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「想定為替レート」平均1ドル=129円 調査開始以降で最安値を更新 ~ 上場主要メーカー 2024年3月期決算「想定為替レート」調査 ~

 株式上場する主要メーカー108社の2023年度(2024年3月期)決算の期初想定為替レートは、1ドル=130円が60社(構成比55.5%)と半数超を占めた。平均値は1ドル=129.0円で、前期から9.9円の円安設定で、調査を開始した2011年3月期決算以降で、期初のレートとしては最安値となった。

 前期の2023年3月期決算(2022年4月-2023年3月)は、期初に1ドル=120円に設定した企業が約5割で最も多く、平均値は1ドル=119.1円だった。だが、同期中に断続的に進行していた円安ドル高はさらに加速し、2022年10月には一時32年ぶりに1ドル=150円台に突入した。その後は、期末にかけてやや落ち着きを取り戻したが、1ドル=130円台の円安水準が継続した。
 こうしたなかで、2024年3月期も円安基調を反映し、期初は1ドル=130円以上を想定為替レートに設定したメーカーが75社(構成比69.4%)と、約7割にのぼった。

※ 本調査は、東京証券取引所に上場する主な電気機器、自動車関連、機械、精密機器メーカー(3月期決算企業)108社の2023年度決算(2024年3月期)の期初想定為替レートを開示資料などをもとに集計し、前期と比較した。


想定為替レート 平均値は1ドル=129.0円、前期から9.9円の円安

 主要上場メーカー108社の平均値は1ドル=129.0円で、前期(2023年3月期初、1ドル=119.1円)から9.9円の円安となった。円安ドル高が加速し、期初の想定為替レートとしては調査開始の2011年3月期以降で最も安い水準だった前期をさらに10円近く上回った。

期初ドル想定為替レート 推移

想定為替レート 1ドル=130円台が約7割で最多

 期初の対ドル想定レートは1ドル=130円が60社と最も多く、5割以上(構成比55.5%)を占めた。次いで、125円が20社(同18.5%)、135円が7社(同6.4%)、120円が4社(同3.7%)、126円と129円と132円が各3社(同2.7%)と続く。
 1ドル=110円台はゼロで、120円台が33社(同30.5%)に対して130円台が74社(68.5%)と、約7割にのぼっている。
 また、想定レートの対ドル最安値は140円(1社)、最高値は120円(4社)で、20円の開きがあった。

主な上場メーカー 期初ドル想定為替レート分布

1年前とのレート比較 最多ゾーンは「120円→130円」

 1年前の2023年3月期の期初想定為替レートは、「1ドル=120円」に設定した企業が58社(構成比49.5%、母数117社)と最も多く、120円台が82社(構成比70.0%)だった。対ドル最安値は130円で、最高値は110円だった。
 一方、2024年3月期は130円台が74社(同68.5%)と約7割にのぼり、ボリュームゾーンが変化した。最安値140円、最高値120円で、1年間でちょうど10円シフトしたことになる。
 1年前との比較が可能な106社では、「120円→130円」にレートを変更した企業が36社(構成比33.9%)で最も多かった。次いで、「115円→130円」が14社(同13.2%)、「120円→125円」が9社(同8.4%)、「115円→125円」が6社(同5.6%)だった。   
 円安ドル高進行を受け、1年前と「変更なし」(据え置き)が4社で、これ以外はすべて「円安へのシフト」に変更した。また、1年前からの下落幅の最大は20円(2社)だった。

2024年3月期 主な上場メーカー 期初ドル想定為替レート 前年同期変更状況


 輸出比率の高い大手メーカーには、円安ドル高は業績の押し上げ要因となる。2023年3月期初の想定為替レートは平均値119.1円だったが、同期の為替相場は平均1ドル135円前後で推移し、多くの輸出メーカーが為替差益の恩恵を受けた。
 想定為替レートは、各社とも急激な為替変動に備えて保守的に見積もる傾向が高い。それでも2024年3月期の主要メーカーの平均値は前期を約10円上回る129.0円に達し、円安ドル高の為替変動が大きかったことを物語る。
 2024年3月期も円安ドル高が加速し、6月以降は再び1ドル=140円台に張り付いている。2023年6月の日銀短観では、大企業製造業の業況判断指数(DI)が7四半期ぶりに改善に転じた。自動車関連産業の回復が製造業全体を牽引するが、背景には材料供給の安定と円安による増益見通しなどが寄与している。
 ただ、輸入材などの原材料価格の上昇で、内需型産業などへのコスト面への影響は無視できない。中堅規模に多い内需型メーカーや、過当競争で価格転嫁が進まないメーカーには仕入れコストだけが上昇し、円安が業績改善に足かせとなる事態も想定され、業績の二極化が懸念される。
 大手の業績拡大が中小企業の価格転嫁と賃上げを促進し、国内製造業の好循環を生み出すことができるか。為替の動向は、その成否を占うポイントとしても注目される。

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