• TSRデータインサイト

「後継者難」倒産 件数35件、7月では最多件数を記録

~ 2023年7月の「後継者難」倒産 ~


 2023年7月の後継者不在に起因する「後継者難」倒産(負債1,000万円以上)は35件(前年同月比40.0%増)だった。7月としては2年連続で前年同月を上回り、2018年同月の32件を超え、調査開始した2013年以降で最多になった。

 要因別は、最多が代表者の「体調不良」で19件(前年同月比280.0%増)だった。以下、「死亡」8件(同55.5%減)、「高齢」7件(同250.0%増)の順。
 「体調不良」と「高齢」は、7月としては2013年以降の最多で、代表者の高齢化が進むなか、後継者の育成や事業承継は経営課題として重要な位置付けとなっている。
 産業別では、最多がサービス業他の13件(同62.5%増)。次いで、建設業8件(同300.0%増)、小売業7件(同133.3%増)の順。
 資本金別では1千万円未満が21件(前年同月比40.0%増、構成比60.0%)、負債額では1億円未満が30件(同130.7%増、同85.7%)と、小・零細企業が半数以上を占めた。

 小規模事業者ほど人的・資金的な制約が大きく、独自に事業承継や後継者育成に取り組むことが難しい。また、代表者の年齢が高くなるほど、業績低迷から事業意欲を喪失するケースも少なくない。小・零細企業での事業承継や後継者の育成は、これまで以上に自治体や金融機関の支援が重要になっている。

※本調査は「人手不足」関連倒産(後継者難・求人難・従業員退職・人件費高騰)から、2023年7月の「後継者難」倒産(負債1,000万円以上)を抽出し、分析した。



「後継者難」倒産 7月では最多の35件

 2023年7月の「後継者難」倒産は35件(前年同月比40.0%増)で、7月では2年連続で前年同月を上回った。また、調査を開始した2013年以降、2018年同月の32件を超え、最多を更新した。
 アフターコロナに向けて経済活動が本格化するが、代表者の年齢が高い企業ではコロナ禍からの業績回復が遅れ、事業継続を諦めるケースもある。2023年の「後継者難」倒産は、毎月30件~40件台と高水準での推移が続いている。
 後継者の育成や事業承継への準備は、企業の経営課題として重要になっている。金融機関に限らず、取引する際の判断材料だけでなく、企業の将来性を見る一つの指標でもある。
 後継者不在による企業の倒産や廃業は、単なる一企業の倒産・廃業ではない。地域雇用の受け皿や地域経済の衰退にも繋がりかねない。

「後継者難」倒産推移

【要因別】「体調不良」「高齢」が増加

 要因別は、最多は代表者の「体調不良」の19件(前年同月比280.0%増)だった。7月では2年連続で前年同月を上回った。構成比は54.2%と半数を占め、前年同月から34.2ポイント上昇。
 このほか、「高齢」が7件(前年同月比250.0%増、前年同月2件)で、4年ぶりに前年同月を上回った。
 7月は、「体調不良」が2018年同月の14件を超え、調査を開始した2013年以降で最多となった。また、「高齢」も最多を記録した。
 一方、「死亡」は8件(前年同月比55.5%減、前年同月18件)で、3年ぶりに前年同月を下回った。
 中小・零細企業は、経営者が経営全般を担うことが多い。代表者の年齢が年々上昇するなか、業績低迷が続く企業では代表者が事業意欲を喪失し、事業の継続を断念するケースも増えている。コロナ禍から経済活動が本格化するものの、事業規模が小さい企業は人的制約が大きく、後継者育成や事業承継まで手が回っていない。代表者に不測の事態が発生すると、事業に大きな影響を及ぼし、立ち行かなくなるケースが少なくない。

「後継者難」倒産 要因別(7月)

【産業別】増加3産業、減少5産業、同件数2産業

 産業別は、10産業のうち、増加が3産業、減少が5産業、同件数が2産業だった。
 サービス業他13件(前年同月比62.5%増)が2年連続、小売業7件(同133.3%増)が3年ぶり、建設業8件(同300.0%増)が5年ぶりに、それぞれ前年同月を上回った。
 一方、製造業2件(同33.3%減)が2年連続、卸売業3件(同25.0%減)が2年ぶり、不動産業と情報通信業が各1件(同50.0%減)で3年ぶりに、それぞれ前年同月を下回った。
 金融・保険業が2年ぶりに発生しなかった(前年同月1件)。また、農・林・漁・鉱業が3年連続、運輸業が2年連続で、それぞれ発生がなかった。

