• TSRデータインサイト

上場企業の女性正社員 賃金は男性より約3割低い 女性管理職比率は9.4%、ゼロ企業は76社

~ 2023年3月期決算上場企業「正規労働者の男女賃金差異」の状況調査 ~


 2023年3月期から上場企業は、女性活躍推進法等に基づき 「男女賃金差異」 「女性管理職比率」などを有価証券報告書(有報)等に記載することになった。
 2023年3月期決算の2,456社のうち、有報に「正規雇用の男女賃金差異」を記載した1,677社の平均は71.7%で、女性の賃金は男性より約3割低いことがわかった。また、「女性管理職比率」を記載した1,706社は、平均が9.4%と1割に届かなかった。各社とも職位・職務などが同等であれば男女間の賃金差はないとしており、女性の管理職への昇格、登用が遅れている現状を反映した結果となった。


 男女の賃金差異は、最多が「70.0%以上75.0%未満」(構成比23.5%)だったが、金融・保険業(63.6%)、建設業(65.3%)、水産・林業・鉱業(65.5%)は約4割の差があった。
 女性管理職比率は、最多レンジが「5.0%以上10.0%未満」(同22.7%)で、平均9.4%だった。政府は2020年策定の「第5次男女共同参画基本計画」で、2020年代の可能な限り早期に指導的地位に占める女性の割合が30%程度となる取り組みを求めている。だが、女性管理職比率が30.0%以上は73社(同4.2%)と5%に届かない一方、女性管理職比率ゼロは76社(同4.4%)あった。
 男女の賃金差異は、女性管理職の比率の低さが背景にある。時代に合わせ、企業が女性管理職比率をどう高めていくか注目される。

※本調査は東証など全証券取引所に株式上場する企業のうち、2023年3月期決算(7月31日までに有価証券報告書を提出)を対象に、有価証券報告書の「労働者の男女の賃金の差異」「管理職に占める女性労働者の割合」を集計した。
※産業・業種分類は証券コード協議会の定めに準じた。


正社員の男女賃金差異 女性は男性の約3割低い

 2023年3月期の上場1,677社の正社員の男女賃金差異(女性の平均年間賃金÷男性の平均年間賃金)は、平均71.7%だった。(数値が100.0%に近いほど賃金差は小さい)
 賃金差異は、最多が「70.0%以上75.0%未満」で構成比は23.5%だった。次いで、「75.0%以上80.0%未満」が同21.8%、「65.0%以上70.0%未満」が同18.3%と続く。
 記載した上場企業は、入社年次や職位・業務が同じ場合、男女の賃金差はないとしている。
 賃金差異の最大は、ファナックの39.7%。「女性の正規雇用労働者に占める工場契約社員(無期転換社員)の割合が6割程度と大きいことが主な要因。(中略)現在在籍している女性の経験年数が比較的短く、女性の幹部社員比率が小さいことも差異の要因」(有価証券報告書)。
 2位の日本航空は45.3%で、「正社員の男女の賃金差異は、職種別に異なり、それぞれ勤続年数の影響を受けていることが考えられる」(同)とした。3位の創建エースは45.8%で、「男性管理職に対し、女性は入社したての社員がおり賃金差異が大きくなった」とコメントしている。

3月期 正規労働者・男女賃金差異ランキング

女性管理職比率 30.0%以上は73社、ゼロは76社

 上場1,706社の女性管理職比率(女性管理職人数÷全管理職人数)は、平均9.4%で1割に届かなかった。
 女性管理職の比率は、最多が「5.0%以上10.0%未満」の388社(構成比22.7%)。次いで、「10.0%以上15.0%未満」210社(同12.3%)、「2.0%以上3.0%未満」188社(同11.0%)の順。
 政府目標は「30.0%程度」だが、30%以上は73社(同4.2%)にとどまり、5%未満だった。
 一方、女性管理職比率がゼロは76社(同4.4%)で、製造業41社、卸売業と小売業が各9社、運輸・情報通信業とサービス業が各5社などで、製造業が突出して多い。

3月期 女性管理職比率ランキング

産業別 最大の賃金差異は金融・保険業、男女差異は約4割

 女性の賃金が男性を上回ったのは6社あった。トップはITサービスのJBCCホールディングスの118.2%で、女性の賃金が男性を1割上回る。
 産業別で賃金差異の最小は、運輸・情報通信業の75.0%。次いで、サービス業の74.4%、小売業の74.2%の順。逆に、賃金差異の最大は、金融・保険業の63.6%で、男女差異が約4割あった。金融・保険業は、一般職と総合職のほか、営業報酬の残る企業もあり、男女格差が広がった。
 金融・保険業で男女差異の最大は、信販会社のオリエントコーポレーションの48.5%で、女性は男性の賃金のほぼ半分にとどまる。「全国転勤のない職種に女性社員が多いことが賃金差異につながった」とコメントしている。
 女性管理職比率は、最高がサービス業の19.8%。サービス業は女性の感性が生かされる職場が多く、女性社員の多さも女性管理職への登用につながっているとみられる。一方、女性管理職比率の最低は建設業の3.2%。建設業は、女性管理職比率ゼロが三井住建道路、ナカボーテック、新日本建設の3社あった。

3月期 正規労働者・男女賃金差異・女性管理職比率




人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

「税金滞納(社会保険料含む)」倒産が過去10年で最多 前年同期から2.0倍の165件

税金や社会保険料の滞納が一因の企業倒産が急増している。11月は10件(前年同月比9.0%減)発生し、2024年1-11月の累計165件(前年同期比103.7%増)に達した。すでに年間最多だった2018年の105件を7月に抜き、更新を続けている。

2

  • TSRデータインサイト

接待と二次会離れ? 「バー,キャバレー」の倒産1.6倍増 2024年1-11月「飲食業」倒産 すでに年間最多の908件

2024年1-11月の飲食業の倒産(負債1,000万円以上)は、908件(前年同期比11.0%増)に達した。これまで年間最多の2023年(1‐12月)の893件を15件上回り、11月までで年間最多を更新した。

3

  • TSRデータインサイト

登記上の本社同一地の最多は4,535社 代表ひとりが兼任する企業の最多は628社

全国で同じ住所に法人登記された社数の最多は、「東京都港区南青山2-2-15」の4,535社だった。 また、1,000社以上が登記しているのは14カ所で、上位10位までを東京都の港区、渋谷区、中央区、千代田区の住所が占めた。

4

  • TSRデータインサイト

「職別工事業」の倒産が増勢を強める 1‐11月累計677件、年間は11年ぶり700件超に

とび・土工・コンクリート工事業などの「職別工事業」の倒産が11月は66件(前年同月比29.4%増)発生、2024年1-11月累計は677件(前年同期比18.7%増)に達した。すでに前年1年間の634件を上回り、2013年(742件)以来、11年ぶりに700件超えが濃厚となった。

5

  • TSRデータインサイト

「美容室」の倒産 107件で過去最多を更新 新規開店に加え、物価高・人手不足が経営を直撃

コロナ禍で痛手を受けた美容室の倒産が、最悪ペースで増加中だ。2024年1-11月の美容室の倒産は、107件(前年同期比37.1%増)に達し、すでに2000年以降で年間最多の2019年(105件)を超えた。

TOPへ