• TSRデータインサイト

「ゼロゼロ融資」利用後の倒産 8月は57件 2020年からの累計は1,025件に達する

~ 2023年8月「ゼロゼロ融資後」倒産 ~


 実質無利子・無担保融資(ゼロゼロ融資)を利用した後の倒産は、 2023年8月は57件(前年同月比39.0%増)だった。5月から4カ月連続で50件超が続き、初めて倒産が確認された2020年7月からの累計は1,025件と1,000件を超えた。
 ゼロゼロ融資は、コロナ禍で急減な業績悪化に見舞われた中小・零細企業の資金繰り支援策として実施され、倒産抑制に劇的な効果を見せた。しかし、その副作用として過剰債務に陥った企業は多い。ゼロゼロ融資の民間金融機関の返済がピークを迎え、業績回復の目途が立たず息切れする企業が増えている。


 産業別では、最多のサービス業他が23件(前年同月比109.0%増)と前年より2倍に増加し、全体の4割(40.3%)を占めた。飲食業8件や医療,福祉事業5件など、コロナ禍で財務内容が傷んだところへ、物価高や人件費の上昇が追い打ちをかけ、堪え切れずに倒産するケースが目立つ。
 コロナ禍が落ち着いてきたが、原材料やエネルギー価格の高騰、人手不足を背景にした人件費の上昇や営業機会の損失などで、回復途上にある中小・零細企業の経営は打撃を受けている。
 また、価格交渉力が弱く、商品・サービスへの価格転嫁も進まず、業績改善が見通せないなか、ゼロゼロ融資の返済が始まり、苦心している企業は多い。
 政府は今年1月、ゼロゼロ融資返済を見据えて「コロナ借換保証」を創設したほか、8月には金融庁が「2023年度金融行政方針」で資本性劣後ローンの活用などを含めた事業者支援の徹底を金融機関に促した。ただ、こうした施策がどの程度の効果を発揮するか、経営の疲弊した中小・零細企業に残された時間は少ない。

※本調査は、企業倒産(負債1,000万円以上)のうち、「実質無利子・無担保融資(ゼロゼロ融資)」を受けていたことが判明した倒産(法的・私的)を集計、分析した。


8月の「ゼロゼロ融資」利用後の倒産は57件、2023年累計件数は440件へ

 2023年8月の「ゼロゼロ融資」を利用した倒産は57件(前年同月比39.0%増)だった。3カ月ぶりに60件を下回ったものの、2022年8月以降、13カ月連続で40件を上回るハイペースでの推移が続く。
 2023年1-8月の累計は440件に達し、前年同期(250件)より76.0%増と大幅に上回っている。このペースだと、9月には前年(1-12月、453件)を上回る見通しが濃厚だ。

ゼロゼロ融資後倒産 月次推移

【産業別】サービス業他が倍増

 産業別は、サービス業他が23件(前年同月比109.0%増)で最多、前年同月の2.1倍に急増した。飲食業8件(前年同月4件)、医療,福祉事業5件(同2件)などが件数を押し上げた。
 以下、建設業11件(前年同月比37.5%増)、製造業8件(前年同月同数)、卸売業7件(前年同月同数)、小売業3件(前年同月比50.0%増)、運輸業(同50.0%減)と情報通信業(同100.0%増)が各2件、不動産業1件(前年同月ゼロ)の順。
 農・林・漁・鉱業(前年同月ゼロ)と金融・保険業(同ゼロ)は前年同様、発生しなかった。

産業別状況(8月)

【業種別】飲食店が3カ月連続で最多

 業種分類別(中分類)では、「飲食店」が7件で、3カ月連続で最多。コロナ禍で弱体化した経営状態に、材料や光熱費の高騰が追い打ちをかけた。
 サービス業では「社会保険・社会福祉・介護事業」も5件で2番目に多かった。コロナ禍でサービスの利用減少が損失拡大につながった。
 このほか、「総合工事業」が5件で同率2位に並び、「職別工事業」が4件で続く。資材価格や外注費の高騰に加え、人手不足に伴う工期遅れや失注などが響いた。

