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雇調金特例活用は上場企業の約2割、869社に 支給金の返還は7社、うち「不正・過誤申請」が6社 ~第13回上場企業「雇用調整助成金」調査~

 新型コロナ感染拡大に伴う雇用支援策として2020年4月分から適用された雇用調整助成金(以下、雇調金)の特例措置制度が今年3月末で終了した。上場企業3,930社(2023年6月26日時点)のうち、2割超(22.1%)の869社に雇調金が支給されたことがわかった。2020年1月、新型コロナ感染が日本国内で初めて確認されて以降、大きな打撃を受けた外食やサービス、小売、交通インフラ、観光などを中心に、雇調金の活用で雇用維持に努めた。一方で、雇調金を返還(一部を含む)した上場企業は7社判明したが、うち3社は不正によるものだった。
 雇調金の特例措置を活用した上場企業は869社あり、3年間の支給額は累計9,427億4,580万円と1兆円近くにのぼった。3年間の支給額が合計100億円以上は18社あった。
 100億円以上の18社のうち、半数を超える10社が航空会社や鉄道会社など運送関連だった。鉄道会社は旅行や出張需要の低迷、リモートワーク普及による移動の減少のほか、系列の百貨店やホテルなど関連企業が軒並み休業や時短営業に追い込まれ、人員余剰が長引いた。
 2022年3月以降は、全国で緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が解除され、訪日観光客の受け入れ再開で外食や観光などでも需要が回復し、雇調金の申請が急減した。
 2022年度の雇調金計上額は、ピークだった2020年度と比べ86.1%減の686億7,669万円まで減少。2022年秋以降は、一転してサービス業などでも需要が回復し、人手不足が深刻になってきた。
 コロナ禍の沈静化で、雇調金の不正受給が各地で発覚している。上場企業では3社が判明し、今後の制度維持のためにも活用の在り方を検証することが必要だ。


【計上額別】「100億円以上」は18社、うち10社が「運送」

 上場869社の雇調金計上は、最多が1億円以上5億円未満の289社(構成比33.2%)だった。次いで、1億円未満251社(同28.8%)、10億円以上50億円未満121社(同13.9%)、5億円以上10億円未満66社(同7.5%)と続く。
 100億円以上は18社で、うち4社が300億円以上を計上した。200億円以上300億円未満も5社あった。100億円以上では10社が鉄道、航空を含む運送業だった。次いで、外食4社、観光を含むサービスが3社、カラオケ関連が1社だった。 





【業種別】受給企業は製造が最多、外食は受給が長期化

 上位6業種の受給企業数をみると、1~3期目すべてで最多は製造だった。 
 次いで、観光やテーマパークなどを含むサービスが続いた。
 1期目と3期目を比較し、企業数の減少率をみると、トップが卸売(77.1%減)で約8割の減少。以下、製造(74.6%減)、サービス(70.9%減)の順。外食は48.0%減で、唯一、全業種で減少率が半分以下だった。
 居酒屋・バー運営企業を中心に、受給が長期化したほか、時短営業や二次会需要の回復遅れも外食の雇用に影響した形となった。









【助成金の返還】7社判明、うち3社は不正申請による返還
 

 上場企業の開示資料で、雇調金の返還を行った企業は7社判明した。内訳は、労働局から不支給決定などが下りて判明した「不正申請」と、自社調査で判明し自主返還を行った「過誤申請」が各3社で並んだ。
 また、労働局側の支給ミスによる誤配での返還が1社あった。



 雇調金の特例措置を活用した上場企業は、2020年4月からの3年で869社(判明分)にのぼった。この間の計上額は、9,427億4,580万円(判明分)と1兆円に迫る。
 累計100億円超の計上は18社を数え、300億円以上が4社、200億円以上300億円未満も5社あった。上位は、航空会社や観光、アミューズメント関連、鉄道会社、外食、カラオケなど、コロナ禍前まで多くの雇用を創出していた労働集約型産業が中心だった。
 東京商工リサーチの「上場企業の早期希望退職調査」によると、コロナ禍以降、外食が5年ぶり、観光が10年ぶりに、それぞれ退職者募集を実施した企業があった。こうした業種でも深刻な人余りに陥った。雇調金を受給しても、急激なキャッシュアウトに耐えられず、拠点や店舗の閉鎖など、大規模なリストラも実施された。2022年春以降、人流回復に伴いコロナ禍が直撃した業種でも需要が回復し、同年秋からは人手不足が顕在化している。
 一方、上場企業では雇調金の不正申請や過誤申請による助成金の返還も相次ぎ、2023年6月時点で7社が返還を発表している。このうち、6社が不正・過誤申請による返還だった。グループ会社を多く抱える上場企業では、申請時の手続きや月単位で行われる支給基準の改定など、複雑な制度設計への対応が課題になっている。今年3月で特例措置は役目を終えたが、今後も不正・過誤申請など制度のあり方についての検証機会が増えるかもしれない。





※ 本調査は、雇用調整助成金の受給、または申請を情報開示した上場企業を対象に、2020年4月1日~2023年6月22日までの開示資料で金額、および活用や申請を記載した企業を対象に集計した。今回の調査は、13回目。2020年4月期から2021年3月期決算までを1期目、2021年4月期~2022年3月期決算を2目、2023年3月期決算までを3期目とする。

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