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2023年5月の「物価高」倒産は58件 前年同月の3.0倍に急増、過去2番目の多さ

~ 2023年5月 「物価高」倒産 ~


 2023年5月の「物価高」を起因とする倒産は58件(前年同月比205.2%増)で、前年同月(19件)の3.0倍に急増した。2023年3月の59件に次ぐ2番目の多さで、増勢をたどっている。コロナ禍の支援効果も薄れ、物価高によるコスト増が企業の資金繰りに重くのし掛かり、倒産の引き金になりつつある。

 産業別では、最多は建設業の15件(前年同月比275.0%増)。以下、製造業12件(同1100.0%増)、サービス業他11件(同1000.0%増)と続く。
 業種別では、最多は道路貨物運送業の8件(同±0.0%)。次いで、総合工事業7件(同600.0%増)、職別工事業と飲食店が各5件と続く。建設資材の値上がりに加え、燃料代、水道・光熱費、人件費などの上昇が企業の収益悪化に直結し、一方で価格転嫁がなかなか進まず資金繰り悪化の大きな要因になっている。
 負債額別では、1億円以上5億円未満が25件(同150.0%増)と全体の43.1%を占めたが、1億円以上の倒産は37件(構成比63.7%)と6割に達し、徐々に小規模から中堅規模に広がっている。
 形態別では、破産が52件(同173.6%増)と、全体の約9割(89.6%)を占めた。事業規模に対し、過剰債務を抱えたことで負債が膨らむ傾向にあり、事業継続を断念するケースがほとんど。
 円安やウクライナ侵攻などを背景に、原材料や資材、エネルギー価格が上昇する一方で、物価上昇スピードに価格転嫁が追いついていない。また、過剰債務を抱えて新たな資金調達が難しい企業が多く、動き出した経済活動に資金需要が対応できない企業の息切れが、倒産をさらに加速させる悪循環に入っている。

※本調査は、2023年5月の企業倒産(負債1,000万円以上)のうち、①仕入コストや資源・原材料の上昇、②価格上昇分を価格転嫁できなかった、等により倒産(私的・法的)した企業を集計、分析した。


2023年5月の「物価高」倒産58件、月間では過去2番目の多さ

 1ドル=140円前後で膠着し、再び円安局面に傾くなか、原材料や穀物、エネルギー価格の上昇が続いている。2023年5月の「物価高」倒産は58件(前年同月比205.2%増)発生し、前年同月の19件の3.0倍増と大幅に増えた。5月の58件は、2023年3月59件に次いで、過去2番目の高水準。
 資材や食品価格、光熱費などが上昇するなか、実質賃金は13カ月連続で減少しており、今後は企業のコスト負担だけでなく、個人消費の動向にも注意が必要だ。個人の節約志向が強まると、消費者対象の小売業、サービス業だけでなく、製造業などの川上産業にも影響が波及するため、景気への影響が危惧される段階に入りつつある。

「物価高」倒産月次推移

【産業別】10産業のうち、6産業で増加

 産業別は、10産業のうち、農・林・漁・鉱業、金融・保険業、運輸業、情報通信業を除く6産業で前年同月を上回った。
 最多は、建設業の15件(前年同月比275.0%増、前年同月4件)だった。次いで、製造業が12件(同1100.0%増、同1件)、サービス業他が11件(同1000.0%増、同1件)の順。
 円安やロシアのウクライナ侵攻などを要因とする原材料や資材、エネルギー価格の高騰は、様々な産業に影響が広がっている。

産業別状況(5月)

【業種別】最多が道路貨物運送業

 産業別を細かく分類した業種別(業種中分類)では、最多が道路貨物運送業の8件だった。
 以下、総合工事業が7件、職別工事業と飲食店が各5件と続く。
 燃料価格の高止まり、資材価格の高騰、食材価格や光熱費の上昇も続いている。価格転嫁がなかなか進まないなか、下請が多く、荷主(発注先)との力関係で価格転嫁が難しい道路貨物運送業や建設業などの動向には、目が離せない。

【負債額別】1億円以上が半数以上

 負債額別は、最多が1億円以上5億円未満の25件(前年同月比150.0%増)で、物価高倒産の4割(構成比43.1%)を占める。
 また、5億円以上10億円未満が4件(前年同月比300.0%増)、10億円以上が8件(同700.0%増)で、負債1億円以上が37件(構成比63.7%)と、中規模以上での倒産が半数を占めた。

負債額別状況(5月)

【形態別】消滅型の破産が約9割

 形態別は、消滅型の破産が52件(前年同月比173.6%増)で、全体の約9割(89.6%)を占めた。
 次いで、民事再生法が3件(前年同月ゼロ)、取引停止処分が2件だった。
 実質無利子・無担保融資(ゼロ・ゼロ融資)の元本と利子の返済が、夏場にピークを迎える。コロナ禍から業績回復が遅れた企業は、資材や原材料、エネルギーなどの価格上昇で資金繰りはさらに悪化している。過剰債務を抱え、新たな資金調達も難しい企業は、再建を諦めて破産を選択している。

【従業員数別】10人未満が6割

 従業員数別は、10人未満が37件(前年同月比184.6%増)で、「物価高」倒産の6割(構成比63.7%)を占めた。このうち、5人未満が24件(前年同月比242.8%増)、5人以上10人未満が13件(同116.6%増)。
 このほか、10人以上20人未満が8件(同100.0%増)、20人以上50人未満が11件(同450.0%増)、300人以上が2件(前年同月ゼロ)と、それぞれ増加した。

【地区別】9地区すべて増加

 地区別は、9地区すべてで前年同月を上回った。
 増加率の最大は、中部の前年同月比500.0%増(1→6件)。以下、中国(2→6件)と九州(1→3件)が同200.0%増、関東が同185.7%増(7→20件)、近畿が同80.0%増(5→9件)。このほか、前年同月がゼロだった北海道が6件、北陸と四国が各1件。
 
 都道府県別の最多は、東京の7件(構成比12.0%)。次いで、北海道6件、大阪5件、神奈川4件、岩手、埼玉、兵庫、岡山、広島の各3件の順。

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