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2022年度の「賃上げ」 コロナ前に並ぶ82.5%の企業が実施 ~2022年度「賃上げに関するアンケート」調査~

  2022年度に賃上げを実施した企業(予定含む)は82.5%で、コロナ禍で落ち込んだ21年度の70.4%から12.1ポイント上昇。集計を開始した2016年度以降、2017年度の82.7%に次ぐ、2番目の高水準だった。コロナ前の官製春闘で、賃上げ実施率が80.9%だった2019年度を上回る水準に戻したことがわかった。

 規模別では、大企業が88.1%と9割に迫ったが、中小企業は81.5%にとどまった。産業別でも、最高の製造業が87.2%だったのに対し、最低の農・林・漁・鉱業は60.7%だった。
 また、大企業は農・林・漁・鉱業、運輸業、建設業、製造業で実施率が9割を超えたが、中小企業は最高の製造業でも86.7%で、全産業が9割を下回った。規模や業種間の差が広がっている。
 実施内容では、物価上昇などを背景に「ベースアップ」が42.0%と、21年度の30.3%を11.7ポイント上回った。ベースアップの実施企業が4割を超えたのは、2019年度以来、3年ぶり。
 賃上げ率は、「3%未満」が69.8%(大企業81.5%、中小企業68.3%)に対し、「5%以上10%未満」は7.5%(大企業2.4%、中小企業8.1%)で、中小企業のアップ率が目立った。
 ただ、「3%未満」は、コロナ禍の業績悪化で賃上げに消極的だった2020年度(57.7%)、2021年度(50.7%)の水準よりもさらに高い。政府は「成長と分配の好循環」を掲げるが、原材料価格や人件費上昇を価格転嫁することが難しいなか、賃金の上昇ペースは鈍化している。
 新型コロナの第7波では、感染防止と社会経済活動の両立のため行動制限は課せられていない。このため、経済活動の再開に伴い人手不足が再び顕在化している。賃上げは人材確保と同時に、収益に直結するだけに、中小企業を中心に今後の業績への影響が注目される。

  • 本調査は、2022年8月1日~8月9日にインターネットによるアンケートを実施、有効回答6,204社を集計、分析した。
    賃上げ実体を把握するため「定期昇給」、「ベースアップ」、「賞与(一時金)」、「新卒者の初任給の増額」、「再雇用者の賃金の増額」を賃上げと定義した。
    資本金1億円以上を「大企業」、1億円未満(個人企業等を含む)を「中小企業」と定義した。

Q1.今年度、賃上げを実施しましたか?(択一回答)


「実施率」は8割超、コロナ前の水準を回復

 「実施した」は82.5%(6,204社中、5,120社)で、前年度の70.4%から12.1ポイント上昇した。コロナ前の2019年度の80.9%と比べても1.6ポイント上回り、定期的な集計を開始した2016年度以降では、官製春闘の2017年度の82.7%に次いで、2番目に高い水準となった。
 規模別の「実施率」では、大企業が88.1%(885社中、780社)だったのに対し、中小企業は81.5%(5,319社中、4,340社)で、6.6ポイントの差がついた。

賃上げ動向推移

産業別 賃上げ実施企業率、製造業が最多

 Q1の結果を産業別で集計した。「実施した」割合が最も高かったのは、製造業で87.2%(1,918社中、1,674社)だった。以下、卸売業84.5%(1,382社中、1,168社)、建設業83.7%(788社中、660社)と続く。
 最低は、農・林・漁・鉱業の60.7%(28社中、17社)だった。金融・保険業(67.3%)と不動産業(67.5%)を合わせた3産業は、実施率が6割台にとどまった。
 規模別は、大企業の農・林・漁・鉱業(100.0%)、運輸業(95.2%)、建設業(93.9%)、製造業(90.0%)で実施率が9割を超えた。一方、中小企業で9割を超えた産業はなく、80%台は製造業(86.7%)、卸売業(83.9%)、建設業(82.5%)、情報通信業(80.0%)の4産業。
 賃上げの実施率は、大企業が10産業すべてで中小企業を上回った。
 運輸業は、大企業の95.2%(42社中、40社)に対し、中小企業は73.9%(207社中、153社)で、21.3ポイントの大差がついた。前年度は16.4ポイント差だったが、規模間の格差が広がり、人手不足が深刻化するなか、今後は中小企業の人材確保に影響を与えることも懸念される。

賃上げ実施状況

Q2. Q1で「賃上げを実施した」と回答した方にお聞きします。実施した内容は何ですか。


「ベースアップ」実施企業、3年ぶりに4割超

 Q1で「実施した」と回答した企業に賃上げ項目を聞いた。5,092社から回答を得た。
 最多は、「定期昇給」の81.0%(4,128社)。次いで、「賞与(一時金)の増額」44.2%(2,255社)、「ベースアップ」42.0%(2,142社)、「新卒者の初任給の増額」18.2%(927社)の順。
 前年度と比べ「定期昇給」は2.1ポイント(前年度83.1%)低下したが、「賞与(一時金)の増額」(同37.7%)は6.5ポイント、「ベースアップ」(同30.3%)は11.7ポイント、それぞれ上昇した。
 物価上昇などを背景に、「ベースアップ」を実施した企業は2019年度以来、3年ぶりに40%台に乗せた。

賃上げ実施内容

Q3.賃上げ率(%)はどの程度ですか?年収換算ベース(100までの数値)でご回答ください。


「3%以上」は3割にとどまる

 Q1で「実施した」と回答した企業に賃上げ率を聞いた。2,832社から回答を得た。
 1%区切りでは、最多は「1%以上2%未満」の33.4%(948社)だった。次いで、「2%以上3%未満」が31.9%(904社)。「1%未満」を含む「賃上げ率3%未満」は69.8%(1,978社)で、実施企業の約7割が3%未満の賃上げにとどまった。
 規模別では、賃上げ率「3%以上」は大企業が18.4%(326社中、60社)に対し、中小企業は31.6%(2,506社中、794社)で、中小企業が13.2ポイント上回った。
 大幅賃上げは、中小企業の収益圧迫が危惧されるが、経済活動の本格再開で人手不足が懸念されており、人材確保のためにも賃上げせざるを得ない中小企業の姿が浮かび上がる。

     ◇         ◇          ◇
 2022年度の「賃上げ実施率」は82.5%で、前年度の70.4%を12.1ポイント上回った。コロナ前の2019年度(80.9%)を超える水準に戻したが、製造業などの業績回復だけでなく、断続的な物価上昇も影響したとみられる。
 コロナ禍で業績への影響を克服できていない企業は賃上げが難しく、賃上げ実施率は規模や業種により濃淡が出た格好だ。
 特に、燃料費高騰と人手不足の影響が深刻な運輸業は、大企業の95.2%が賃上げを実施したが、中小企業の実施率は73.9%にとどまった。体力のある大企業は、人手確保のため賃上げに踏み出しているが、燃料費の高止まりや価格転嫁の遅れで収益を圧迫されやすい中小企業では、賃上げ実施の余力が乏しい企業も少なくない。
 「新しい資本主義」では賃上げが重要課題に浮上しているが、中小企業は人件費の吸収が容易でない状態が続くだけに、包括的な支援が必要になっている。


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