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東京富士法律事務所・足立学弁護士 単独インタビュー(前編)

~ 事業再生のやりがいと難しさ、エルピーダメモリやタカタを担当 ~


 私的整理の枠組みが拡充され、法的整理(倒産)でも事業存続を指向した手法は多様化している。コロナ禍で企業が負った傷は深く、今後も法的整理の増加が見込まれるなか、いま事業再生・債務整理の現場に求められることは何なのか。 
 大手ゼネコンの管財人代理を務めるなど、事業再生の最前線に立つ、足立学弁護士(東京富士法律事務所)に事業再生の展望などを聞いた。



―東京富士法律事務所の歴史は長い

 1965年に釘澤一郎弁護士が「釘澤法律事務所」を開設した。1985年に「東京富士法律事務所」となり、現在12名の弁護士が所属している。事業再生を得意とする弁護士が多いが、金融機関の顧問やコンプライアンスを得意とする弁護士も所属するほか、一般民事も手掛けるなど幅広い分野を扱うのが特徴だ。

―弁護士になろうとしたきっかけは

 小学生の時に、とんかつ屋を営んでいたおじが突然逮捕された。配達で向かった先が暴力団の事務所で賭博に参加したという容疑で警視庁が捜査に来て、おじを連れて行ってしまった。賭博をするようなおじではない。地元の警察に相談しても警視庁が動いているのでわからないと言われ、連絡も取れず、どこに居るのかもわからなくなった。連絡が取れないなか、弁護士に依頼したらすぐに連絡がつき、2週間ほどで家に戻ることができた。
 頼むとどうにもならなかったことがすぐに解決できると思ったのが最初の弁護士の印象だ。就職活動の時に、この思い出が蘇って弁護士を目指そうと思った。

―現在の事務所への入所の経緯は

 司法修習生となり、東京で弁護士になろうと思ったが法律事務所がたくさんあり、どうしたら良いかわからなかった。元裁判官で過去に司法研修所の教官をしていた遠戚がいた。相談すると、当時のクラスの教え子に「新人を募集していないか聞いてみる」と言ってくれた。その時に手をあげてくれたのが事務所の元代表弁護士である須藤英章(※1)先生だ。2004年に東京富士法律事務所に入所することができた。
 須藤弁護士は事業再生の第一人者で、日弁連の倒産法改正問題検討委員会の委員長として2000年の民事再生法の制定、その後の破産法改正等に尽力され、私的整理に関するガイドラインでは専門家アドバイザーとして多数の案件の成立にも携わった。須藤弁護士のもとで何が何だか分からないまま事業再生の世界に入っていったというのが実情だ。
 そうしたなか、弁護士になってからすぐに比較的規模の大きな監督委員や私的整理の専門家アドバイザーの補助者となるチャンスを頂いた。4年目にはオリエンタル白石(株)(2008年会社更生法申請、負債総額605億円、当時東証1部)の管財人代理(補佐)となった。それまでに経験した民事再生法の監督委員代理は、会社側の方針に同意するなど間接的な関与の仕方が多かった。しかし、会社更生の管財人は、弁護士が上場企業を経営し、法律を使って次々生じる問題を解決し、会社を更生させる。そのダイナミックな手続きを間近でみることができた。また、管財人団は様々な弁護士事務所から10~15年経験を積んだ弁護士が集まった。建築工事中の案件を進めるか止めるかといった交渉や従業員のリストラなど、先輩弁護士の能力の高さや、それまで経験してきた再生手続きとのかかわり方とはまったく異なる場面に触れ、非常に刺激的だった。

※1 第23期。経済産業省。事業再生制度研究会・座長や事業再生研究機構・代表理事などを歴任。事業再生実務家協会・代表理事を務める。



インタビューに応じる足立学弁護士
インタビューに応じる足立学弁護士

―印象に残る出来事は

 オリエンタル白石の事件で私が担当したのはビルなどの建築部門だった。会社の担当者とともに建築中の発注者へ頭を下げ、倒産手続きの説明など色々な取引先を回った。しかし、一般の建築部門は競争力が乏しく、最終的には部門そのものがなくなり、従業員全員を解雇することになってしまった。
 数年後、取引先を一緒に回った担当者から事務所に電話がかかってきて、再就職した会社で顧問弁護士を探しているので引き受けてくれないかと言ってくれた。当時は、建築部門の力になれなかったと感じていたのに、一生懸命、再生を目指していたことが伝わって、声をかけてくれたことが非常に嬉しかった。今でもその会社の顧問を続けさせていただいている。
 その後、エルピーダメモリ(株)(2012年会社更生法申請、負債4,480億3,300万円)の管財人団に参加した。グローバル案件で特許関連なども複雑だった。オリエンタル白石から4年経って経験も積んだと思っていたが、先輩弁護士のように活躍できず、非常に悔しい思いもした。もっと力を付ける必要があるという思いを強くし、より事業再生に関与したいと考えるようになっていった。

―中小企業の事業再生で感じることは

 その後、中小企業の支援が活発となったこともあり、中小企業の再生に関与することが増えた。大型の倒産事件では、メインバンクのサポートも得られやすく、コンサル会社などが再生計画や数字面を管理することが多い。しかし、中小企業にはそのようなことを頼む資金などがないこともあり、自社でやらないといけない。
 中小企業の再生事件は一から十まですべて弁護士が伴走するので非常に面白く、やりがいを感じる。社長と膝詰めで話をし、意思決定する。中小企業の事業再生は関与の深さが大企業と異なる。苦労も多いが、それらを乗り越えて再生できたときの喜びも大きい。
 中小企業の事業再生にのめりこみ、多くの経験を積むことができ、鍛えられた。
 そして、2017年にエアバッグ等を製造・販売するタカタ(株)(2017年民事再生法申請、負債1兆5,024億円、当時東証1部)の民事再生事件の申請代理人の一人となった。エルピーダメモリの事件から5年間の中小企業の事業再生での経験が非常に力となり、タカタの事件では少しは戦力になれたような気がして、自信も付いたように思う。


(続く)

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2023年7月27日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)

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