「雇用調整助成金」の不正受給 累計670件(667社)が公表
~ 第2回 「雇用調整助成金」不正受給企業 調査 ~
新型コロナ感染拡大に伴う雇用維持のため、従業員への休業手当を助成する「雇用調整助成金」(以下、雇調金)等の不正受給で、全国の労働局が8月31日までに公表した件数が670件に達することがわかった。このうち、2度公表された企業が3社あり、公表された実質企業数は667社(個人企業含む)、不正受給金額は総額206億7,947万円に達する。
前回調査(2023年6月9日公表分まで、6月発表)から約3カ月で、151件が新たに公表された。2023年3月に月別で最多の69件が公表されたが、5月以降も毎月40件を超えており、不正発覚が後を絶たない。
全国の労働局が公表した485社(個人企業を除く)を、東京商工リサーチの企業データベースで分析すると、産業別ではサービス業他が213社で群を抜いて多く、全体の43.9%を占めた。このうち、飲食業が66社で3割(構成比30.9%)を占めた。
また、公表時点の業歴10年未満は222社(同45.7%)と半数に迫る。設立間もなく、経営基盤が強固といえない新しい企業が、コロナ禍で不正に手を染めた構図が浮かび上がる。
コロナ禍で政府は企業の雇用維持を支えるため、雇調金の助成率と上限金額を引き上げる特例措置を実施した。緊急対応期間(2020年4月-2022年11月)と経過措置期間(2022年12月-2023年3月)に支給決定した雇調金等は総額6兆3,507億円に及んだ。
一方、「申請誤り」や「不正の発覚」による支給決定取消は、2023年6月末で1,852件、金額は338億6,000万円にのぼる。
各都道府県の労働局は支給申請の遡及調査に力を注いでおり、支給決定取消と悪質な不正企業の公表はしばらく続きそうだ。
※本調査は、雇用調整助成金または緊急雇用安定助成金を不正に受給したとして、各都道府県の労働局が 2020年4月1日~2023年8月31日までに公表した企業を集計、分析した。前回調査は6月29日発表。
公表された不正受給は670件、総額206億円超
各都道府県の労働局が公表した雇調金等の不正受給は、2023年8月31日までに670件に達した。支給決定が取り消された助成金は総額206億7,947万円にのぼる。このうち、本社地と営業所などでそれぞれ公表された3社を除き、実質667社(個人企業含む)が社名を公表されている。
月別の公表社数は、2021年2月の初公表以来、1桁台で推移したが、2022年6月(15件)から右肩上がりで急増し、2023年3月は最多の69件が公表された。
不正受給の内訳では、「雇調金」だけの受給が359件と半数(構成比53.5%)を占めた。このほか、パートやアルバイトなど雇用保険被保険者でない従業員の休業に支給される「緊急雇用安定助成金」は111件(同16.5%)で、両助成金の受給も200件(同29.8%)と約3割を占めた。
47都道府県すべてで公表される
公表された雇調金等の不正受給670件を地区別でみると、最多は関東234件(構成比34.9%)で、続く近畿119件(同17.7%)とほぼ2倍の差があった。以下、中部113件、九州78件、中国50件、東北31件、四国28件、北陸9件、北海道8件の順。
企業数が多い東京・大阪・名古屋を中心とする3大都市圏が、約7割(同69.5%)を占めた。
都道府県別では、東京都が87件で最も多かった。次いで、愛知県77件、大阪府75件、神奈川県62件、広島県34件、福岡県31件、埼玉県25件、千葉県24件、三重県19件、京都府16件、宮城県と大分県が各15件で続く。
2023年6月9日までゼロだった徳島県と香川県でも公表があり、47都道府県すべてで不正受給が公表された。
※ 各都道府県労働局が公表した住所に基づいて集計した。本社所在地と異なる場合がある。
業種別最多に飲食業が浮上
雇調金等の不正受給を公表された667社のうち、個人企業等を除く485社についてTSRが保有する企業情報で分析を行った。
産業別では、サービス業他が213社(構成比43.9%)で最も多く、建設業59社(同12.1%)、製造業48社(同9.8%)と続く。金融・保険業を除く9産業は、6月以降に公表が増加した。
細分化した業種別では、6月10日以降に26社増加した「飲食業」66社(同13.6%)が、前回1位の建設業(59社)を上回って最多となった。このほか、コンサルティング業などを含む「学術研究,専門・技術サービス業」と人材派遣業などを含む「他のサービス業」が各40社、冠婚葬祭や美容業、旅行業などを含む「生活関連サービス業,娯楽業」38社が続き、コロナ禍の影響を強く受けた業種が目立った。
業歴10年未満の新興企業が半数に迫る
法人設立日から公表日までの業歴別では、最多が10年以上50年未満の216社で、全体の4割超(構成比44.5%)を占めた。次いで、5年以上10年未満が135社(同27.8%)、5年未満が87社(同17.9%)、50年以上100年未満が47社(同9.6%)の順。業歴100年以上の老舗企業は公表されていない。
TSRが保有する企業情報全社の構成比と比較すると、不正受給が公表された企業の構成比は5年以上10年未満で全体(同15.8%)を12.0ポイント上回り、他のレンジよりも際立って比率が高かった。業歴が浅く、経営基盤の弱い企業を中心に、不正に手を染めたことを示している。
雇調金の特例措置が開始された2020年4月以降、コロナ禍で設立された企業も23社あり、設立から間を空けずに不正を行ったとみられる。
売上高5億円未満が約8割
直近の売上高が判明した214社では、1億円未満が84社(構成比39.2%)で最も多く、約4割を占めた。
次いで、1億円以上5億円未満が79社(同36.9%)で続き、売上高5億円未満が約8割(同76.1%)を占めた。不正受給が公表された企業は、売上規模が小さい傾向が特徴として出ている。
一方、50億円以上100億円未満でも2社、100億円以上でも3社が公表された。
コロナ禍で雇用を維持するため、雇調金に頼った企業は中小企業から上場企業まで幅広い。迅速な支給のため手続きを簡素化したことも奏功し、雇調金利用の申請社数は大幅に増加した。
だが、一方で過誤や不正による受給も多数含まれ、各都道府県の労働局が遡って受給状況を調査した結果、2023年6月末までに1,852件、338億6,000万円分の支給決定が取り消された。
不正金額が100万円以上のほか、悪質な事例と判断されると社名や代表者名、受給額等が公表され、特に悪質な場合は刑事告訴の可能性もあり、コンプライアンス(法令順守)的な信用失墜が避けられない。また、受給金額に違約金と延滞金を加えた返還のほか、 5年間にわたり雇用関係助成金を受給できなくなるため、資金繰りにも重大な影響を及ぼしかねない。
雇調金の財源は企業が負担する雇用保険料で賄われている。コロナ禍の支給増大で、保険料率は2022年4月以降、3/1000から3.5/1000に引き上げられた。それだけに不正受給は許されるものではなく、制度維持のためにも対策強化が求められる。