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「事業成長担保権」の概要固まる、成長企業や第二創業での活用想定

 「不動産」や「経営者保証」に依存する融資実務に新たな制度が加わりそうだ。2月2日、金融庁は金融審議会で議論していた「事業成長担保権」(仮)の概要を公表した。有形資産を持たないスタートアップや事業承継時の資金調達手法の多様化を目指す。


 事業成長担保権は、将来性や技術、ノウハウなど事業すべてを担保とする。これまで融資実務で中心となっていた不動産や動産への担保設定では、経営悪化など有事の際に企業への支援が金融機関などの与信者のインセンティブに必ずしも繋がらず、経営改善が遅れたり、事業継続を断念するケースがあった。
 事業成長担保権では、担保価値が下がらないように継続的に支援する必要に迫られるため、経営悪化のシグナルを早期に発見することも期待できる。同担保の設定が経営破たんリスクの低減に繋がる可能性もある。一方で、金融機関は、将来性やノウハウ、取引基盤など無形資産の価値がどの程度あるのか「目利き力」がより一層問われることになる。
 金融庁は2023年度中の国会提出、2~3年後の制度開始を目指している。

事業成長担保権の設定は信託契約

 2022年11月~2023年2月までに、金融審議会で合計7回のワーキング・グループが開催され、議論していた。
 事業成長担保権を商取引債権者は設定できない。金融庁が認可した「信託免許」を得た金融機関等のみが事業成長担保権を設定でき、乱用を防ぐ仕組みも取られた。
 同担保権では、粉飾等を除き経営者保証を制限する。経営者の心理的ハードルを下げ、事業再構築やM&Aの際の資金調達の円滑化につなげる。設定事実は、商業登記簿に登記し、登記原因や事業成長担保権者の名称などが記載される予定だ。
 信託契約方式を想定し、資金を調達する企業は、金融庁から認可を受けた信託会社と事業成長担保権(信託契約)を設定する。担保権の優先弁済権として金融機関やファンドなど与信者(貸し手)が事業性に着目した融資を行う仕組みで、信託会社と与信者が同一会社であることも許容する。
 債務不履行の際は、裁判所に選任された管財人が担保を実行する。商取引債権や労働債権は優先債権として取り扱い、管財人は事業継続を前提にスポンサー承継を目指す。



 金融庁の担当者は「貸し手と借り手が同じ方向を向くことにつながる担保権」と、事業成長担保権の意義を語る。
 商取引での審査実務では、不動産への新たな担保設定や動産・債権への譲渡登記の設定は、被担保権者(取引先)への理由のヒアリングなど内容の精査が必要だ。理由が判然としない場合は、与信上、マイナス評価とすることもある。事業成長担保権では、創設理念通りの運用となった場合、設定事実自体が与信上、プラス評価となることも想定される。
 一方で、議論開始当初に模索されていた再生局面での活用はトーンダウンした。DIPファイナンス等の取り組み推進は、引き続き、実務レベルでの模索が続きそうだ。

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2023年2月6日号掲載予定「WeeklyTopics」を再編集)

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