• TSRデータインサイト

2022年は過去最多の422件、初の400件超  ~『後継者難』倒産の状況 ~

 2022年の後継者不在による『後継者難』倒産(負債1,000万円以上)は422件(前年比10.7%増)で、2020年から3年連続で前年を上回った。 『後継者難』倒産が400件台に乗せたのは、調査を開始した2013年以降では初めて。

要因別では、代表者の「死亡」が223件(構成比52.8%)で半数以上を占め、「体調不良」138件(同32.7%)と合わせた2要因で『後継者難』倒産の8割超(同85.5%)に達した。
産業別では、最多はサービス業他の100件(前年比19.0%増)で、初の100件台に。このほか、建設業91件(同18.1%増)、製造業68件(同3.0%増)など、7産業で前年を上回った。
2021年の経営者の平均年齢は62.77歳(前年62.49歳)に伸びた。2022年の「後継者不在率」調査(約17万社対象)では、約6割(59.9%)の企業で後継者がおらず、代表者の高齢化と後継者不在は事業継続に大きな経営リスクになっている。
企業倒産は、コロナ禍の各種支援策で歴史的な低水準をたどり大きく抑制された。しかし、『後継者難』倒産は3年連続で増加し、地域経済の衰退や雇用などへの影響が懸念されている。
中小・零細企業で事業承継が進まないのは、資金余力が乏しく、独自での事業承継や後継者育成が後回しとなっていることが大きな要因だ。最近、規制緩和で銀行が投資専門子会社を通じた企業買収が可能となり、「事業承継」ファンドの設立が相次いでいる。こうした機運が定着すると中小・零細企業の事業承継に自治体や金融機関、商工団体などの動きも活発になるだろう。

  • 本調査は「人手不足」関連倒産(後継者難・求人難・従業員退職・人件費高騰)から、2022年の『後継者難』倒産(負債1,000万円以上)を抽出し、分析した。

3年連続で前年を上回り、初の400件台に

 2022年の『後継者難』倒産は422件(前年比10.7%増)で、2020年より3年連続で前年を上回った。調査を開始した2013年(234件)から1.8倍に増加し、初めて400件台に乗せた。また、負債1,000万円以上の倒産全体の6.5%(前年6.3%)を占め、前年より0.2ポイント上昇した。
コロナ関連支援の下支えで企業倒産は抑制されてきたが、支援効果の希薄化とともに企業倒産は2022年4月から12月まで9カ月連続で前年を上回り、2022年の年間倒産はコロナ前の2019年以来、3年ぶりに増加し増勢を強めた。一方、『後継者難』倒産はコロナ禍でも増加が続き、事業運営上の重大な問題になっている。
すでに金融機関だけでなく一般企業でも、取引に際しては代表者の年齢や後継者の有無を重視する傾向にある。ただ、高齢の代表者が事業承継や後継者育成に取り組むことは、資金面も含め難しく、自治体や金融機関、投資ファンドなど第三者の支援も必要だ。

後継者難推移

【要因別】「死亡」が5割超

 要因別件数の最多は、代表者などの「死亡」が223件(前年比13.7%増)で、3年連続で前年を上回った。構成比は52.8%で、前年の51.4%より1.4ポイント上昇した。
次いで、「体調不良」の138件(前年比14.0%増、構成比32.7%)で、2年ぶりに前年を上回った。
代表者などの「死亡」と「体調不良」は合計361件(前年比13.8%増)で、3年連続で前年を上回った。構成比は85.5%で、前年の83.2%より2.3ポイント上昇した。
このほか、「高齢」が46件(同12.1%増)で、4年連続で前年を上回った。
代表者の高齢化が年々進み、「死亡」や「体調不良」で事業継続が困難になる経営上のリスクとなっている。

後継者難 要因別

【産業別】10産業のうち、7産業で増加

 産業別件数は、10産業のうち、金融・保険業、不動産業、情報通信業を除く7産業で、前年を上回った。
最多は、サービス業他の100件(前年比19.0%増)で、7年連続で前年を上回り、初めて100件台に乗せた。構成比は23.6%で、前年の22.0%より1.6ポイント上昇した。
このほか、製造業が68件(同3.0%増)で3年連続、農・林・漁・鉱業9件(同350.0%増)と建設業91件(同18.1%増)、卸売業65件(同1.5%増)、小売業47件(同23.6%増)、運輸業14件(同7.6%増)が2年ぶりに、それぞれ前年同月を上回った。
一方、不動産業17件(同32.0%減)と情報通信業10件(同9.0%減)が、2年ぶりに前年を下回った。
金融・保険業は前年と同件数の1件だった。

