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7月の「物価高」倒産は58件 5月に並び今年2番目の多さ

~ 2023年7月 「物価高」倒産 ~

 

 2023年7月の「物価高」を起因とする倒産は58件(前年同月比190.0%増)で、前年同月(20件)の2.9倍と急増した。2023年では3月の59件に次いで、5月に並ぶ2番目の多さとなった。
 ゼロゼロ融資の返済がピークを迎えるなか、様々なコスト負担が増しており、「物価高」倒産は高水準で推移している。


 業種別では、最多は道路貨物運送業の14件で、前年同月(4件)の3.5倍増と大幅に増えた。燃料価格の高止まりに加え、下請け業者が多く価格転嫁が進んでいない現状を反映している。
 このほか、飲食店7件(前年同月ゼロ)や食料品製造業5件(同2件)、飲食料品小売業4件、農業3件(同ゼロ)など、個人消費に直結する食品関連が目立つ。実質賃金が伸び悩み、物価高による消費冷え込みが企業業績に影響を与えることが危惧される。
 負債額別は、1億円未満の小・零細規模が32件(前年同月比300.0%増)と、全体の半数以上(55.1%)を占めた。一方、1億円以上5億円未満18件(同80.0%増)、5億円以上10億円未満5件(同400.0%増)、10億円以上も3件(同200.0%増)発生し、規模を問わず影響が広がっている。
 形態別は、破産が52件(同173.6%増)で、約9割(89.6%)を占めた。物価高による業績悪化から資金繰りがひっ迫し、経営再建が見込めず事業継続を諦める企業が多い。

 原材料や資材に加え、エネルギー価格も引き続き上昇している。中小・零細企業ほど価格競争力が乏しく、価格転嫁が容易でないだけに「物価高」倒産は今後も増勢を強める可能性が高い。

※本調査は、2023年7月の企業倒産(負債1,000万円以上)のうち、①仕入コストや資源・原材料の上昇、②価格上昇分を価格転嫁できなかった、等により倒産(私的・法的)した企業を集計、分析した。


「物価高」倒産58件、2023年5月に並び2番目の多さ

 2023年7月の「物価高」倒産は58件(前年同月比190.0%増)で、前年同月の2.9倍増となった。
 58件は2023年に入り、3月の59件に次ぎ、5月に並んで2番目で高止まりが続いている。
 ロシアのウクライナ侵攻や円安で、輸入に依存する穀物や原材料、資材、エネルギー関連などの様々な資材の値上げが続いている。日本銀行が公表する企業物価指数は2022年12月の前年同月比10.5%をピークに上昇幅は鈍化しつつあるが、2023年6月(速報値)も4.1%上昇している。
 コロナ禍から経済活動が動き出したが、売上増は一方で仕入額も膨らむ。物価高で仕入代や物流、光熱費などのコスト上昇が収益を直撃するだけに、中小・零細企業は価格転嫁が必要だ。ただ、安易な価格転嫁は売上減を招くリスクもあるだけに、物価高の影響はしばらく続きそうだ。

「物価高」倒産 月次推移

【産業別】7産業で増加

 産業別件数は、10産業のうち、金融・保険業、不動産業、情報通信業を除く7産業で前年同月を上回った。
 最多は、運輸業の14件(前年同月比180.0%増、前年同月5件)だった。以下、製造業(同233.3%増、同3件)とサービス業他(同233.3%増、同3件)の各10件、建設業(同33.3%増、同6件)と小売業(同300.0%増、同2件)の各8件。
 外国為替相場は、1ドル=140円台の円安が続いており、為替変動を一因とした物価高が今後も幅広い産業に影響を与えかねない。

産業別状況(7月)

【業種別】最多が道路貨物運送業の14件

 産業別を細かく分類した業種別(業種中分類)件数は、最多が道路貨物運送業の14件で、前年同月(4件)の3.5倍に急増した。
 以下、飲食店の7件(前年同月ゼロ)、食料品製造業の5件(同2件)の順。
 道路貨物運送業は、燃料価格の高止まりが続く一方、価格転嫁がなかなか進んでいない。
 また、飲食店や飲食料品製造業など食品関連は、食材価格だけでなく、人件費や電気、ガス代も上昇している。物価高が個人消費の低迷一段と拍車をかける可能性もある。

【負債額別】1億円未満が5割超

 負債額別件数は、1億円未満が32件(前年同月比300.0%増)で、半数以上(構成比55.1%)を占めた。
 このほか、1億円以上5億円未満が18件(前年同月比80.0%増)、5億円以上が5件(同400.0%増)、10億円以上が3件(同200.0%増)と、物価高は、事業規模を問わず発生している。

負債額別状況(7月)

【形態別】消滅型の破産が約9割

 形態別件数は、破産が52件(前年同月比173.6%増で、全体の約9割(89.6%)を占めた。特別清算が1件(前年同月ゼロ)で、消滅型が9割(91.3%)を占めた。
 一方、再建型の民事再生法は1件(前年同月ゼロ)にとどまった。このほか、取引停止処分が4件(前年同月比300.0%増)だった。
 実質無利子・無担保融資(ゼロゼロ融資)の返済がピークを迎えた時期に、物価高も加わり、企業のコスト負担が増している。業績回復が遅れ、新たな資金調達も難しい企業が破産を選択している。

【地区別】7地区で前年同月を上回る

 地区別件数は、9地区のうち、北海道と中部を除く7地区で前年同月を上回った。増加率の最大は、九州の前年同月比550.0%増(2→13件)。以下、関東の同171.4%増(7→19件)、近畿の同166.6%増(3→8件)の順。
 また、前年同月がゼロだった中国が4件、北陸と四国が各2件発生した。
 都道府県別の最多は、東京と長崎の各5件(前年同月2件)。前年同月は発生しなかった大阪、岡山、佐賀が各3件、千葉、神奈川、新潟、富山、愛媛、福岡、鹿児島が各2件だった。

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