• TSRデータインサイト

大人気スマスロが引き金、パチンコホール大淘汰の幕開け

 パチンコホールの倒産が続発している。2022年は39件発生し、過去10年間で最多を更新した。2023年も9月までに25件に達した。コロナ禍前の2019年の年間件数(22件)をすでに超えており、業界の先行きを危惧する声が高まっている。
 大人気のスマートパチスロ(スマスロ)の遊技台の価格が高騰し、システム関連工事の負担も重い。同時に、「スマスロ」の登場で、パチンコホールは資金力の2極化が急速に進んでいる。今後、倒産や閉店、合併が本格化しそうだ。



 2023年1-9月のパチンコホールの倒産は25件に達した。同期間でみると、過去10年で最多は2022年の29件で、これに次ぐ2番目の高水準だ。
 警察庁によると、全国遊技場(ぱちんこ営業)の店舗数は、2021年に8,458店だったが2022年は7,665店と1年間で9.3%減少した。減少率は2001年以降で最大だ。
 2022年から倒産や閉店が増え始めた背景には、2022年初めの「5号機」完全撤去と「6号機」導入による資金負担や、これに伴い射幸性が低下し、集客が落ち込んだことが大きい。また、コロナ禍での業績悪化やコロナ支援策の縮小なども影響しているとみられる。
 さらに、同年11月にメダルが電子化された次世代スロット「スマスロ」、2023年4月には「スマートパチンコ(スマパチ)」が導入され、システム関連の工事、遊技台などへの多額の投資が必要なことも退出をさせた。

販売不振が9割超

 2023年1-9月に倒産したパチンコホール25件を分析した。原因別では、販売不振が23件(構成比92.0%)と圧倒的に多い。客数や稼働率の低迷が直撃した格好だ。
 特に、コロナ関連倒産が14件(同56.0%)と半数を超え、コロナ禍の不振から脱却出来なかったパチンコホールの倒産が目立った。
 形態別では、破産が20件(同80.0%)を占め、再建型の民事再生法や会社更生法はゼロだった。残る5件(同20.0%)は銀行取引停止で、遊技台の購入などで手形を振り出す古くからの商慣習が残っている。
 地区別では、関東の7件(同28.0%)が最多で、近畿5件(同20.0%)、九州4件(同16.0%)、北海道3件(同12.0%)、東北と中部が各2件(同8.0%)と続く。

パチンコホールの倒産 年次推移

「スマスロ」は人気、「スマパチ」は・・・

 暗い材料ばかり目に付く遊技業界だが、一縷の明るさも射してきた。大人気の「スマスロ」の登場だ。セガサミーホールディングス(株)(TSR企業コード:296075345)によると、7月末で「スマスロ北斗の拳」の累計導入台数は約6万台に達し、追加販売するほどの大ヒット作だ。
 首都圏の有力パチンコホールの担当者は、「パチスロの客数が大幅に増え、稼働も売上も利益も改善した。パチスロはV字回復したと言っていい」と笑みをこぼす。
 だが、スマパチは「パチンコの主役がスマパチに移行した実感はまだない」(同)と首を傾げる。パチンコの客数は回復が鈍いという。


5月に破産開始決定を受けたパチンコホール
5月に破産開始決定を受けたパチンコホール

スマスロ導入に高いハードル

 「スマスロ」人気にあやかり、業績が低迷する店が導入すれば良いかというと、そう簡単な話ではない。最大の問題は遊技台価格の高騰だ。関係者によると遊技台の定価は一台60万円(税別)に迫り、一部メーカーは月10万円のレンタルプランを展開するなど、価格が跳ね上がっている。
 スマスロ導入には、遊技機だけでなく、ユニットや通信機器、工事まで必要になる。工事代まで含めると1台あたり100万円を超えるケースもある。単純計算で10台の新台入れ替えに1,000万円が必要になる。
 一方、遊技台を購入したくても機歴(遊技機購入履歴)や設備導入がないと買えないケースもある。
 スマスロ導入当初、コロナ禍で半導体不足が起きた。こうなると資金力がモノをいう。大手や地場有力パチンコホールが先に押さえ、資金力の乏しいパチンコホールはブームに乗り遅れた。
 また、パチンコの低迷は深刻だ。中小ホールはスマスロの導入が遅れ、導入しても台数が少なく、パチンコからスマスロへの顧客移動を取り逃がす。こうして業績悪化に拍車がかかる中小ホールが多いようだ。
 大手や地場有力ホールと、資金力のないホールはすでに「スマスロ」で差別化が図られ、今後、「スマパチ」の人気機種が登場すると、さらに2極化が加速する可能性もある。



 電気料金や人件費などの高騰に加え、スマート関連工事、新紙幣への改刷対応など、今後も重い負担がのしかかる。
 大手遊技台メーカーの担当者は、「支払遅れが発生しているパチンコホールもあり、取引継続の可否を慎重に判断している」と審査を厳しくしている。
 深刻な経営危機に陥った大手ホールも出てきた。資金不足で遊技台の入替が進まず、客足が遠のき、さらに業績が落ち込む負のスパイラルに陥るパチンコホールは少なくない。パチンコホールの淘汰は、始まったばかりだ。

全国遊技場の店舗数 前年比推移(出所:警察庁)

人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

2025年度の業績見通しに大ブレーキ 「増収増益」見込みが16.6%に急減

トランプ関税、物価高、「価格転嫁」負担で、国内企業の業績見通しが大幅に悪化したことがわかった。2025年度に「増収増益」を見込む企業は16.6%にとどまり、前回調査(2024年6月)の23.3%から6.7ポイント下落した。

2

  • TSRデータインサイト

2025年3月期決算(6月20日時点) 役員報酬1億円以上の開示は117社・344人

2025年3月期決算の上場企業の株主総会開催が本番を迎えた。6月20日までに2025年3月期の有価証券報告書を510社が提出し、このうち、役員報酬1億円以上の開示は117社で、約5社に1社だった。

3

  • TSRデータインサイト

チャプター11をめぐる冒険 ~ なぜマレリはアメリカ倒産法を利用したのか ~

ずっと日本にいるのに時差ボケが続いている。  「マレリのチャプター11が近いから関連サイトをチェックし続けろ」と6月6日に先輩に言われて以降、私の生活はアメリカ時間だ。

4

  • TSRデータインサイト

代金トラブル相次ぐ、中古車販売店の倒産が急増

マイカーを売却したのに入金前に売却先の業者が破たん――。こうしたトラブルが後を絶たない。背景には、中古車価格の上昇や“玉不足”で経営不振に陥った中古車販売店の増加がある。倒産も2025年1-5月までに48件に達し、上半期では過去10年間で最多ペースをたどっている。

5

  • TSRデータインサイト

定量×定性分析 危ない会社は増えたのか?

2024年度の全国倒産が1万144件(前年度比12.0%増)と11年ぶりに1万件を超えたが、企業の倒産リスクはどの水準にあるのか。東京商工リサーチが企業を評価する「評点」と「リスクスコア」のマトリクスからみてみた。

TOPへ