業種別件数では、建築工事業が17件(前年15件)、土木工事業13件(同3件)、一般貨物自動車運送業が12件(同10件)、内装工事業が10件(同8件)、一般管工事業が7件(同5件)。はつり・解体工事業(同ゼロ)、オフセット印刷業(同2件)、経営コンサルタント業(同3件)、建築設計業(同5件)が各6件、中古自動車小売業(同4件)、土地売買業(同4件)が各5件、一般電気工事業(同ゼロ)、ラーメン店(同ゼロ)、無床診療所(同3件)が各4件などで、それぞれ前年を上回った。

後継者難 産業別

【形態別】破産が9割超

 形態別件数は、消滅型の「破産」が395件(前年比12.5%増)と5年連続で前年を上回り、構成比は93.6%(前年92.1%)となった。一方、再建型の「民事再生法」が2件(前年1件)にとどまり、「会社更生法」は調査を開始した2013年以降、発生がなかった。
業績不振に陥った企業は、後継者の育成や事業承継の準備まで手が回らない。代表者に不測の事態が発生した場合、事業運営にも支障をきたし、破産を選択せざるを得ない。

後継者難 形態別

【資本金別】1千万円未満が約6割

 資本金別件数は、「1千万円未満」が247件(前年比20.4%増)で、2年ぶりに前年を上回った。構成比は58.5%で、前年の53.8%より4.7ポイント上昇した。このほか、「5千万円以上1億円未満」14件(同55.5%増)が2年ぶり、「1億円以上」3件(前年1件)が2年ぶりに、それぞれ前年を上回った。一方、「1千万円以上5千万円未満」158件(前年比4.8%減)が、3年ぶりに前年を下回った。

後継者難 資本金別

【負債額別】1億円未満が約7割

 負債額別件数は、「1億円未満」が284件(前年比4.7%増)で、2年ぶりに前年を上回った。ただ、構成比は67.2%(前年71.1%)と低下した。内訳は、「1千万円以上5千万円未満」189件(前年比2.7%増)が2年ぶり、「5千万円以上1億円未満」95件(同9.1%増)が3年連続で、それぞれ前年を上回った。
このほか、「1億円以上5億円未満」119件(同21.4%増)と「5億円以上10億円未満」15件(同87.5%増)が3年連続で前年を上回った。「10億円以上」は、前年と同件数の4件だった。

後継者難 負債額別

人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

2025年3月期決算(6月20日時点) 役員報酬1億円以上の開示は117社・344人

2025年3月期決算の上場企業の株主総会開催が本番を迎えた。6月20日までに2025年3月期の有価証券報告書を510社が提出し、このうち、役員報酬1億円以上の開示は117社で、約5社に1社だった。

2

  • TSRデータインサイト

「想定為替レート」 平均1ドル=141.6円 前期比1.9円円高を想定、4期ぶり円安にブレーキ

主な株式上場メーカー98社の2025年度決算(2026年3月期)の期首ドル想定為替レートは、1ドル=140円が48社(構成比48.9%)と約5割にのぼった。平均値は1ドル=141.6円で、前期に比べ1.9円の円高となった。

3

  • TSRデータインサイト

代金トラブル相次ぐ、中古車販売店の倒産が急増

マイカーを売却したのに入金前に売却先の業者が破たん――。こうしたトラブルが後を絶たない。背景には、中古車価格の上昇や“玉不足”で経営不振に陥った中古車販売店の増加がある。倒産も2025年1-5月までに48件に達し、上半期では過去10年間で最多ペースをたどっている。

4

  • TSRデータインサイト

日産自動車の役員報酬1億円以上開示は5人 内田前社長の報酬額は3億9,000万円

 経営再建中の日産自動車が、2025年3月期決算の有価証券報告書を提出した。報酬額1億円以上の個別開示の人数は5人で、前年と同数だった。

5

  • TSRデータインサイト

2024年上場企業の「個人情報漏えい・紛失」事故 過去最多の189件、漏えい情報は1,586万人分

2024年に上場企業とその子会社が公表した個人情報の漏えい・紛失事故は、189件(前年比8.0%増)で、漏えいした個人情報は1,586万5,611人分(同61.2%減)だった。 事故件数は調査を開始した2012年以降、2021年から4年連続で最多を更新した。

TOPへ