 業種別では、建築工事業、木造建築工事業、野菜小売業、時計・眼鏡・光学機械小売業が各2件(前年同月ゼロ)、土木工事業、板金工事業、オフセット印刷業、受託開発ソフトウェア業、野菜卸売業、婦人服小売業、新聞小売業、経営コンサルタント業、食堂,レストラン、日本料理店、中華料理店、酒場,ビヤホール、旅行業者代理業、無床診療所、歯科技工所、通所・短期入所介護事業、訪問介護事業、一般機械修理業などが各1件(同ゼロ)で、それぞれ前年同月を上回った。

「後継者難」倒産 産業別(7月)

【形態別】消滅型の破産が100%

 形態別は、35件(前年同月比52.1%増)すべてが「破産」だった。
 7月に「破産」の構成比が100%となるのは、調査を開始した2013年以降で初めて。
 中小・零細企業では、代表者の高齢化が進んでいる。高齢の代表者が死亡や体調不良となった場合、後継者が不在では経営再建は難しく、破産を選択せざるを得ないことを示している。

「後継者難」倒産 形態別(7月)

【資本金別】1千万円未満が6割

 資本金別は、「1千万円未満」が21件(前年同月比40.0%増)で、7月では2年連続で前年同月を上回った。構成比は前年同月と同水準の60.0%になった。
 このほか、「1千万円以上5千万円未満」が14件(同75.0%増)で、2年連続で前年同月を上回った。
 「5千万円以上1億円未満」は2年ぶり、「1億円以上」は2013年から、それぞれ発生がない。

「後継者難」倒産 資本金別(7月)

【負債額別】1億円未満が8割超

 負債額別は、「1億円未満」が30件(前年同月比130.7%増)で、7月では5年ぶりに前年同月を上回った。構成比は85.7%(前年同月52.0%)に上昇した。
 このほか、「1億円以上5億円未満」が5件(前年同月比50.0%減)で、2年ぶりに前年同月を下回った。一方、「5億円以上10億円未満」が2年ぶり、「10億円以上」が3年連続で、それぞれ発生がなかった。


「後継者難」倒産 負債額別(7月)

人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

【TSRの眼】「トランプ関税」の影響を読む ~ 必要な支援と対応策 ~

4月2日、トランプ米国大統領は貿易赤字が大きい国・地域を対象にした「相互関税」を打ち出し、9日に発動した。だが、翌10日には一部について、90日間の一時停止を表明。先行きが読めない状況が続いている。

2

  • TSRデータインサイト

中小企業の賃上げ率「6%以上」は9.1% 2025年度の「賃上げ」 は企業の85%が予定

2025年度に賃上げを予定する企業は85.2%だった。東京商工リサーチが「賃上げ」に関する企業アンケート調査を開始した2016年度以降の最高を更新する見込みだ。全体で「5%以上」の賃上げを見込む企業は36.4%、中小企業で「6%以上」の賃上げを見込む企業は9.1%にとどまることがわかった。

3

  • TSRデータインサイト

ホテル業界 インバウンド需要と旅行客で絶好調 稼働率が高水準、客室単価は過去最高が続出

コロナ明けのインバウンド急回復と旅行需要の高まりで、ホテル需要が高水準を持続している。ホテル運営の上場13社(15ブランド)の2024年10-12月期の客室単価と稼働率は、インバウンド需要の高い都心や地方都市を中心に、前年同期を上回った。

4

  • TSRデータインサイト

2024年度の「後継者難」倒産 過去2番目の454件 代表者の健康リスクが鮮明、消滅型倒産が96.6%に 

2024年度の後継者不在が一因の「後継者難」倒産(負債1,000万円以上)は、過去2番目の454件(前年度比0.8%減)と高止まりした。

5

  • TSRデータインサイト

2025年「ゾンビ企業って言うな!」 ~ 調達金利の上昇は致命的、企業支援の「真の受益者」の見極めを ~

ゾンビ企業は「倒産村」のホットイシューです、現状と今後をどうみていますか。 先月、事業再生や倒産を手掛ける弁護士、会計士、コンサルタントが集まる勉強会でこんな質問を受けた。

TOPへ