• TSRデータインサイト

2021年「全国新設法人動向」調査

 2021年(1-12月)に新しく設立された法人(以下、新設法人)は14万4,622社(前年比10.1%増、前年13万1,238社)で、2019年以来、2年ぶりに前年を上回った。2007年以降で初めて前年比の増加率が10%を超え、件数は2017年を抜いて過去最多を記録した。
 産業別では、10産業すべて増加した。増加率が最も高かったのは、農・林・漁・鉱業の17.4%(2,469社→2,900社)だった。コロナ禍の三密回避や地方回帰の動きが新設法人の動向にも影響を与えたとみられる。一方、増加率が最も低かったのは不動産業の2.6%(1万3,919社→1万4,281社)だった。金融緩和や海外の投資マネー流入で都市部を中心に不動産価格が高騰しており、新規参入しにくい市場環境を反映したとみられる。
 2021年の新設法人の商号で、最多は前年(2020年)に引き続き、「LINK」の54社(前年51社)だった。「結びつき」や「絆」を重視する起業が定着しているようだ。

  • 本調査は、東京商工リサーチの企業データベース(対象400万社)から、2021年(1-12月)に全国で新しく設立された全法人を抽出し、分析した。

新設法人は増加、倒産と休廃業・解散は減少

 2021年の新設法人は14万4,622社(前年比10.1%増)で、増加率が初めて10%を超えた。一方、2021年の休廃業・解散は4万4,377社(同10.7%減)、倒産は6,030社(同22.4%減)と、ともに2ケタの減少率だった。コロナ禍の手厚い資金繰り支援で倒産が抑制され、休廃業・解散も判断が先送りされるなか、新設法人の突出した増加が目立った。

新設法人

新設法人の商号 「LINK」がトップ

 2021年の新設法人で最も多かった商号は、「LINK」の54社(前年51社)だった。「結びつき」や「連結」、「絆」などを意味しているとみられる。また、相手が出来ないことを助ける意味の「アシスト」は2位の51社(同49社)で、トップ2は前年(2020年)と同じだった。
 3位は前年17位だった「RISE」の45社(前年26社)が急上昇し、上位には前向きで未来志向、親和性、独自性を重んじる商号が並んだ。

新設法人

法人格別 特定非営利活動(NPO)法人が大幅に増加

 法人格別の社数は、株式会社が9万6,025社(前年比10.8%増)で、全体の66.4%を占めた。
 合同会社は、3万6,934社(前年比10.9%増、構成比25.5%)で、初めて3万6,000社を超えた。新設法人の4社に1社を占める合同会社は、設立コストが安く、株主総会も不要など経営の自由度も高い。こうしたメリットから設立数は右肩上がりが続く。
 また、特定非営利活動(NPO)法人が1,504社(前年比12.0%増、構成比1.0%)と大幅に増加した。前年(2020年)の15.0%減から一転した。


 2021年の全国の新設法人は14万4,622社(前年比10.1%増)で、2007年以降で最多となった。増加率も10%を超え、コロナ禍にもかかわらず活発な起業ニーズがうかがえる。
 コロナ禍が既存ビジネスモデルや商流に変革を迫り、新たなビジネスが芽生えつつあるようだ。関係官庁や商工会議所、金融機関など、手厚い創業支援も新設法人の増加に繋がったとみられる。一方でコロナ禍での雇用環境の悪化が起業を促した可能性も見ていく必要があるだろう。
 増減率は業種によってまちまちだ。パルプ・紙・紙加工品製造業は36.6%減(71社→45社)と大幅に減少した。コロナ禍で在宅勤務、リモートなどデジタル化が浸透し、ビジネス環境の激変で起業マインドが冷え込んだようだ。また、通信・放送業は5.3%減(337社→319社)だった。細分化すると、放送業が57.6%減(26社→11社)だった。通信と放送の融合が進むなか、放送を指向する新設法人数にかつての勢いはみられない。
 政府が推し進める創業支援は、「民間活力を高めていくためには、地域の開業率を引き上げ、雇用を生み出し、産業の新陳代謝を進めていくことが重要」(創業支援/創業機運醸成のガイドライン)との認識が根底にある。ただ、2021年の新設法人数が最も多い業種は、学術研究,専門・技術サービス業の2万486社(前年比9.2%増)だ。このうち、経営コンサルタント業、純粋持株会社などが含まれる専門サービス業が1万6,165社(同8.6%増)で、これらが地域経済の活性化にどう結びつくのか注目すべきだろう。
 2021年の倒産は6,030社(前年比22.4%減)、休廃業・解散は4万4,377社(同10.7%減)で大幅に減少した。コロナ禍で矢継ぎ早に実施された政府の資金繰り支援策について、「廃業を思いとどまらせる効果があった」と回答した小規模事業者は65.7%にのぼる(2022年版小規模企業白書、調査:三菱UFJリサーチ&コンサルティング)。創業支援への取り組みとコロナ禍の緊急避難的な支援が「代謝なき新設」を招いた側面もあり、今後の支援策のあり方も問われている。

人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

制御機器メーカーのIDEC(株)が早期退職募集を実施=国内従業員の300人が退職

制御機器メーカーのIDEC(株)(TSRコード:570011370、大阪府、東証プライム)がセカンドキャリア支援制度を実施し、今年6月までに国内従業員の約300人が退職していたことが東京商工リサーチの取材でわかった。

2

  • TSRデータインサイト

上場企業の「早期・希望退職」募集 1-8月で1万人超え 募集の大型化で前年同期比1.4倍増、前年1年間を上回る 

今年1月から8月31日までに判明した上場企業の「早期・希望退職」募集の対象人数が、1万人を超えた。募集の大型化が目立ち、3年ぶりに1万人を超えた2024年の年間募集人数1万9人をすでに上回った。

3

  • TSRデータインサイト

2025年1-8月の「人手不足」倒産が237件 8月は“賃上げ疲れ“で、「人件費高騰」が2.7倍増

2025年8月の「人手不足」が一因の倒産は22件(前年同月比37.5%増)で、8月では初めて20件台に乗せた。1-8月累計は237件(前年同期比21.5%増)に達し、2024年(1-12月)の292件を上回り、年間で初めて300件台に乗せる勢いで推移している。

4

  • TSRデータインサイト

分配金遅延の「みんなで大家さん」、出資者が返金求め訴訟提起へ

不動産投資商品「みんなで大家さん」の出資者への分配金が遅延している問題で、投資商品を扱う企業に対して5名の出資者が1億円の返還を求め、東京地裁に訴訟を提起する。出資者側の代理人事務所は、リンク総合法律事務所。

5

  • TSRデータインサイト

銀行員の年収、過去最高の653万3,000円 3メガ超えるトップはあおぞら銀行の906万円

国内銀行63行の2024年度の平均年間給与(以下、年収)は、653万3,000円(中央値639万1,000円)で、過去最高となった。前年度の633万1,000円(同627万5,000円)から、20万2,000円(3.1%増)増え、増加額は3年連続で最高を更新した。

TOPへ