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インボイス制度の登録低迷の余波? 「合同会社」の新設法人 前年比0.3%増と伸び悩む

~ 2022年「合同会社」の新設法人調査 ~


 コストや手間など、設立準備が比較的容易なことで人気を集めてきた法人格「合同会社」の新設法人数に異変が起きている。2022年に新たに設立された法人(以下、新設法人)のうち、合同会社は3万7,062社(前年比0.3%増)と伸びが鈍化した。これまで右肩上がりをたどった合同会社の新設数の伸び悩みは、多様な働き方やインボイス制度への登録をためらう個人事業主の法人化の動きが停滞した可能性もある。

 2006年5月の会社法改正で有限会社の設立ができなくなり、一方で合同会社の設立が始まった。
 他の法人格に比べ、設立手続きが簡便で費用も安く、株主総会や決算公告は必要ない。こうした運営面のメリットは大きな魅力だった。そのため、新設数は2012年に1万社、2015年に2万社、2019年に3万社をそれぞれ突破し、新設法人の4社に1社が合同会社を選ぶまでに広がった。
 ところが、2022年は新設法人全体は2年ぶりに減少し、合同会社の伸びも0.3%増と微増にとどまった。コロナ禍で、都市部を中心にリモートワークや副業推進など、新しい働き方が定着した影響もあったようだ。また、2022年10月開始予定のインボイス制度で、個人事業主が法人設立する際、設立が容易な合同会社の設立増が予想されていたが、登録しない小規模事業者が多いことも伸び悩みにつながったとみられる。

※ 本調査は、東京商工リサーチの企業データベース(対象約400万社)から、2022年(1-12月)に全国で新しく設立された全法人14万2,189社のうち、合同会社を抽出し、分析した。

合同会社 新設法人 年間推移


インボイス制度、2022年は個人事業主の停滞が法人にも影響か

 インボイス制度の開始に向け、課税事業者への移行と同時に、法人設立の増加を予想する声は多かった。だが、個人事業主の登録は2022年にペースが上がらず、インボイス制度登録を思いとどまった個人事業主が多かったとみられる。2023年は個人事業主の登録ペースが一時伸びたが、再び減少に転じ、停滞している。



インボイス制度登録件数 月次推移


産業別 小売業やサービス業他が減少

 合同会社の産業別では、10産業のうち半数の5産業が増加した。最も増加したのは、運輸業(前年比17.7%増)で、インターネット通販などで独立や起業が増えたようだ。次いで、卸売業(同13.0%増)、情報通信業(同5.4%増)、建設業(同3.5%増)、製造業(同1.7%増)の順。
 一方、前年比で最も減少したのは不動産業(同5.5%減)で、2年連続で減少した。物件ごとに法人化する投資家も多かったが、融資の厳格化などの影響を受けたとみられる。続いて、金融・保険業(同5.2%減)だった。合同会社への出資を巡る投資勧誘の規制強化の影響が出た可能性がある。

産業別 合同会社 新設法人

業種別 学術研究,専門・技術サービス業が最多

 産業別をさらに細分化した業種別では、前年に続き経営コンサルタントなどノウハウや技術を提供する学術研究,専門・技術サービス業が5,524社(構成比14.9%)で最多だったが、前年から3.7%減少した。
 上位では、ソフトウェア開発業など情報サービス・制作業(同11.9%)が前年比5.4%増と増加が持続している。

都道府県別 増加率トップは栃木県、減少は鳥取県が最大

 都道府県別では、最多は東京都の1万1,543社(前年比0.6%減、構成比31.1%)と全国の3割を占めたが、減少に転じた。次いで、大阪府が2,973社(同1.7%減、同8.0%)、神奈川県の2,633社(同4.6%減、同7.1%)と続く。
 増加率トップは、栃木県の前年比32.7%増。次いで、青森県の同20.4%増、茨城県の同19.5%増と続く。一方、鳥取県が同24.5%減と最大の減少率だった。以下、徳島県が同21.1%減、岩手県が同15.4%減、宮崎県が同15.1%減、宮城県が同13.0%減、新潟県が同12.6%減と続き、20都道府県が減少した。
 地区別では、全9地区のうち、4地区が減少した。件数の最多は関東の1万9,828社(前年比1.0%増、構成比53.4%)。次いで、近畿の5,420社(同1.8%減、同14.6%)、九州の3,894社(同0.6%増、同10.5%)と続き、最少は北陸の516社(同3.4%増、同1.3%)だった。



 新設法人の伸びに貢献した合同会社だが、2022年は設立が伸び悩み、全体の新設法人も2年ぶりに減少に転じた。合同会社の設立低迷は大都市圏で目立つ。合同会社の新設数が最多の東京都は前年比0.6%減、2位の大阪府が同1.7%減、3位の神奈川県が4.6%減、7位の愛知県が1.5%減、8位の北海道が4.5%減、9位の兵庫県が6.1%減と、そろって減少に転じた。コロナ禍の多様な働き方が、都市部の停滞につながったとみられる。

 また、2023年10月に開始されるインボイス制度を控え、個人事業主の法人化に合同会社が選ばれることで大幅増が予想されていた。ところが、税負担の懸念や制度の認識不足などで登録を躊躇する個人事業主が多く、合同会社の新設増にはつながらなかったようだ。

 2022年、合同会社等による社員権の取得勧誘を業務執行社員以外が行う場合、金融商品取引業の登録が必要になり、金融庁は社員権を巡るトラブル増の注意を呼びかけた。こうした影響もあったのか、2022年は「金融,保険業」の合同会社の設立は前年比5.2%減の1,598件に減少した。

 合同会社は安易で無計画な設立も目立ち、イメージダウンにつながっている。このまま合同会社の新設数の頭打ちが続くと、欧米より低水準が続く開業率の上昇も望めない。合同会社の信用度を高めるため、決算公告の義務化など制度の見直しを根本的に考える時期に差し掛かっている。

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