• TSRデータインサイト

都内企業「転出」超過 3年間で約1万3,000社 脱‟東京”の動き強まる 【2020-2023年東京都「本社移転」調査】

 新型コロナウイルス感染が広がった2020-2023年に、本社および本社機能を東京都内から都外へ移転した企業(以下、転出企業)は、1万2,822社(2017-2020年比114.2%増)で、コロナ禍前に比べて2倍以上増えた。一方、東京都外から都内に移転した企業(以下、転入企業)も9,254社(同52.6%増)で、1.5倍増だった。
 転出企業と転入企業を比較すると、コロナ禍前の2017-2020年は、転入(構成比50.3%)と転出(同49.6%)は、ほぼ同水準だった。しかし、コロナ禍の2020‐2023年は、転出(同58.0%)が、転入(同41.9%)を上回り、転出と転入の差は3,568社と大幅な転出超過で、脱‟東京“の傾向が強まった。  
 東京都からの転出先では、最多が神奈川県(3,663社)だった。次いで、埼玉県(2,515社)、千葉県(1,914社)と首都圏が続く。
 コロナ禍は外出自粛などで人流が抑制されたが、この動きとは対照的に事業環境の変化に対応し、企業の本社移転は活発だったことがわかった。在宅勤務などの新しい働き方が定着し、顧客との対面サービスが減少するなか、コスト面の見直しによる都外への転出、オフィス面積の縮小などの動きが強まった。
 コロナ禍が沈静化した2023年以降、経済活動の再開に伴い、対面サービスなど従来のビジネスモデルが復活している。世界を代表するビジネス街のひとつである東京からの転出超過は、これまでになかった動きだけに、今後どう推移するか注目される。

※東京商工リサーチ(TSR)の保有する企業データベース(約400万社)から、本社を東京都から転出した企業と、東京都へ転入した企業を集計し、分析した。
※2017-2020年は(2017年4月~2020年3月)、2020-2023年は(2020年4月~2023年3月)の期間が対象。
※転入超過率は、転入数から転出数を差し引いた数の百分比。転入超過率がマイナスの場合は転出超過率を示す。


コロナ禍の「転出超過」が3,568社と急増

 東京都を跨いだ企業の転入出の総数は、2017-2020年が1万2,049社だったのに対し、2020-2023年は2万2,076社で、1万27社(83.2%増)増加した。
 転入と転出を比較すると、2017-2020年は東京都への転入が6,064社(構成比50.3%)、転出が5,985社(同49.6%)だったのに対し、 2020-2023年は転入が9,254社(同41.9%)、転出が1万2,822社(同58.0%)と、いずれも大幅に増加した。
 コロナ禍前に比べ、2020-2023年は東京からの転出の構成比が8.4ポイント上昇し、転出超過数は3,568社だった。
 働き方の変化やコスト見直しを進めた結果、業種によっては賃料の安い都外への移転が加速したとみられる。これまで東京一極集中が進んでいたが、コロナ禍を契機に異なる動きを示している。






産業別 農・林・漁・鉱業を除く9産業で「転出超過」

 産業別で2020-2023年の移転をみると、農・林・漁・鉱業を除く9産業が転出超過だった。コロナ禍前の2017-2020年は、転入超過が4産業、転出超過が6産業だったが、コロナ禍で一転して転出超過の傾向が強まった。
 転出超過数の最多はサービス業他の1,327社で、以下、製造業が444社、卸売業が433社、情報通信業が421社で拮抗した。
 また、転入超過率(転入数-転出数を転入数で除した百分比。マイナスの場合は転出超過率を示す)でみると、在宅勤務が定着しやすい産業の代表格である情報通信業は、コロナ禍前後のギャップが最も大きく、転入超過率が26.9%から▲24.8%と、大幅な転出超過に転じた。



