• TSRデータインサイト

「訪問介護事業者」の倒産 過去最多の44件 コロナ禍後のヘルパー不足、物価高が追い打ち

~ 2023年1-8月 「訪問介護事業者」の倒産動向調査 ~


 高齢化の進行で、持続的な市場拡大が見込まれる「訪問介護」業界で事業者の倒産が急増している。2023年1-8月の倒産は44件(前年同期30件)と、前年同期の約1.5倍に達した。調査を開始した2000年以降の同期間では、過去最多を更新した。
 コロナ禍で進んだ深刻なヘルパー不足に加え、燃料代や介護用品など最近の物価高が重くのしかかる一方、コロナ関連支援も効果が薄れてきた。このペースで推移すると、年間で過去最多だった2019年の58件を大幅に上回る可能性も出てきた。

 1-8月の倒産は、コロナ禍当初の感染防止による利用控えが影響した2020年の42件がこれまでで最多だった。その後、コロナ関連の支援が拡充され、倒産は小康状態を保っていた。
 しかし、2023年に入ると経済活動の活発化で人材の獲得競争が激化し、ヘルパー不足がさらに深刻さを増した。燃料代や介護用品の値上げなども追い打ちをかけた。44件のうち、コロナ倒産は17件(2022年同期4件)、人手不足倒産は9件(同1件)で、それぞれ大幅に増加した。

 厚生労働省によると、2022年度のヘルパーの有効求人倍率は15.5倍と過去最高を記録し、65歳以上のヘルパーが4人に1人(24.4%)と高齢化も進む。また、介護サービス事業者は介護報酬が主な収入源だけに、法定価格のため物価高への対応や価格転嫁も難しい。
 厚労省の「第8期介護保険事業計画」によると、在宅介護のうちホームヘルプのサービス量は2020年度の実績114万人に対し、2040年度は152万人と3割強増える見込みだ。一方、訪問介護の事業所数は微増にとどまり、サービスを受けられない利用者が増える可能性が高まっている。
 デイサービスなどの通所・短期入所介護事業や有料老人ホームなどを含む老人福祉・介護事業者では、倒産増が目立つのは訪問介護事業だけだ。それだけヘルパー不足や物価高が訪問介護事業に打撃を与えており、早急な解消も見通せず、今後も倒産が増える可能性が高まってきた。

※ 本調査は、日本産業分類(小分類)の「訪問介護事業」を抽出し、2023年1-8月の倒産を集計、分析した。




2023年の「訪問介護事業者」倒産は過去最多ペース

 2023年1-8月の「訪問介護事業者」倒産は44件(前年同期比46.6%増)、負債総額は16億8,900万円(同50.0%増)で、それぞれ前年同期を大幅に上回った。
 年間(1-12月)倒産の最多は、コロナ禍前の2019年の58件だが、人手不足や物価高が続いており、2023年は60件に到達する可能性も出てきた。

訪問介護事業の倒産推移(1-8月)

原因別 「販売不振」が7割強

 原因別では、最多が「販売不振(売上不振)」の33件(前年同期比32.0%増)。次いで、「その他(偶発的原因)」4件(同300.0%増)、「運転資金の欠乏」3件(前年同期ゼロ)と続く。販売不振が7割強を占め、利用者減が続く事業者の倒産が目立った。

2023年1-8月 訪問介護事業 原因別倒産状況

負債額別 1億円未満が9割

 負債額別では、最多が1千万円以上5千万円未満で34件(構成比77.2%、前年同期比30.7%増)、5千万円以上1億円未満が6件(同13.6%、同200.0%増)と小・零細規模の倒産が9割を占めた。
 このほか、1億円以上5億円未満の4件(同9.0%、同100.0%増)で、10億円以上の大型倒産は発生がなかった。

2023年1-8月 訪問介護事業 負債額別倒産状況

人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

2025年1-9月の「人手不足」倒産が過去最多 「従業員退職」が前年の1.6倍増、初の年間300件超へ

2025年9月に「人手不足」が一因となった倒産は、調査を開始した2013年以降では月間最多の46件(前年同月比109.0%増)を記録した。また、2025年1-9月累計も、過去最多の285件(前年同期比31.3%増)に達し、人手不足はより深刻さを増していることがわかった。

2

  • TSRデータインサイト

ケーキや和菓子は「高値の花」に、スイーツ店が苦境 倒産は過去20年で最多ペース、競合商品も台頭

街のスイーツ店が苦境に陥っている。材料コストの上昇、酷暑、人手不足が重なり、商品値上げによる高級化も購入機会の減少につながったようだ。2025年1-9月の菓子製造小売の倒産は、過去20年で最多の37件に達した。

3

  • TSRデータインサイト

2025年1-9月「後継者難」倒産が過去2番目 332件 高齢化が加速、事業承継の支援が急務

代表の高齢化が進み、後継者が不在のため事業に行き詰まる企業が高止まりしている。2025年1-9月の「後継者難」倒産(負債1,000万円以上)は332件(前年同期比4.5%減)で、2年ぶりに前年同期を下回った。だが、2025年は過去最多だった前年同期の348件に次ぐ、過去2番目の高水準だった。

4

  • TSRデータインサイト

2025年 全国160万5,166社の“メインバンク“調査

全国160万5,166社の“メインバンク”は、三菱UFJ銀行(12万7,264社)が13年連続トップだった。2位は三井住友銀行(10万1,697社)、3位はみずほ銀行(8万840社)で、メガバンク3行が上位を占めた。

5

  • TSRデータインサイト

2025年度上半期の「円安」倒産30件 仕入コスト上昇が卸売業を直撃

2025年度上半期(4-9月)の「円安」関連倒産は、30件(前年同期比31.8%減)だった。上半期では、2022年度以降の円安では前年度の44件に次いで、2番目の高水準になった。

TOPへ