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ベンチャーの不正開示が横行、上場企業の信頼に揺らぎ

 バイオベンチャーのテラ(株)(TSR企業コード:296045896)の破産が波紋を広げている。開示情報の4割が事実と異なる可能性があり、9期連続の最終赤字、関係者がインサイダー容疑で逮捕されるなど、多くの話題を振りまいたテラ。破産を契機に、上場企業のあり方を見直す議論も高まりそうだ。

不正な開示で株価が乱高下

  テラのように株式市場からの資金調達が中心のベンチャー企業は、実績が乏しいことや利益蓄積が薄いため、投資や与信判断に迷うこともある。投資家や取引先は開示資料に頼るしかないが、そこに株価維持や上昇を目論む意図が働くと、手の打ちようがない。
こうした状況を断ち切るには、上場後も東証や規制機関、監査法人などの厳格な審査が必要だ。そこが骨抜きになると、上場企業の信頼を損ねる事態を招きかねない。
テラは、東京大学医科学研究所が開発した技術を活用した創薬バイオベンチャーだ。医薬品の開発は、多額の資金を要する。信用力が乏しいテラは、株式発行で資金調達を急いだ。
新型コロナの感染が急拡大していた最中の2020年4月27日。提携する企業のメキシコ子会社が、新型コロナ薬を開発して薬事申請したと発表した。発表当日165円だったテラの株価は同年6月9日、2175円まで急騰した。
ところが、その後の社内の調査で、薬事申請の事実はなく、メキシコ子会社の存在自体も確認されなかったことが明らかになった。これを受け、テラは2021年9月、2020年4月以降の1年間に開示した情報の4割が事実と異なるおそれがあると公表した。その後、一部開示の取り下げや訂正を余儀なくされた。
東証は「特設注意市場銘柄」への指定と上場契約違約金2,000万円を求めた。だが、上場は維持され、JASDAQから新市場区分のスタンダードに移行した。
テラは2021年3月、金融商品取引法違反の疑いで強制調査を受け、2022年3月に関係者がインサイダー容疑で逮捕された。
2022年12月期の売上高(連結)予想はわずか2,700万円。10期連続の最終赤字を見込み、6月にはシェアオフィスに移転した。上場会社では極めて異例だ。
この段階で賃料や給与など支払い延滞が膨れ上がっていた。こうした状況でもテラは上場を維持でき、破産申請まで株価は90円超で推移した。

過剰なノルマ設定の末

  マニュアル制作などを手掛けるグレイステクノロジー(株)(TSR企業コード:294306579、当時東証1部)は、機関投資家への説明に合わせるため過大な売上目標を設定していた。その達成困難な過剰ノルマを糊塗するため、売上の架空計上が始まった。
売上の前倒しや架空計上で業績は好調を装い、2020年12月の株価は上場来の最高まで上昇。裏側では泥沼の自転車操業を続けた。
だが、2021年4月の元会長の急逝でこの事実が発覚し、四半期決算を提出できないまま、2022年2月に上場廃止となった。

調査報告書で東証への指摘

  指紋認証ソリューションなどを手掛ける東証グロースの(株)ディー・ディー・エス(TSR企業コード: 401376885)は8月8日、不適切会計の調査報告書を公表した。
報告書では、前会長による非現実的な売上予算の策定と予算必達主義が不適切な会計につながったと指摘された。
報告書で第三者委員会のスーパーバイザーを務めた久保利英明弁護士は、「グロース市場に対する投資を呼び起こすためにも、規制当局はグロース市場に対し、もう少し厳しい目を向ける必要があるのではないか。上場審査の後、東証は何らフォローアップをする必要がないのか」と疑問を呈し、「(グロース市場の上場会社は)コーポレート・ガバナンスが機能していない企業が多いという事実から目を背けてはならない」と指摘した。

不正会計

‌後を絶たない「調査報告書」の開示

 上場企業への「信頼」は、過去のものなのか。不正な会計や情報開示も、第三者委員会の調査を公表し、過年度の開示や内部統制報告書の訂正で終わりというケースもある。こうした緩い処分が、上場企業のガバナンスを崩し、不正を助長している側面も指摘される。
東証や金融庁などの規制当局は、チェック体制の強化だけでなく、自己中心的な不正に手を染めた企業への罰則強化の議論を急ぐべきだろう。


(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2022年8月17日号掲載「Weekly Topics」を再編集)

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