• TSRデータインサイト

ベアリング商社の堀正工業、問われる決算説明の整合性

 都内に営業店を置く、全国各地の金融機関に衝撃が広がっている。
 話題の中心にいるのは、老舗ベアリング商社の堀正工業(株)(TSR企業コード:291038832、東京都)だ。詳細は堀正工業の依頼を受けた弁護士が調査中だが、取引行ごとに異なる説明をして、300億円以上の融資を受けていた可能性が浮上している。
 5月末には、一部借入金の返済が滞り、6月5日までに金融機関への債務に関する調査を弁護士に依頼している。
 堀正工業の代表者が経営に携わる企業は複数確認される。保育園や飲食店など多岐に渡るが、金融機関だけでなく取引先も影響の広がりを注意深く見守っている。



 堀正工業は1933(昭和8)年創業の専門商社で、1950年より大手ベアリングメーカーであるNTN(株)(TSR企業コード: 570384370、商号は現在)の代理店として事業を展開。ベアリングを中心に各種機械などを扱い、2022年9月期は過去最高となる売上高68億600万円を計上し、最終利益は4億7,700万円だった(当社公表値)。
 表面上の業績は好調を維持していたが、5月より東京商工リサーチ(TSR)に問い合せが寄せられている。慎重に取材を進めると、不可解な点が浮かび上がる。
 第一に、取引のある金融機関の数だ。堀正工業はTSRの信用調査に対し、資金を調達している金融機関を自社ホームページに掲載している3行と説明している。
 しかし、3行以外にも融資取引のある金融機関が次々と判明した。その数は、10行、20行と日ごとに増えている。都内に本店のある銀行や信用金庫だけでなく、都内に営業店を置く全国各地の地方銀行など数十行が融資していたことがわかった。
 取材を進めると、これら金融機関は主力の数行を軸に「プラス1行」と融資取引があると説明され、これほど多くの金融機関が取引をしているとは知らずに貸し出していたようだ。堀正工業は、直近の借入残高について「約40億円」とTSRに回答していた。だが、実際は300億円以上にのぼる。


堀正工業が入居しているビル(TSR撮影

調整された決算書
 なぜ、このような事態に発展したのか。堀正工業は、説明の辻褄を合わせるため、現金や定期預金、借入額などを調整した決算書を金融機関ごとに提出していたようだ。こうした調整はコロナ禍の前から始まり、長期間に渡って継続していたとみられる。
 説明内容のうち、損益計算書に大きな相違はなく、調整は貸借対照表が中心だったようだ。コンプライアンスの徹底などで金融機関同士での情報交換が難しくなっており、勘定科目を調整されると見抜きにくい。
 堀正工業と取引のある金融機関は、「(提出された書類が)偽造されていたのであれば、大きな背信行為だ」と怒り心頭だ。

簿外で調達した資金の流れは
 堀正工業は、6月5日までに金融機関への債務に関する調査を弁護士へ依頼しており、調査が進められている。金融機関には返済原資を確保できていない旨を示唆した上で、借入金の返済停止も通知しているようだ。
 調達した資金の流れにも注目が集まっている。堀正工業の実態貸借は対外的な公表値よりも悪化しており、補填資金として使われた可能性もある。また、TSRの企業データベースによると、堀正工業の代表者は複数企業の経営に携わっている。こうした企業との関係について関心を寄せる金融機関もある。
 TSRは、一連の問題について、堀正工業側に取材を申し込んでいるが、6月8日17時までに回答はない。
 焦点は商取引債権に移りつつある。主力仕入先の対応を含めて動向を気にする声もあるが、NTNは8日午後、TSRの取材にして「現在取引状況などは調査中であり、今後の対応は未定」と回答した。
 堀正工業には、現状や今後について丁寧な説明が求められている。

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2023年6月9日号掲載予定「Weekly Topics」を再編集)

人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

ハンバーガー店の倒産、最多更新 ~ 材料高騰、大手と高級店の狭間で模索 ~

年齢を問わず人気のハンバーガー店が苦境だ。2024年は1件だった倒産が、2025年は8月までに7件に達し、過去最多の2014年の年間6件を上回った。

2

  • TSRデータインサイト

2025年「全国のメインバンク」調査 ~GMOあおぞらネット銀行 メイン社数の増加率2年連続トップ~

「2025年全国企業のメインバンク調査」で、GMOあおぞらネット銀行が取引先のメインバンク社数の増加率(対象:500社以上)が2年連続でトップとなった。

3

  • TSRデータインサイト

タクシー業界 売上増でも3割が赤字 人件費・燃料費の高騰で二極化鮮明

コロナ禍を経て、タクシー業界が活況を取り戻している。全国の主なタクシー会社680社の2024年度業績は、売上高3,589億5,400万円(前期比10.6%増) 、利益83億3,700万円(同11.1%増)で、増収増益をたどっている。

4

  • TSRデータインサイト

「葬儀業」は老舗ブランドと新興勢力で二極化 家族葬など新たな潮流を契機に、群雄割拠

全国の主な葬儀会社505社は、ブランド力の高い老舗企業を中心に、売上高を堅調に伸ばしていることがわかった。 ただ、新たに設立された法人数が、休廃業・解散や倒産を上回り、市場は厳しい競争が繰り広げられている。

5

  • TSRデータインサイト

2025年 全国160万5,166社の“メインバンク“調査

全国160万5,166社の“メインバンク”は、三菱UFJ銀行(12万7,264社)が13年連続トップだった。2位は三井住友銀行(10万1,697社)、3位はみずほ銀行(8万840社)で、メガバンク3行が上位を占めた。

TOPへ