業種分類別倒産状況(8月)

【形態別】破産が57件中55件

 形態別の最多は、消滅型の破産が55件(前年同月比41.0%増)で、ほぼ全体(構成比96.4%)を占めた。このほか、取引停止処分が2件(前年同月1件)。
 再建型の民事再生法(同1件)と会社更生法(同ゼロ)は5カ月連続で発生がなかった。

【従業員数別】10人未満の倒産件数が倍増

 従業員数別の最多は、5人未満の32件(前年同月比166.6%増)で、全体の56.1%を占めた。5人以上10人未満9件(同28.5%増)と合わせた10人未満の小規模倒産は41件(構成比71.9%)で、前年同月(19件、構成比46.3%)の2.1倍に急増、構成比も25.6ポイント上昇した。
 このほか、10人以上20人未満が12件(前年同月同数)、20人以上50人未満が3件(同50.0%減)、50人以上300人未満が1件(同75.0%減)で、300人以上は前年と同様、発生がなかった。

【地区別】9地区中、7地区で発生

 地区別では、最多は関東の27件(前年同月比50.0%増)。次いで、九州が12件(同71.4%増)、東北が6県(同20.0%増)、近畿が4件(同100.0%増)、北海道(前年同月同数)と中国(前年同月比200.0%増)が各3件、四国が2件(前年同月ゼロ)。中部(同4件)と北陸(同ゼロ)は発生なし。
 都道府県別では、東京都が16件で最多。以下、福岡県が9件、神奈川県が5件、宮城県と埼玉県が各4件、北海道が3件で続く。


人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

コロナ破たん累計が1万件目前 累計9,489件に

4月は「新型コロナ」関連の経営破たん(負債1,000万円以上)が244件(前年同月比9.9%減)判明した。3月の月間件数は2023年3月の328件に次ぐ過去2番目の高水準だったが、4月は一転して減少。これまでの累計は9,052件(倒産8,827件、弁護士一任・準備中225件)となった。

2

  • TSRデータインサイト

堀正工業(株) ~約50行を欺いた粉飾、明細書も細かく調整する「執念」 ~

東京には全国の地域金融機関が拠点を構えている。今回はそれら金融機関の担当者が対応に追われた。最大54行(社)の金融機関やリース会社から融資を受けていた老舗ベアリング商社の堀正工業(株)(TSR企業コード:291038832、東京都)が7月24日、東京地裁から破産開始決定を受けた。

3

  • TSRデータインサイト

インバウンド需要で「ホテル経営」が好調 8割のホテルが稼働率80%超、客室単価の最高が続出

コロナ禍の移動制限の解消と入国審査の緩和で、ホテル需要が急回復している。ホテル運営の上場13社(15ブランド)の客室単価と稼働率は、インバウンド需要の高い都心や地方都市を中心に、コロナ禍前を上回った。

4

  • TSRデータインサイト

2024年4月の「円安」関連倒産 1件発生 発生は22カ月連続、円安の影響はさらに長引く可能性も

2024年4月の「円安」関連倒産は1件発生した。件数は、3カ月ぶりに前年同月を下回ったが、2022年7月から22カ月連続で発生している。 3月19日、日本銀行はマイナス金利解除を決定したが、じりじりと円安が進み、4月29日の午前中に一瞬34年ぶりに1ドル=160円台に乗せた。

5

  • TSRデータインサイト

約束手形の決済期限を60日以内に短縮へ 支払いはマイナス影響 約4割、回収では 5割超がプラス影響

これまで120日だった約束手形の決済期限を、60日に短縮する方向で下請法の指導基準が見直される。約60年続く商慣習の変更は、中小企業の資金繰りに大きな転換を迫る。 4月1~8日に企業アンケートを実施し、手形・電子記録債権(でんさい)のサイト短縮の影響を調査した。

TOPへ