引先のコンプライアンス違反が判明した際、「取引の打ち切りや縮小を検討する」との回答が32.4%に達した。3社に1社が取引中止を含む対応を検討すると回答し、コンプライアンス違反に対する社会の視線はますます厳しくなっている。

 自社のコンプライアンス遵守について、何らかの取り組みを行っている企業は大企業が96.3%、中小企業は77.8%だった。大企業は、コンプライアンスの意識付けがかなり進んできているが、中小企業はまだまだ整備が必要な段階にあることがわかった。

 業種別では、取引先のコンプライアンス違反が判明した際、取引を見直すとの回答が最も高かったのは、「自動車整備業」の56.0%だった。ビッグモーター問題は、業界全体の信頼性に影響を及ぼしており、コンプライアンス遵守に対する意識が高まったとみられる。

 コンプライアンス違反は法令に基づく罰則等の処分だけでなく、取引先との関係にまで深刻な影響を与える経営リスクの一つだ。著名企業のコンプライアンス違反の発覚は、規模に関係なくすべての企業に対し、コンプライアンス遵守の重要性についての警鐘を鳴らしている。

※ 本調査は、2023年10月2日~10日にインターネットによるアンケート調査を実施し、有効回答5,175社を集計・分析した。
※ 資本金1億円以上を大企業、1億円未満(個人企業等を含む)を中小企業と定義した。


Q1. コンプライアンスについて伺います。貴社ではコンプライアンス遵守に向けて、どのような取り組みをしていますか?(複数回答)

大企業はコンプライアンスへの取り組みが進む
 コンプライアンス遵守に向け、何らかの取り組みを「行っている」企業は80.3%(5,175社中、4,157社)と8割を超えた。
 取り組み内容では、最多は「社内規則、業務マニュアル・ガイドラインの改訂」の50.0%(2,588社)だった。次いで、「社内研修の開催やe-ラーニング受講環境の整備」29.3%(1,517社)、「社内通報窓口の設置」27.6%(1,433社)、「従業員への定期的なヒアリング」27.3%(1,415社)の順。「特に取り組んでいない」は19.6%(1,018社)。

 規模別では、「取り組んでいる」は大企業が96.3%(704社中、678社)に対し、中小企業では77.8%(4,471社中、3,479社)と8割を下回り、18.5ポイントの差がついた。
 取り組み内容では、「社内通報窓口の設置」が大企業で66.1%(466社)に対し、中小企業では21.6%(967社)にとどまり、44.5ポイントと規模による差が最も大きかった。
 2020年6月施行の改正公益通報者保護法により、法人には内部通報制度の整備が義務付けられた。従業員300人未満は努力義務だが、人的リソースの少ない中小企業は対応が遅れ、適切な運用が難しい可能性がある。

大企業はコンプライアンスへの取り組みが進む

Q2. コンプライアンス違反企業への対応について伺います。貴社の取引先でコンプライアンス違反が発覚した場合、どのような対応を取りますか?(択一回答)

取引見直し基準のある企業は3割
 5,140社から回答を得た。
 取引先のコンプライアンス違反について、「法令に違反していなくても自社の企業倫理や社会通念に反していたら、取引の打ち切りや縮小を検討する」が22.8%(1,176社)、「法令(法律や条例など)に違反している場合のみ、取引の打ち切りや縮小を検討する」が9.5%(491社)で、コンプライアンス違反企業との「取引の打ち切りや縮小を検討する」企業は合計32.4%(1,667社)だった。3割の企業が、コンプライアンス違反企業との取引方針に何らかの基準を定めていることがわかった。


 一方で、「案件ごとに対応を判断する」と回答した企業は67.5%(3,473社)にのぼった。取引先のコンプライアンス違反が判明した場合でも、取引額や扱い品によっては簡単に取引の見直しを行えないケースもあるとみられ、判断が分かれた。


 規模別では、大企業は「取引の打ち切りや縮小を検討する」が37.0%(686社中、254社)に対し、中小企業は31.7%(4,454社中、1,413社)で5.3ポイント下回った。
 また、「法令に違反していなくても自社の企業倫理や社会通念に反していたら」と、より厳しい自社基準で取引を見直す企業の割合は、大企業の28.5%(196社)に対し、中小企業は22.0%(980社)で、規模によって6.5ポイントの差がついた。
 大企業は中小企業よりコンプライアンス遵守への取り組みが進んでいることに加え、株主や取引先など、多くのステークホルダーを抱えており、自社に向けられる視線も厳しく、より厳格な対応を選択する企業が多い。

取引見直し基準のある企業は3割

取引見直し、「自動車整備業」がトップ

 コンプライアンス違反企業への対応方針について、業種別(中分類、母数10以上)で分析した。
 「取引の打ち切りや縮小を検討する」との回答では、最多は「自動車整備業」の56.0%(25社中、14社)だった。ビッグモーター問題が業界全体に影響し、早急な信頼回復に向けてコンプライアンス違反への毅然とした対応を進めている企業が多いとみられる。
 以下、「不動産取引業」の54.0%(50社中、27社)、「保険業」(14社中、7社)と「電気業」(10社中、5社)の50.0%と続く。営業に関する許認可や免許、登録などが必要な業種が上位を占めた。


「打ち切り・縮小を検討する」業種(上位15業種)

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