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夏のボーナス「増額」企業が3割、「減少」は1割 増額理由は「物価高への対応」が最多の約6割

~ 2023年「夏季賞与に関するアンケート」調査 ~


 2023年夏の賞与は、3社に1社で前年より増えたことがわかった。賞与が前年夏より「増加」と回答した企業は32.5%、一方、「減少」したと回答した企業は12.2%だった。
 東京商工リサーチ(TSR)が2月に実施したアンケート調査では、2023年度に賞与や一時金の増額を予定している企業は28.3%だった。賞与の増加は4カ月間で4.2ポイント上昇した。また、夏季賞与の増額の理由では、「物価高への対応」が57.4%で、「業績好調」の53.8%を上回った。夏の賞与は、物価高での社員の負担軽減を優先する姿勢がうかがえる。


 総務省の発表によると2022年8月から2023年4月まで、消費者物価指数は9カ月連続で前年同月比3%以上で推移している。賞与を増額する企業のうち、約6割(57.4%)は収束の兆しが見えない物価高に対する従業員への生活費補填の意味合いもあるようだ。
 規模別では、「増加」は大企業36.6%に対し、中小企業32.0%で、4.6ポイントの差があった。また、大企業では夏の賞与増額の理由は、最多が「業績好調」61.2%だったのに対し、中小企業は52.6%にとどまり、8.6ポイントの差がついた。
 同時に実施した「業績動向」に関する企業アンケートでは、約4割(37.8%)の企業が前年同月と比べて減収だった。業績の二極化が加速するなかで、業績改善が遅れ、物価高への対応も迫られる企業は、賞与増額などのコストアップの影響がさらに深刻さを増すことも懸念される。

※本調査は2023年6月1日~8日にインターネットによるアンケート調査を実施。有効回答4,992社を集計、分析した。
※資本金1億円以上を「大企業」、1億円未満(個人企業等を含む)を「中小企業」と定義した。



Q1.貴社の今夏の賞与(一時金)の支給見通しは、前年夏と比較すると次のどれですか?(択一回答)

「増加」が「減少」を20ポイント以上上回る
 回答企業4,992社のうち、今夏の賞与の支給見通しが「増加」は32.5%(1,627社)、「減少」は12.2%(611社)で、「増加」が20.3ポイント上回った。
 ただ、最も多かった回答は「横這い」の55.1%(2,754社)で、半数以上の企業の夏季賞与は前年と同水準の見通しとなった。
 規模別では、「増加」は大企業が36.6%(617社中、226社)に対し、中小企業は32.0%(4,375社中、1,401社)で、大企業が上回った。一方、「減少」は大企業が11.9%(74社)に対し、中小企業は12.2%(537社)で、中小企業が0.3ポイントとわずかに上回った。
 中小企業より経営体力のある大企業は、賞与アップの原資を確保しやすい。しかし、規模にかかわりなく回答の構成比は大企業に近い割合になっており、人材確保や従業員の生活補填のため、中小企業でも賞与増加などの賃上げに積極的に取り組んでいる状況が透けて見える。

「増加」が「減少」を20ポイント以上上回る

業種別 コロナ禍からの回復具合で二極化

 Q1の結果を業種別で集計した。賞与の「増加」の構成比が最も高かったのは、「水運業」の81.8%(11社中、9社)。次いで、「各種商品卸売業」の57.6%(26社中、15社)、「宿泊業」の55.5%(18社中、10社)、「その他の生活関連サービス業」52.6%(19社中、10社)の順。
 円安を背景に、好調な業績が続く水運業が唯一の8割台に乗せた。また、コロナ禍からの回復が進む宿泊業や旅行業なども、半数以上が前年のボーナスを上回ると回答した。

 一方、「減少」では、「映像・音声・文字情報制作業」が最大の35.7%(14社中、5社)だった。以下、「情報通信機械器具製造業」の26.9%(26社中、7社)、「業務用機械器具製造業」(54社中、14社)と「非鉄金属製造業」(27社中、7社)の25.9%と続く。
 「減少」の上位10業種のうち、製造業が7業種を占めた。

Q2. Q1で「増加」と回答した方にお聞きします。前年夏よりどの程度増えそうですか?

「10%以上20%未満」が最多
 Q1で「増加」と回答した企業に、増加率を聞いた。1,085社から回答を得た。
 前年からの「増加率」を10%ごとのレンジに分けると、最多レンジは「10%以上20%未満」の36.5%(397社)だった。次いで、「10%未満」の27.2%(296社)、「20%以上30%未満」15.5%(169社)の順。また、「10%未満」のレンジのなかでも、72.9%(216社)が「5%以上」の増加率を回答した。
 規模別では、「10%以上20%未満」のレンジが大企業38.3%(112社中、43社)、中小企業36.3%(973社中、354社)で、それぞれ最多だった。
 増加率の中央値は、すべての規模で10%。

「10%以上20%未満」が最多

Q3. 増加の理由は次のうちどれですか?(複数回答)

「物価高への対応」が最多の約6割
 Q1で「増加」と回答した企業に、理由について聞いた。1,584社から回答を得た。
 最多は、「物価高へ対応するため」の57.4%(910社)だった。以下、「業績好調のため」の53.8%(853社)、「人材確保のため」の48.2%(765社)、「賃上げ機運が強いため」の41.0%(651社)の順。
 規模別では、「業績好調」は大企業が61.2%(217社中、133社)だったのに対し、中小企業は52.6%(1,367社中、720社)にとどまり、8.6ポイントの差がついた。一方、「物価高への対応」は大企業が50.2%(109社)に対し、中小企業は58.5%(801社)で、中小企業が8.3ポイント上回った。
 大企業では、コロナ禍からの回復と好調な業績を反映したボーナス増額だが、中小企業では物価高に対応するため、やむを得ず賞与の増加に踏み切ったとみられる。

「物価高への対応」が最多の約6割

産業別 4産業で「業績好調」が「物価高」「人材確保」の割合を上回る

 Q3の結果を産業別で集計した。理由ごとの構成比では、「業績好調」が最も高かったのは不動産業の61.5%(39社中、24社)で、「人材確保」は金融・保険業の70.0%(10社中、7社)、「賃上げ機運」は建設業46.0%(189社中、87社)、「物価高への対応」は運輸業(75社中、50社)と農・林・漁・鉱業(6社中、4社)の66.6%だった。
 卸売業、小売業、不動産業、情報通信業の4産業では、「業績好調」の割合が、「物価高」や「人材確保」と回答した企業の割合を上回った。

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