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ヤッホーブルーイング、原材料高騰で初の値上げ 井手社長「付加価値高めて勝ち抜く」井手社長 単独インタビュー(前編)

 コロナ禍では外食が手控えられ、家飲み需要が高まるなど、消費者の行動様式に変化が生じた。こうした状況は飲料製造業者の経営戦略にも大きな影響を与えている。
 東京商工リサーチ(TSR)は、クラフトビール大手の(株)ヤッホーブルーイング(TSR企業コード:411065335、長野県御代田町)の井手直行・代表取締役社長に単独インタビューした。クラフトビールメーカーとしての取り組みや課題、今後の見通しを聞いた。


―コロナ禍で、販売形態や宣伝活動に変化は

 一番の変化はPR系の活動だ。コロナ前はファンの方と交流のため、リアルイベントを開催していた。100人程度~何千人規模まで開催していたが、オンラインに切り替えた。
 販売面では形態は変わっていないが、チャネルによってコロナ禍で浮き沈みがある。店頭販売は巣ごもり需要のなか、我々のビールを選んでいただく機会が多くなり、スーパーやコンビニなどでの売上が伸びた。インターネット通販も巣ごもり需要を取り込んだ。
 逆に飲食事業は、都内に8店舗ある公式ビアレストラン「YONA YONA(よなよな) BEER WORKS」の売上が大きく落ち込み、一時閉店した時期もあった。地元・軽井沢での需要も落ちた。軽井沢は年間800万人の観光客や別荘を利用される方が訪れる日本有数の避暑地で大きいマーケットだ。しかし、旅行が手控えられたことで売上が激減した。ただ、スーパーやコンビニの店頭販売(の割合)が大きいので売上はおおむね好調だ。
 コンビニは、これまでローソンだけが扱っていたが、巣ごもり消費でクラフトビールが売れていると評判になり、他の大手コンビニにも商品が入るようになった。ただ、数店に1店と配下率はまだ低い。

―店頭販売は新規ユーザーを掴みやすい

 コロナ禍を機に、新規の方や久々に飲まれる方が増えた。確実に間口を広げた。

―キャッチーな商品パッケージが目立つ

 宣伝広告費をかけられないので、デザインは大手メーカーと明らかに違うようにしている。「よなよなエール」から継続して、ネーミングも興味を持ってもらえるよう工夫している。コロナ禍で、「ちょっとビールのおいしいものを飲んでみよう」、「パッケージが変わっている、なんだこれは!」と手に取ってくれる人がいた。
 実際飲んでみたら、これまで飲んでいたビールと違う味で、「これいいな」とリピートしていただく流れができた。

やっほー社長前編

‌特徴的なパッケージの自社ビールを前に(TSR撮影)

―独自戦略の業界へのインパクトは大きい

 ここ数年、大手ビールメーカーも限定ビールや新製品で、既存の商品とは明らかに違うネーミングやデザインのものを出している。クラフトビールメーカーでも当社のような犬とか猫とかの絵柄を使ったビールが出ている。これまでの缶ビールは硬いイメージの名前と、ロゴやデザインが主流だったが、ここ数年変わってきた。ただ、当社ほどクリエイティブに関して細部にこだわっているところはない。ビールによって、飲んでいただきたいメインターゲットを決めて、消費行動を押さえて、コンセプトを作る。そのコンセプトに合わせてデザイン、ネーミング、味を決めている。
 たとえ、当社の商品デザインに似たビールがあったとしても、すべてが一つのコンセプトの集合体として振り切れないだろう。ほかのクラフトビールメーカーは、そこまで意識はできない。大手では、例えば猫の絵柄を前面にだしたパッケージは「猫嫌いは買わないのでは」とか「犬好きは買わない」という議論が社内で起こる。そもそも「これはビールらしくないから買わない」とか、そういう議論になり、商品化は難しいだろう。

―ヤッホーがそこまで振り切る理由は

 大手はマスをターゲットにするので、限定品でも100人中80人に飲んでもらわないといけない。でも、当社は100人のうちの1人に熱狂的に刺されば、マーケットシェアは理論上1%になる。業界5位のオリオンビールでシェアは0.8%ぐらいだ。当社はオリオンビールの次になるが、そう考えると、数的には100人中90人を狙わなくてもいい。狙っている層は女性を含む若い世代が中心だが、実際は結構幅広い方に購入いただいている。

―原材料高騰に対する策は

 値上げしかない。希望小売価格を変動させない方がいいと思っているので、「よなよなエール」も1997年の発売当初から希望小売価格を1回も変えたことがない。これまで(材料の)値上げや費用の壁に何度かぶつかってきたが、規模を拡大したり効率化したり、企業努力で何とか値上げをしなかった。 
 だがこの数カ月、今年に入って材料のほぼすべてが値上がりしている。麦芽、ホップ、生産工程で使う薬品、缶など、すべてだ。原材料の内容にもよるが20~30%、モノによっては第2弾の値上げを行うような話も聞く。これはもう企業努力とかで賄えるようなレベルを超えてしまった。
 このため、「よなよなエール」は10月に、税別で10%値上げする。当社のビールは嗜好品のなかでも選んで買っていただいている部類だ。その他の商品も全て値上げする苦渋の決断をした。
世の中の激変で、改めて頭をニュートラルにして考えた。日本は物が「安すぎる」側面がある。価格が安い方が消費者は喜ぶし、低利益でも頑張り続ける方がいいという風潮がある。だが、それは永続的な企業活動には健全ではない。
 そのなかで、大手ですら値上げする。当社ももちろん耐えられない。ただ、消費者は給料が上がらない。ということは、「どうしても必要な物は買うが、嗜好品的な物は取捨選択される」ことが起きる。
 飲む頻度が下がるか、一切飲まなくなる、または安いものにスイッチする。そうした時に、当社はクラフトビール業界のリーダーとして、勇気をもって値上げをして、適正な利益をいただいた上で選んでもらえる価値を提供する。その決意もなく当社が低利益で苦しんでいたら、同業の仲間たちはもっと苦しくなる。値上げは怖いが、それを逆手にとって付加価値を高めて勝ち抜く力をつける。そうした決意で臨んでいる。

―業容が「クラフトビールメーカー」のくくりではなくなるのでは

 クラフトビールメーカーは今、国内に600社ほどあるが、アメリカでは9,000社以上だ。クラフトビールの日本のマーケットは金額ベースで2%弱だが、アメリカは25%を超える。アメリカには、クアーズやバドワイザー、ミラーなどクラフトビールにも大手メーカーがある。向こうのクラフトビールの最大手はサッポロビールぐらい大きい。
 そこまで大きくなれるかはわからないが、まだまだ小さな会社だし、大手と肩を並べるような状況ではない。ようやくスタートラインぐらいの感じだ。

(続く)

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2022年9月28日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)

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