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フリージアグループ・佐々木ベジ会長 単独インタビュー(後編)投資リターンは売却ではなくキャッシュフロー

  佐々木ベジ・取締役会長率いるフリージア・マクロス(株)(以下フリージア社)は2021年4月以降、婦人フォーマルの(株)東京ソワール(以下ソワール社)の株を買い増した。
 フリージア社はソワール社を持分法適用会社化する意向を示し、2021年12月末現在で19.23%を持つ筆頭株主となった。
 ソワール社は2022年3月29日の定時株主総会で、フリージア社による大量買付に対する買収防衛策の承認を求めた。フリージア社はソワール社の小泉純一・代表取締役社長の解任など3項目を提案した。注目を集めた株主総会ではソワール社の買収防衛策が可決され、フリージア社の株主提案はいずれも否決となった。

―ソワール社との攻防が注目を集めた

 ソワール社は、在庫に経営の厳しさが表れている。2020年12月期末の在庫が約55億円。量で考えると1年分の売上を超える在庫を期首から抱えている。礼服は流行りに左右されにくいとはいえ、これが何年も継続することは異常だ。
 株主総会では、「僕らの(株主)提案を引っ込めるから、お互いに人を出してチームを作って在庫調査をさせてほしい。その上で対策を考えよう」と提案した。だが、取り合ってくれなかった。おまけに虎の子の青山のビルも売却してしまった。虎の子の財産を売るのであれば、それを資金繰りに回し、借入返済は一旦棚上げしてもらい、在庫を償却して損金を立て、その間に(不動産売却で)手に入れた資金を元手にダウンサイジングすべきだ。
 こういう時代だから銀行も協力してもらえると思うが、ソワール社はそれをしない。
 株主総会の終了後、創業家から手紙がきた。実はもともと、調査チームを立ち上げる提案は創業家からのものだった。創業家は大きな危機感を持っている。
 創業家は現在、大株主ではない。だが、フリージア社にすべてを任すことが良いかどうかは別としても、今の体制ではダメということは認識している。特に、在庫に関しては以前から問題視していたようだ。
 創業家から総会後に本音で話し合ったらどうだとの提案を受け、ソワール社に連絡した。ソワール社もお会いしましょうとは言っているが、まだ実現していない。早く会って話をしたいと思っている。

  • 取材日は4月下旬

ベジ会長

‌取材に応じる佐々木ベジ会長

-ソワール社の開示資料にはフリージア社を拒否する文言が並ぶ

 これは彼らが書いたというより、彼らがお金を払って雇った弁護士が考えたものだろう。弁護士を立てるにも多額の費用がかかると思うが、このようなことをしてももったいないだけだ。

―フリージアグループの今後について

 グループには多くの分野があり、手が回っていない部分もあるが、そろそろ方向性をまとめて一つに機能するようにしていきたい。
 方向性としてはSDGsだ。低炭素社会の実現に向けてグループの力を結集させたい。
 例えば、アパレルビジネスは標準化して生産性を追求できる分野と、それ以外に分けて考える。ファッション性を伴わないものは標準化できる。消費者自身のデータを作り手と共有し、ビッグデータとして活用すれば、見込み生産によるムダやムラを削減でき、資源の無駄遣いだけではなく、CO2排出抑制にも繋がる。
 標準化すべき商品は、日本風に言えば「ケの日」の消費だ。ケの日の商品はコロナ禍でもよく売れたが、デパートは「ハレの日」の商品が多いため苦戦する。ハレの日の商品は感性を楽しむものだ。両者を使い分け、ケの日の商品の生産性を上げ、浮いたお金でハレの日のオーダーメイドを作るという消費になれば、パイは減らず、作り手の付加価値も高まる。
 かつて日本は作り手を大事にし、感謝しつつ消費していた。また、作り手側にも高い文化があった。消費者は「神様だ」と威張らず、消費者が生産性向上に協力していく姿勢が重要だ。消費者と作り手による協力を生産や流通に取り入れることこそ、我々グループが掲げる「配給」(顧客参加型の製造供給システム)の理念だ。
 友情や愛情、正義といったものからお金が生み出されれば、お金自体の質が上がる。質のいいお金を作り、省資源、低炭素社会を実現することが、我々グループの求めることだ。巷に流れる噂とはかけ離れているかもしれないが(笑)。

  • 「日常」の意味

―再建依頼の状況は。また、投資回収やリターンの考え方は

 今は(支援受け入れの)オファーを出していないので再生依頼は来ない。抱えている案件の対応で精一杯だ。企業の売買による利益は考えない。事業で投資以上のキャッシュが生み出せれば、グループの収入となるので、売却による投資の出口をわざわざ探す必要はない。会社を成長させ、キャッシュフローが高まれば株価ではなく、それ自体がご褒美になる。まだまだ小さな会社で散らかしっぱなしの部分があるが、これから少しずつ整理してグループの理念である「配給」の実践が見える形になれば、と思っている。


 東京商工リサーチの佐々木会長の単独インタビューは2度目となる。前回(2020年11月)からはコロナ禍の長期化、ロシア・ウクライナ情勢、円安、資材高など、事業環境は大きく変化した。
 そうしたなかで、フリージアグループは、市場で大きな話題を振りまき、活発な動きをみせている。経営環境の厳しさについて、佐々木会長は「いずれは落ち着くところに落ち着く」との見方を示す。かつて兜町の風雲児として知られた海千山千の経験が、その言葉に不思議な説得力を与える。今後も佐々木会長の動きに目を離せない。

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2022年5月12日号掲載予定「WeeklyTopics」を再編集)

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