にしせと地域共創債権回収・坂本社長 単独インタビュー
~ コロナ禍の出口戦略としてのサービサー ~
コロナ禍で企業が背負った「過剰債務」問題の出口戦略として、サービサーを活用したスキームが注目を集めている。
昨年9月に中小企業庁などが公表した「中小企業活性化パッケージNEXT」で、再生局面にある企業に対して「再生系サービサーを活用した支援スキームの創設」と「中小機構が最大8割出資する再生ファンドの拡充、優先分配スキームの創設」が明記された。
東京商工リサーチは、このスキームを活用した「ちいきみらい創造ファンド」の組成に携わった、にしせと地域共創債権回収(株)(TSR企業コード: 137547285、にしせとサービサー)の坂本直樹・代表取締役に、業界の現状やファンド組成の背景などを聞いた。
―サービサー業界の現状は。
金融界の不良債権処理の進捗に比例するかのようにサービサーの数は減少している。1999年に施行されたサービサー法(※1)は当時の金融監督庁が策定を主導したが、弁護士法の特例なので所管は法務省となった。施行当時は不良債権処理の必要に迫られており目的は果たしたが、金融行政と連携しにくい状況だったため、処理が進んだ後のサービサーの在り方を描きにくい状況が続いた。
ただ、金融界の働き掛けもあり、2011年のコンサルティング指針(※2)や2016年の金融仲介機能のベンチマーク(※3)で言及され、サービサーに注目が集まった。こうした状況下でコロナ禍を迎えた。コロナ初期に大胆な資金繰り支援策が実施されたが、「再生局面への対応が必要だ」との認識が中小企業庁を含めて関係省庁に醸成されていった。2020年9月頃より関係先と密に意見交換をしたが、中小・零細企業への資本支援を機能させることは難しいとの認識が広がった。
取材に応じる「にしせとサービサー」坂本社長
サービサーの活用は選択肢の一つとなるが、「再生」というイメージがない。認定支援機関(※4)を倣い、認定制度が模索され、2022年8月に「再生系サービサー」の申込が始まり、9月の「中小企業活性化パッケージNEXT」で活用が明記された。同年6月のプログレスレポート(※5)では、サービサーが特定金銭債権を時価で買い取り、一定額を回収の後、必要に応じて債務者へ売却するディスカウント・ペイオフ(DPO)の再生支援効果が明記された。
サービサー業界が再生支援に積極的ではなかった時期もあったが、それが近年変わってきた。ただ、業界として再生人材を確保できているかというと、そうではない。
※1 「債権管理回収業に関する特別措置法」。1999年2月施行。
※2 「中小企業者等に対する金融の円滑化を図るための臨時措置に関する法律に基づく金融監督に関する指針」。この中で、「サービサー等との連携により債務者の債務整理を前提とした再起に向けた方策を検討」と明記された。
※3 「事業再生支援先におけるDES・DDS・債権放棄を行った先数、及び、実施金額(債権放棄額にはサービサー等への債権譲渡における損失額を含む)」と明記された。
※4 経営革新等支援機関認定制度。2012年施行の「中小企業経営力強化支援法」を根拠法とする。
※5 金融仲介機能の発揮に向けたプログレスレポート。
―にしせとサービサーの特色は。
私自身、過去に複数のサービサーやファンド設立に関わってきた。また、当社は(株)山口フィナンシャルグループ(TSR企業コード:752030515)が90%出資する「地銀系サービサー」だ。29人の従業員は、基本的に山口FGからの出向だ。銀行で得た知見を活かせると同時に、当社で債権買取や再生支援、ファンド組成まで多様な経験を積むことが出来る。人材育成の側面も持ちあわせている。
―今回組成した「ちいきみらい創造ファンド」について。
ちいきみらい創造投資事業有限責任組合を2023年2月28日に設立した。みらいコンサルティング投資(株)(TSR企業コード: 695142020)が無限責任組合員(GP)で、中小機構や山口FG傘下の銀行、愛媛銀行、山口県内の信用金庫が有限責任組合員(LP)だ。出資額30億円のうち、6割は中小機構が持つ。西日本を対象とする広域ファンドに中小機構が半数超を出資するのは初めて。また、「中小企業活性化パッケージNEXT」で再生ファンドの組成を促すため優先分配制度が措置されたが、本ファンドが初適用となる。
―中小機構との連携の意義は。
再生支援が必要な先は複数行取引が多いので金融機関調整を避けて通れず、(調整機能のある)中小企業活性化協議会との連携が重要だ。また、金融機関はコロナ禍での融資量増加でリスクアセット(融資量)が膨張した。
一方で、再生局面の企業は増えており、中小機構の受け入れによるファンド規模の確保が必要だ。さらに、コロナ禍での実質無利子・無担保(ゼロ・ゼロ)融資は保証協会付きだ。時価譲渡は困難な場合が多いが、中小機構の出資により譲渡可能性が高まると期待する。
―対応する案件数の想定は。
決めていない。大きな案件があれば件数は落ちる、そうでなければ件数は増える。
―DPOのみで再生は完結するのか。新規のファイナンスには対応するのか。
「サービサーはB/Sしか触れない」と言われるが、B/Sをグリップするには、経営者ときちんと対峙する必要がある。つまり、P/Lアプローチも可能になる。(債権を買い取って)債権者になることは、数年間寄り添うという意味だ。経営者に腹に落としてもらわなければ、成し遂げることはできない。
資金繰りについては、金融機関によるファイナンス機能の活用も当然検討するが、例えば利払いを止めることによるキャッシュで投資資金を捻出するなどのケースも考えられる。
―クロージングまでの期間は。
だらだら続くのは良くない。だからと言って、ワンタッチでもダメだ。債権者になるメリットは「時間をかけた説得が可能になる」ことだ。案件にもよるが3年が一つの目安。イグジットとしては、オリジネーター(原債権者)に声をかけることが想定されるが、他の金融機関によるリファイナンスや、スポンサーによる支援を含めたあらゆる手段を検討する。
―再生実務家とのパイプがファンドの成否を決めるように感じる。
実績が重要だ。案件を頂戴して良い回答が出来ないと、以降は声掛けを頂けない世界だ。
(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2023年3月2日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)