地区別 転出先は7割が関東地区内

 東京都からの転入出を地区別で比較した。 2020-2023年の東京都からの転出数は、最多が関東地区の8,991社で約7割(構成比70.1%)を占めた。次いで、近畿地区の1,182社(同9.2%)、中部地区の972社(同7.5%)と続き、大都市圏への転出が多い。
 転出企業の関東地区の県別内訳では最多が神奈川県の3,663社で、次いで埼玉県の2,515社、千葉県の1,914社と続き、転出先は東京都の近接3県に集中している。

コロナ禍での転出企業 約6割が減収

 転入出企業のうち、本社移転前の業績が判明した企業を抽出した。
 コロナ禍前の2017-2020年の転出企業の増収企業率は41.4%だったが、2020-2023年は31.0%と減少が顕著となった。コロナ禍で事業環境が大きく変化し、業績が低迷した企業が多く、賃料などのランニングコスト抑制が郊外への転出要因になったとみられる。







 コロナ禍を通じて、小・零細企業を中心に本社・本社機能の移転が活発化した。東京都はコロナ禍前の2017-2020年は79社の転入超過だったが、コロナ禍以降の2020-2023年は3,568社の大幅な転出超過となり、これまでの東京一極集中に変化が現れた。都道府県別では同期間の転出超過は全国で11都道府県だったが、東京都の転出超過数は大阪府(361社の転出超過)を大きく引き離し、突出している。
 経済活動の再開が本格化するなか、コロナ禍のニューノーマルな働き方が定着した企業もあれば、対面を重視して原則出社の働き方に戻す企業も増えている。都内では再開発などで高機能オフィスの供給が相次いでいる。対面重視の企業では今後、他地区より交通アクセスなどの利便性が圧倒的に高い都心への転入が再び増えることも考えられる。
 多様な働き方の広がりが脱“東京”を加速するか、コロナ禍の一過性の現象にとどまるのか。業績や生産性向上の実現度合いによっても、今後の東京都の転入出状況は変わりそうだ。

人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

「社長の出身大学」 日本大学が15年連続トップ 40歳未満の若手社長は、慶応義塾大学がトップ

2025年の社長の出身大学は、日本大学が1万9,587人で、15年連続トップを守った。しかし、2年連続で2万人を下回り、勢いに陰りが見え始めた。2位は慶応義塾大学、3位は早稲田大学と続き、上位15校まで前年と順位の変動はなかった。

2

  • TSRデータインサイト

内装工事業の倒産増加 ~ 小口の元請、規制強化で伸びる工期 ~

内装工事業の倒産が増加している。業界動向を東京商工リサーチの企業データ分析すると、コロナ禍で落ち込んだ業績(売上高、最終利益)は復調している。だが、好調な受注とは裏腹に、小・零細規模を中心に倒産が増加。今年は2013年以来の水準になる見込みだ。

3

  • TSRデータインサイト

文房具メーカー業績好調、止まらない進化と海外ファン増加 ~ デジタル時代でも高品質の文房具に熱視線 ~

東京商工リサーチ(TSR)の企業データベースによると、文房具メーカー150社の2024年度 の売上高は6,858億2,300万円、最終利益は640億7,000万円と増収増益だった。18年度以降で、売上高、利益とも最高を更新した。

4

  • TSRデータインサイト

ゴルフ練習場の倒産が過去最多 ~ 「屋外打ちっぱなし」と「インドア」の熾烈な競争 ~

東京商工リサーチは屋外、インドア含めたゴルフ練習場を主に運営する企業の倒産(負債1,000万円以上)を集計した。コロナ禍の2021年は1件、2022年はゼロで、2023年は1件、2024年は2件と落ち着いていた。 ところが、2025年に入り増勢に転じ、10月までの累計ですでに6件発生している。

5

  • TSRデータインサイト

解体工事業の倒産が最多ペース ~ 「人手と廃材処理先が足りない」、現場は疲弊~

各地で再開発が活発だが、解体工事を支える解体業者に深刻な問題が降りかかっている。 2025年1-10月の解体工事業の倒産は、同期間では過去20年間で最多の53件(前年同期比20.4%増)に達した。このペースで推移すると、20年間で年間最多だった2024年の59件を抜いて、過去最多を更新する勢いだ。

TOPへ