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コロナ禍で人員削減した企業の6割が現在、人手不足状態 1割はいまだに過剰感 ~2023年企業の「人手不足」に関するアンケート調査~

 人流の回復に加え、海外からの渡航客が再び増加している。こうしたなか、コロナ禍で人員を削減した企業で人手不足感が高まってきた。コロナ禍中に、退職者の募集や補充採用の中止を行った企業の6割超(構成比61.5%)が、現在人手不足を訴えている。
 アパレル関連や、旅客運送、旅行・冠婚葬祭などのサービス関連などを中心に、昨夏以降続いている人手不足感は、広範な業種で継続しており、一度削減した人員を再び回復させるのは、難しい状況にある。こうした業種では、業況の回復に反して、高騰した人件費をいかに捻出するかが大きな課題となりそうだ。
 東京商工リサーチ(TSR)は6月1日~8日、全国の企業を対象に「コロナ禍での人員削減」と「人手不足感」に関するアンケート調査を実施した。それによると、全国の約1割(構成比9.8%、599社)の企業がコロナ禍(2020年2月以降)で何らかの人員削減を行ったと回答。そのうち(有効回答数507社)の61.5%(312社)が現在、人手不足状態に陥っていることがわかった。
 2023年4月の全国の有効求人倍率(季節調整値)は1.32倍で、2022年8月以降、9カ月連続で1.3倍台と高水準で推移する。とくに、コロナ禍以降で人員削減が行われた宿泊・飲食サービスや小売では4月の新規求人も、依然として前年同月を7%以上上回るなど、人手不足は常態化している。
 1~4月の訪日観光客数は673万9,500人と2019年比の6割超まで回復。観光需要の本格化を前に、サービス業を中心に人手不足が業績回復の足かせになる懸念が高まっている。

※本調査は、2023年6月1日~8日、企業を対象にインターネットによるアンケート調査を実施し、有効回答6,071社を集計、分析した。資本金1億円以上を大企業、1億円未満(個人企業等を含む)を中小企業と定義した。



コロナ禍(概ね2020年2月以降)で、人員削減を実施しましたか?(択一回答)  1割が人員削減を「実施」


 「希望退職」「退職勧奨」「整理解雇」「補充採用の停止」の4項目の実施を聞いたところ、いずれか1つを実施している企業は6,071社中、599社(構成比9.8%)あり、全体の約1割を占めた。実施項目の中で、最も多かったのが「補充採用の停止」で311社、次いで「退職勧奨」106社、「整理解雇」96社、「希望退職者の募集」86社と続いた。

 業種別では、観光業や冠婚葬祭業などに代表される「その他の生活関連サービス業」が構成比45.1%でトップ。次いで、コロナ禍による外出自粛等で需要が縮小したアパレル小売の同40.0%、印刷・同関連業の同33.7%が続いた。





現在の人員の充足度は?(択一回答) 6割の企業で「人手不足感がある」

 コロナ禍で人員削減を行った企業で、現在の自社の人員の充足感を聞いた。全企業507社のうち312社(構成比61.5%)が「人手不足感がある」と回答。対して、「人手過剰感がある」と答えたのはわずか1割(同11.4%)にとどまった。「人手不足」の業種別では、飲食店が構成比100%でトップ、次いで総合工事業が同85.7%、設備工事業が同78.5%と続いた。

 上位10業種のうち、 3業種が建設関連だった。建設関連は、コロナ禍当初、店舗や商業施設を中心に、工期延期や工事の中止などにより、人員削減を余儀なくされたが、経済活動の再開に伴い、人手不足感は高まっている。
 そのほか、同76.9%だったその他の生活関連サービス業では、旅行会社や結婚式場運営会社を中心に、需要が回復し、人手不足を訴える企業が相次いでいる。





 経済活動の再開、人流の回復に伴い、コロナ禍で人員削減に踏み切った企業のうち、6割以上が現在人手不足の状態にあることが明らかになった。コロナ禍当初は、外出の自粛や三密回避に伴い、日常生活以外にも旅行や娯楽、外食にも制限が生じたことから、これらを主業とする企業を中心に需要が消失。販売見込みの立たないなか、雇用調整助成金など政府による助成も後に登場したものの、先行きの不透明感や急激なキャッシュアウトへの不安感から、採用の見合わせにとどまらず、早期・希望退職募集も頻発した。2020年には上場小売企業で半年間に2回の希望退職募集が行われたほか、観光大手でも1,000人以上の退職者募集が行われるなど、サービス、外食、運送などではコロナ禍で異例の「人余り」状態に陥った。
 一方、2022年3月下旬にまん延防止等重点措置が全国で解除となった以降は、外食や国内観光を中心に需要が徐々に回復。同年秋には、訪日観光客の個人旅行受け入れ緩和を行ったことで、インバウンド需要も回復に向かい、今春の中国からの入国制限緩和以降、さらに訪日観光客数の増加は加速するとみられる。
 サービス業を中心に業況の回復が期待される一方、企業側は採用における賃金の上昇が深刻化しており、厚生労働省による2023年4月の月間現金給与額(全雇用形態)では、飲食サービス業等が前年比6.3%増、運輸業,郵便業が同6.5%増と5%以上を増加し、他の業種と比べ高水準で推移する。こうした業種はコロナ禍以前にも慢性的な人手不足傾向にあり、待遇をはじめとした雇用環境の改善が急務とされてきた。再び需要が戻るなかで、需要の増加が見込める産業に特化した雇用支援など、官民一体の対策も急務となっている。

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